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ヨシュア記  No. ]U 土地の割り当て

 16章はヨセフ族の一派エフライムの割り当て地について書かれています。
 17章はヨセフのもう一つの部族マナセの割り当て地についてですが、興味深いのは次の箇所です。
17:3 ところが、マナセの子マキルの子ギルアデの子ヘフェルの子ツェロフハデには、娘だけで息子がなかった。その娘たちの名は、マフラ、ノア、ホグラ、ミルカ、ティルツァであった。 17:4 彼女たちは、祭司エルアザルと、ヌンの子ヨシュアと、族長たちとの前に進み出て、「私たちの親類の間で、私たちにも相続地を与えるように、主はモーセに命じられました。」と言ったので、ヨシュアは主の命令で、彼女たちの父の兄弟たちの間で、彼女たちに相続地を与えた。
 女性の跡継ぎしか居ない場合をどうするか。それは、民数記に出てきます。この時代に、女性の権利が守られていることは特筆すべきことです。
■民26:33参照.ツェロフハデには息子がなく,娘たちが相続地を要求した.5人の娘の名は,この箇所と民26:33,27:1,36:11と都合4回全員の名前で出ている.女性は自分と同じ部族以外の男性と婚姻関係に入らないことを前提として(そうでないと土地が他部族に移ってしまう),相続が許された.ここで女性が単なる家財や動産奴隷とは見なされていないことは,婦人観の発達において注目すべきである。
 さらに、ヨセフ族は大人数だったので土地が狭すぎるとヨシュアに文句を付けます。
17:14 ヨセフ族はヨシュアに告げて言った。「主が今まで私を祝福されたので、私は数の多い民になりました。あなたはなぜ、私にただ一つのくじによる相続地、ただ一つの割り当て地しか分けてくださらなかったのですか。」 17:15 ヨシュアは彼らに言った。「もしもあなたが数の多い民であるなら、ペリジ人やレファイム人の地の森に上って行って、そこを自分で切り開くがよい。エフライムの山地は、あなたには狭すぎるのだから。」 17:16 ヨセフ族は答えた。「山地は私どもには十分ではありません。それに、谷間の地に住んでいるカナン人も、ベテ・シェアンとそれに属する村落にいる者も、イズレエルの谷にいる者もみな、鉄の戦車を持っています。」 17:17 するとヨシュアは、ヨセフ家の者、エフライムとマナセにこう言った。「あなたは数の多い民で、大きな力を持っている。あなたは、ただ一つのくじによる割り当て地だけを持っていてはならない。 17:18 山地もあなたのものとしなければならない。それが森であっても、切り開いて、その終わる所まで、あなたのものとしなければならない。カナン人は鉄の戦車を持っていて、強いのだから、あなたは彼らを追い払わなければならないのだ。」
 ヨシュアは自分たちで他民族を征服して取ったらよかろうといいます。するとカナン人は鉄の戦車を持っているから無理だといいます。ヨシュアは「何を言っているのか。しっかりして奪うのだ」と戒めます。何となくヨセフ族は特権階級だったような雰囲気で、おぼっちゃんのようなひ弱さを感じますが、それは先祖のヨセフが他の兄弟に勝っていたことから優越感を持っていたのでしょう。
 当時の兵器の主流はまだ青銅器で、イスラエルには鉄の精錬技術もなく鉄の戦車は非常に高価なものでした。今で言うなら核兵器のような画期的な武器だったのです。
■てつ 鉄 (1)〈ヘ〉バルゼル.旧約に75回記されている(創4:22等).ヒッタイト語からきたことばである.(斧の)頭(申19:5),斧(イザ10:34),斧の頭(U列6:5)とも訳されている.(2)〈ア〉パルゼル(ダニ2:33,45,4:15等).(3)〈ギ〉シデーロス(黙18:12).
パレスチナではアジュルーン地域,ムガーレト・エル・ワルデー,フェイナンなどに産した.比重7.86,硬度5で,磁鉄鉱,赤鉄鉱,褐鉄鉱などより精錬する.これらの鉱石はいずれもありふれた資源である.また母岩の風化による分解などによって鉄分が流れ,河床や海浜にたまった砂鉄があった.古代の最も重要な鉄の供給地は小アジヤであった.前3000年には鉄の短刀があったとされるが,おそらく隕鉄(主成分が鉄とニッケルから成る隕石)によるものと考えられる.古代においてはその希少価値のため,前18世紀には金の5倍,銀の40倍とされたと言う.鉄を精錬する技術は,小アジヤのヒッタイト人によって前2千年期の中頃発明された.パレスチナにおいて鉄器時代が始まったのは前1200年頃のことである.最初はペリシテ人が鉄の独占に苦心した(Tサム13:19‐22).ダビデがペリシテを制圧すると,イスラエルも鉄を利用することができるようになった.鉄鉱石はパレスチナでも採鉱されたが,タルシシュ,ギリシヤなどから輸入した.鉄鉱石は炉で吹き分けられた(申4:20,T列8:51).地面に造られた炉に木炭の火をおこし,その上に木炭と鉄鉱石を層状に積み重ね,ふいごで風を送った(エゼ22:20). 鉄は,さびて土にかえる金属として卑しめられたが,戦争で勝負を決するのも鉄の武器であった.カナン人は鉄の戦車を持っていた(ヨシ17:16).槍の穂先や胸当てのような武器も造られた(Tサム17:7,黙9:9).建築用具として,釘,とびらの留め金(T歴22:3)に使用され,門(使12:10),かんぬき(詩107:16,イザ45:2),ちょうつがいなども造られた.また彫刻用具として(ヨブ19:24,エレ17:1)も用いられ,農機具としては,つるはし(Uサム12:31),打穀機(アモ1:3)などにも使用された.
18:1 さて、イスラエル人の全会衆はシロに集まり、そこに会見の天幕を建てた。この地は彼らによって征服されていた。
 シロという地名はこの後、旧約聖書の中で何度も出てきます。非常に重要な地名です。エルサレムに神殿が建設されるまで契約の箱はここにありました。
■シロ (〈ヘ〉siloh, silo, silo) エフライム地方にある町.ベテルの北北東およそ15キロ(直線距離)にあるセイルンの遺跡がそれである.エルサレムからベテルを経てシェケム(現在のナブルス)へ北上する大路の東にある(士21:19). シロが位置しているのは,エフライム山地の中にある小平野で海抜は低く,豊かな農産物が期待できる地であり,すでに中期青銅器時代(前2200―1550年頃)に人が居住した跡がある.
イスラエルのカナン占領作戦中は,司令部のおかれたギルガルが主要な地点だったが,征服が一段落した後はシロに本営を移し,会見の天幕を建てた(ヨシ18:1).この時からシロはイスラエルの宗教と政治の中心地となった(ヨシ18:8‐10,19:51,22:9,12).シロが選ばれた理由は明らかではない.たとえばシェケム(ヨシ24:1,25)やベテル(士20:26)のように,族長たちにまつわる伝承もあって聖所とされた地が同時代にあった.
会見の天幕は以来シロに安置されて,移動性を失っていったようである.士18:31では「神の宮」(〈ヘ〉ベース・ハーエローヒーム)と呼ばれ,ハンナの時代には「主の宮」と呼ばれた(Tサム1:9).ここでの「宮」は〈ヘ〉ヘーカルで,王宮などにも使われる呼称である.
このような固定化は,祭儀が盛大になるという方向へ向かうと共に,内容の世俗化という傾向をたどったようで,士21章の記事や,Tサム2章のエリの子たちにかかわる醜聞などは,そのような状況を察知させるものである.それでもなおしばらく,シロの名声はエリの存在により,特にサムエルの存在によって保たれた(Tサム3:21).
  ペリシテ人の登場はイスラエルを脅かし,やがてアフェクの決戦(Tサム4:1)によって,イスラエルは決定的に敗北し,その際契約の箱が奪われた(Tサム4:11).サムエル記には報告されていないが,この時にシロの神殿も町もろともペリシテ軍によって破壊されたらしいことが,詩78:60,エレ7:12,14,26:6‐9などによって推察される.この事件は,後年,エルサレムとその神殿の崩壊の前例として,エレミヤの預言の中で引用されたという点で,重要な意味を持つ.
  南北両王国の分裂の預言をしたアヒヤは,シロの人であった(T列11:29).アヒヤは晩年もシロに住んでおり(T列14:2‐4),このことはシロの町が復興し,何らかの形で聖所が再建されたかもしれないと想像させるが,たといそうであったとしても,その宗教的地位は,エリ時代とは比較にならぬほど低下していたであろう(エレ41:5).
18:2 イスラエル人の中で、まだ自分たちの相続地が割り当てられていない七つの部族が残っていた。 18:3 そこで、ヨシュアはイスラエル人に言った。「あなたがたの父祖の神、主が、あなたがたに与えられた地を占領しに行くのを、あなたがたはいつまで延ばしているのか。 18:4 部族ごとに三人の者を選び出しなさい。彼らが立ってその地を行き巡るように、私は彼らを送り出そう。彼らはその地についてその相続地のことを書きしるし、私のところに来なければならない。 18:5 彼らは、それを七つの割り当て地に分割しなさい。ユダは南側の彼の地域にとどまり、ヨセフ家は北側の彼らの地域にとどまらなければならない。 18:6 あなたがたは、その地の七つの割り当て地を書きしるし、それをここの私のところに持って来なければならない。私はここで、私たちの神、主の前に、あなたがたのために、くじを引こう。 18:7 しかしレビ人には、あなたがたの中で割り当て地がない。主の祭司として仕えることが、その相続地だからである。また、ガドと、ルベンと、マナセの半部族とは、ヨルダン川の向こう側、東のほうで、すでに彼らの相続地を受けている。それは、主のしもべモーセが、彼らに与えたものである。」
18:8 そこで、その者たちは行く準備をした。ヨシュアは、その地の調査に出て行く者たちに命じて言った。「あなたがたは行って、その地を行き巡り、その地について書きしるし、私のところに帰って来なさい。私はシロで、主の前に、あなたがたのため、ここでくじを引こう。」 18:9 その者たちは行って、その地を巡り、それを町ごとに七つの割り当て地ごとに書き物にしるし、シロの宿営にいるヨシュアのもとに来た。 18:10 ヨシュアはシロで主の前に、彼らのため、くじを引いた。こうしてヨシュアは、その地をイスラエル人に、その割り当て地によって分割した。
 エフライム、マナセ、レビ、ガド、ルベンの5部族以外の7部族は、まだ割り当て地が決まっていませんでした。そこで調査団が送られました。
 この時、すでにこれら、カナンの地がすべてイスラエルの占領するところとなっていたわけではないようです。まだ先住民族との戦闘は続いていたのでしょう。