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 PART  10

  
嗚呼、上高地・・・(その2)



2000年 3月 5日 (日)  啓蟄

上高地・安曇野

 
それは一瞬の出来事だった。
なんのことはない、「すってんころり」である。
宙に浮いた後の見事な臀部着地。
絵に描いたような結末。
偶然にしては出来過ぎである。
背中にしょった三脚とストックのおかげで大事には至らず、
被害はつぶれたおにぎりだけにとどまった。
つらいことが思い出に変わった。

  再び車中の人となり、お腹も満たされ、
ようやく冷静にこの数時間の出来事を振り返ることができた。
こうして無事でいられることの幸せをかみしめる。
時に人は、引き返すことの勇気を求められることを知った。

  上高地に別れを告げた我々は、一路安曇野を目指す。
写真では見たことがあったが、訪れるのは初めてである。
窓外に目をやると、懐かしい日本の原風景が広がり・・・と言いたいところだが、
肝心なところで眠ってしまったらしく、
気づくとすでにそこは駐車場であった。
大王わさび農場である。

  わさびというと、人里離れた山中の小さな沢に、
ひっそりと自生しているものと思っていたのだが、
ここはかなり大規模な、開かれた農園だった。
夜明けはとっくに過ぎていたが、
それでもまだ余韻があり、
朝のしっとりとした空気があたりを満たしていた。
撮影開始である。

  青葉を包み込むように流れる清水は、
対岸に昇った太陽を映して金色に輝く。
整然と並んだわさびの畝は直線的でありながらも、
ふと目をやると、彼方へ向かって曲線的に延びている。
不思議な融和感である。
この相反する形状を画面に収めようとするが、
これがなかなか難しい。
悩んでいるのは私だけなのだろうか。

  いつもの如く、皆よりワンテンポ遅れての行動をとりながら
それでも粘って、橋の上から最後の一枚。
観光バスの到着でにわかに増え始めた人の流れに逆行して車へ。
来園の記念に、わさびソフトクリームを食す。
さわやかな春の味がした。

  こんなに穏やかな時間の流れに身を委ねると、
ほんの数時間前の出来事がまるで夢幻であったかのように感じられる。
それが現実であったと教えてくれるのは、
ちょっぴり疲れたこの足だけである。
と言いつつも体は正直で、安心しきった私はあっさりと睡魔に降参し、
我が家への直行便に揺られたのであった。

  こうして、私の大規模なアイゼンデビュー戦は幕を閉じた。


                        
                 
                       

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