石門公園

石門(親)

阿南市長生町大原 2009年10月11日
北緯33度54分15秒 東経134度37分50秒 (WGS 84)


石門公園はさほど有名な場所ではない。ロッククライミングのゲレンデ利用者、あるいは津峯山登山者が時たま訪れるぐらいの場所である。しかし、そのひなびた田舎風景と荒々しい岩山との調和の妙が、一部の人々の心を惹いている。

なお公園と名がつくが、ベンチや遊歩道があるわけではない。駐車場すらない。どちらかというと自然公園の部類に近い。




石門公園を訪れようと思ったのは、ほかでもない、そこに滝があるらしいと情報を得たからである。とりあえずカメラの準備をして、阿南市長生町へと向かった。

県道27号線から石門公園へ行くには、長生橋か津乃峰橋を渡ることになる。長生橋は平成16年に架け替えられたが、津乃峰橋も新しくなっていた(右写真)。平成20年に架け替えられたようだ。2車線+歩道付きとなり、舗装も新しい。

しかし橋を渡ってからは以前と変わりはない。この先、駐車場はないので、橋近辺で駐車できそうな場所を探し、後は歩いて石門公園へと向かうことにした。


石門公園へと向かう車道はご覧の通りである。ほぼ完全1車線。離合困難な道であるが、地元の車が通るぐらいで交通量は少ない。


てくてく車道を歩いていくと、低い峠にさしかかる。津乃峰橋から400mほどであろうか。その峠の左手に古い標識が立っていた。「石門公園」と書かれた手作りの小さな木製標識である。下の方に「阿南市 教育委員会女性ボランティア」という文字も見えるが半分消えかかっている。



標識からさらに歩いていくと左手の視界が開け、岩山が現れる。荒々しい岩々が特徴的でなかなか見事である。実はこの岩山は石門の一部となっている。

石門とは「左右から岩山がそばだって門のようになっている」ことから名付けられたそうだ。車道をもう少し進んで、その岩山を見渡した写真が、上のタイトル写真である。タイトル写真を見ると、左右に門のように岩山が対峙しているのがわかり、「なるほど、石門だな。」と納得させられる。

地平部と岩山の頂上の標高差は約55m。なかなかの規模である。なお門の開いた部分はどうなっているか気になるが、想像通りそこには川が流れていた。ここに滝があるのかなと、ちょっと寄り道してみたが、残念ながら滝はなかった。

ところで石門公園には石門状の地形が2箇所ある。1つがこの岩山近辺で、もう1つはこの先の「ひょうたん池」にある石門である。国土地理院発行の地形図には、ひょうたん池部分に「石門」と印刷されているが、規模的には、こちらの岩山の石門の方が圧倒的に大きい。地元の方に確認したところ、石門と言えばこの大きな岩山ほうを指すとおっしゃっていた。
ここでは、便宜上、岩山の石門を親、ひょうたん池の石門を子と呼ぶことにしよう。

余談であるが、親石門の南端には民家のテレビアンテナが立っている。荒々しい岩山とテレビアンテナの取り合わせは、なかなかユーモアではあるが、岩山の風景写真を撮影する際は、フレーミングに注意した方がいいだろう。



先に進もう。車道をさらに歩いていくと、津乃峰橋から1kmあまりで「ひょうたん池」につく。池の手前に石門公園の説明板がある。内容は以下の通りである。


   石門公園
 左右から岩山がそばだって門のようになっ
ているところから石門という。ひょうたん池
の深く青い水面に断崖や樹々が映し出され、
まさに静寂、幽玄の別天地である。古来より
阿波の名勝とされていた。

説明板はかなり古いもので倒れかかっていた。この日のひょうたん池は、池の半分がヒシに覆われ、「深く青い水面」に「断崖や樹々が映し出される」部分は少なかったが、それでも「静寂、幽玄」の文は、いまでも通じるものがある。


さて、このひょうたん池の出口部分が、実は滝状になっている。これが通称「石門の滝」と呼ばれている滝であった。滝の落差は約4m、小さな滝である。滝の横には石積みがあり、また滝口には車道が走っている。このためこの滝は人工の滝ではないかと思ったのだが、造瀑岩を見ると自然岩のようでもある。想像であるが、元の地形をうまく利用して整備された池と滝なのではないかと思った。


滝上の車道付近から池を見ると、左の写真のような大岩が見える。この大岩が石門の一部となっている。

ひょうたん池の名の通り、池の形はひょうたん形であるが、そのくびれ部分に石門がある。この石門は親石門と比べてスケールはずいぶん小さいが、確かに石門状となっている。

子石門の様子は、車道をさらに終点まで進んだ場所から池を見返した時にはっきりする。(右の写真)。池を挟んで大岩が対峙しているのがよくわかるだろう。



滝から、ひょうたん池沿いに車道を300mほど進むと車道は終点となり、正玄寺墓苑に着く。その手前から南東方向を見ると、すぐ近くに津峯山の端正な山立ちが見える。
なるほど、ここまで来たら登りたくなる山だなと思う。 ひょうたん池近辺には3軒の民家がある。滝横に1軒、池横に1軒、そして墓苑横に1軒である。津峯山の登山道は、池横の1軒脇から始まっている。この登山道を歩いていけば石の鳥居が出迎えてくれるらしいが、今日はここで引き返すことにした。

石門公園とは以上のような場所である。観光地としての整備はほとんどなく、昔ながらの田園と山里の風景美、そして目を見張る岩山を楽しむことができる。今回は確認できなかったが、藤の花も咲くらしい。皆さんはどう思われたであろうか。

最後に「阿波名勝案内」再刊(編者 石毛賢之助 大正5年発行)書籍の、「石門」の説明を載せて終わりとしたい。

石門    長生村大字大原にあり、両崖削るが如く相迫りて恰かも門闕の観を爲し、一路僅かに
南に通じ渓水其間を流る、入れば則ち平田開けて群山これを環匝す、猶行く事三百歩両山又對立して
池水を擁し、山は漸く嶮しく水はu深し、津峯に登らんとする者は其東崖に沿うて小徑を辿るべく、
俯瞰すれば夏猶寒きを覺ゆ、山嶺迄約十八町と注せらる。
  打合し石の雫や寒の月    李ト


インデックスに戻る