ホームページ・メッセージ101003 小 石 泉
民数記 No. ]W カナンの前で
前回、いよいよ約束の地カナンに入る前に、それぞれの相続地について語られたわけですが、ここに問題が起こりました。それは男性の子供を産まないで死んだ父の娘たちからの訴えです。この当時は、女性は家系を継ぐことは出来ませんでした。これはイスラエルだけではなく、当時の世界では当たり前のことだったのです。女性は嫁ぐか、誰か親戚の庇護の元で暮らすのでした。実際、ユダヤ人の祈りの中に「女に生まれなかったことを感謝します」と言うのがあるそうです。それほど低くされていたのです。
しかし、ここに画期的な掟(おきて)が示されます。女性の地位の向上と確立があったのです。
27:1 さて、ヨセフの子マナセの一族のツェロフハデの娘たち――ツェロフハデはヘフェルの子、ヘフェルはギルアデの子、ギルアデはマキルの子、マキルはマナセの子――が進み出た。娘たちの名はマフラ、ノア、ホグラ、ミルカ、ティルツァであった。 27:2 彼女たちは、モーセと、祭司エルアザルと、族長たちと、全会衆との前、会見の天幕の入口に立って言った。 27:3 「私たちの父は荒野で死にました。彼はコラの仲間と一つになって主に逆らった仲間には加わっていませんでしたが、自分の罪によって死にました。彼には男の子がなかったのです。 27:4 男の子がなかったからといって、なぜ私たちの父の名がその氏族の間から削られるのでしょうか。私たちにも、父の兄弟たちの間で所有地を与えてください。」
27:5 そこでモーセは、彼女たちの訴えを、主の前に出した。
27:6 すると主はモーセに告げて仰せられた。 27:7 「ツェロフハデの娘たちの言い分は正しい。あなたは必ず彼女たちに、その父の兄弟たちの間で、相続の所有地を与えなければならない。彼女たちにその父の相続地を渡せ。 27:8 あなたはイスラエル人に告げて言わなければならない。人が死に、その人に男の子がないときは、あなたがたはその相続地を娘に渡しなさい。 27:9 もし娘もないときには、その相続地を彼の兄弟たちに与えなさい。 27:10 もし兄弟たちもいないときには、その相続地を彼の父の兄弟たちに与えなさい。 27:11 もしその父に兄弟がないときには、その相続地を彼の氏族の中で、彼に一番近い血縁の者に与え、それを受け継がせなさい。これを、主がモーセに命じられたとおり、イスラエル人のための定まったおきてとしなさい。」
次に神様はモーセの死について語られます。
27:12 ついで主はモーセに言われた。「このアバリム山に登り、わたしがイスラエル人に与えた地を見よ。 27:13 それを見れば、あなたもまた、あなたの兄弟アロンが加えられたように、あなたの民に加えられる。 27:14 ツィンの荒野で会衆が争ったとき、あなたがたがわたしの命令に逆らい、その水のほとりで、彼らの目の前に、わたしを聖なる者としなかったからである。」これはツィンの荒野のメリバテ・カデシュの水のことである。
この場所は現在のヨルダンのガリラヤ湖の東側にある丘陵地帯です。聖書辞典によれば「死海の水面から平均1000メートルの高地からさらに200メートル隆起している」とありますから海抜は200メートルほどの高さですが、ガリラヤ湖からは1200メートルの高地になります。その主峰はネボ山でした。ここであなたは死ぬと言い渡されたのです。目の前に約束の地を見ながら、入ることは許されませんでした。それはツインの荒野で民衆が水を求めたとき、命じるべきところを、杖で叩いた失敗の責任を取らされたのです。厳しいと言えば厳しいですね。しかし、モーセにしてみれば自分の使命はここまでだという安心感、平安があったことでしょう。
そこでモーセは自分の後継者を定めてくださいとお願いします。
27:15 それでモーセは主に申し上げた。 27:16 「すべての肉なるもののいのちの神、主よ。ひとりの人を会衆の上に定め、 27:17 彼が、彼らに先立って出て行き、彼らに先立ってはいり、また彼らを連れ出し、彼らをはいらせるようにしてください。主の会衆を、飼う者のいない羊のようにしないでください。」
27:18 主はモーセに仰せられた。「あなたは神の霊の宿っている人、ヌンの子ヨシュアを取り、あなたの手を彼の上に置け。 27:19 彼を祭司エルアザルと全会衆の前に立たせ、彼らの見ているところで彼を任命せよ。 27:20 あなたは、自分の権威を彼に分け与え、イスラエル人の全会衆を彼に聞き従わせよ。
27:21 彼は祭司エルアザルの前に立ち、エルアザルは彼のために主の前でウリムによるさばきを求めなければならない。ヨシュアと彼とともにいるイスラエルのすべての者、すなわち全会衆は、エルアザルの命令によって出、また、彼の命令によって、はいらなければならない。」
27:22 モーセは主が命じられたとおりに行なった。ヨシュアを取って、彼を祭司エルアザルと全会衆の前に立たせ、 27:23 自分の手を彼の上に置いて、主がモーセを通して告げられたとおりに彼を任命した。
神様はモーセの忠実な従者ヌンの子を指名します。彼は「神の霊が宿っている」と言われています。幸いなことですが、ヨシュアはモーセのように完全に独立した指導者ではなくアロンの子エレアザルと対等の地位におかれました。言わば、宗教と政治の分離です。ウリムというのはトンミムとともに大祭司の胸当てのポケットに入れられた、物事を決定するくじ引きのようなものでした。
28章と
29章はレビ記の再録のようなところで色々な犠牲、祭り事の再確認ですので省略します。
30章はこれも女性に関することで、女性が断食や何かの物断ちをして祈るときには父や夫の許可なしには行ってはならないという戒めです。これは現在の感覚では理解しがたいかもしれませんが、神の秩序を示す点で覚えなければならないことでしょう。
31章ではミデヤン人への復讐について書かれています。バラクとバラムの策略によってイスラエルを堕落させたことへの報復を命じたのですが、これはモーセにとって耐え難い苦しみだったことでしょう。モーセの舅(しゅうと)イテロ(エテロ)の子孫たちも滅ぼされたのでしょうか。つらい決定だったと思います。特にバラムを殺しています。
31:1 主はモーセに告げて仰せられた。 31:2 「ミデヤン人にイスラエル人の仇を報いよ。その後あなたは、あなたの民に加えられる。」 31:3 そこでモーセは民に告げて言った。「あなたがたのうち、男たちは、いくさのために武装しなさい。ミデヤン人を襲って、ミデヤン人に主の復讐をするためである。 31:4 イスラエルのすべての部族から、一部族ごとに千人ずつをいくさに送らなければならない。」 31:5 それで、イスラエルの分団から部族ごとに千人が割り当てられ、一万二千人がいくさのために武装された。 31:6 モーセは部族ごとに千人ずつをいくさに送った。祭司エルアザルの子ピネハスを、聖具と吹き鳴らすラッパをその手に持たせて、彼らとともにいくさに送った。 31:7 彼らは主がモーセに命じられたとおりに、ミデヤン人と戦って、その男子をすべて殺した。 31:8 彼らはその殺した者たちのほかに、ミデヤンの王たち、エビ、レケム、ツル、フル、レバの五人のミデヤンの王たちを殺した。彼らはベオルの子バラムを剣で殺した。
彼らは女性と子供を殺すことに躊躇しました。このことをモーセは激しく叱責します。それは正に女性たちがイスラエルの男性を誘惑したからです。ただし、処女は殺しませんでした。これは、やはり性病などの危険があったからでしょう。
31:9 イスラエル人はミデヤン人の女、子どもをとりこにし、またその獣や、家畜や、その財産をことごとく奪い取り、 31:10 彼らの住んでいた町々や陣営を全部火で焼いた。 31:11 そして人も獣も、略奪したものや分捕ったものをすべて取り、 31:12 捕虜や分捕ったもの、略奪したものを携えて、エリコに近いヨルダンのほとりのモアブの草原の宿営にいるモーセと祭司エルアザルとイスラエル人の会衆のところに来た。 31:13 モーセと祭司エルアザルおよびすべての会衆の上に立つ者たちは出て行って宿営の外で彼らを迎えた。 31:14 モーセは軍勢の指揮官たち、すなわち戦いの任務から帰って来た千人の長や百人の長たちに対して怒った。 31:15 モーセは彼らに言った。「あなたがたは、女たちをみな、生かしておいたのか。 31:16 ああ、この女たちはバラムの事件のおり、ペオルの事件に関連してイスラエル人をそそのかして、主に対する不実を行なわせた。それで神罰が主の会衆の上に下ったのだ。 31:17 今、子どものうち男の子をみな殺せ。男と寝て、男を知っている女もみな殺せ。 31:18 男と寝ることを知らない若い娘たちはみな、あなたがたのために生かしておけ。
この後、ミデヤンから奪った戦利品が書かれています。それは膨大なものでしたが、詳細は読めば分かることなので省略します。兵士たちは7日間キャンプの外に止められました。これも衛生面の配慮と考えられます。
31:19 あなたがたは七日間、宿営の外にとどまれ。あなたがたでも、あなたがたの捕虜でも、人を殺した者、あるいは刺し殺された者に触れた者はだれでも、三日目と七日目に罪の身をきよめなければならない。 31:20 衣服、皮製品、やぎの毛で作ったもの、木製品はすべてきよめなければならない。」 31:21 祭司エルアザルは戦いに行った軍人たちに言った。「主がモーセに命じられたおしえのおきては次のとおりである。 31:22 金、銀、青銅、鉄、すず、鉛、 31:23 すべて火に耐えるものは、火の中を通し、きよくしなければならない。しかし、それは汚れをきよめる水できよめられなければならない。火に耐えないものはみな、水の中を通さなければならない。 31:24 あなたがたは七日目に自分の衣服を洗うなら、きよくなる。その後、宿営にはいることができる。」
ここには多くの家畜と共に人間の奴隷も出てきます。これは若い男性だったことでしょう。彼らは自発的に捧げものをしました。イスラエル側の戦死者は一人も居なかったとあります。
31:47 モーセは、このイスラエル人のものである半分から、人間も家畜も、それぞれ五十ごとに一つを取り出し、それらを主がモーセに命じられたとおりに、主の幕屋の任務を果たすレビ人に与えた。 31:48 すると、軍団の指揮官たち、すなわち千人の長、百人の長たちがモーセのもとに進み出て、 31:49 モーセに言った。「しもべどもは、部下の戦士たちの人員点呼をしました。私たちのうちひとりも欠けておりません。 31:50 それで、私たちは、おのおのが手に入れた金の飾り物、すなわち腕飾り、腕輪、指輪、耳輪、首飾りなどを主へのささげ物として持って来て、主の前での私たち自身の贖いとしたいのです。」
膨大な金も奪い取り、捧げられました。
31:51 モーセと祭司エルアザルは、彼らから金を受け取った。それはあらゆる種類の細工を施した物であった。
31:52 千人の長や百人の長たちが、主に供えた奉納物の金は全部で、一万六千七百五十シェケルであった。 31:53 従軍した人たちは、戦利品をめいめい自分のものとした。 31:54 モーセと祭司エルアザルは、千人の長や百人の長たちから金を受け取り、それを会見の天幕に持って行き、主の前に、イスラエル人のための記念とした。