ホームページ・メッセージ081221 小 石 泉
クリスマス
−神と人の逆さまの発想−
そのころ、全世界の住民登録をせよという勅令が、皇帝アウグストから出た。これは、クレニオがシリヤの総督であったときの最初の住民登録であった。それで、人々はみな、登録のため
に、それぞれ自分の町に向かって行った。ヨセフもガリラヤの町ナザレから、ユダヤのベツレヘムというダビデの町へ上って行った。彼は、ダビデの家系であり血筋でもあったので、身重になっている、いいなずけの妻マリヤもいっしょに登録するためであった。ところが、彼らがそこにいる間に、マリヤは月が満ちて、男子の初子を産んだ。それで、布にくるんで、飼葉おけに寝かせた。宿屋には彼らのいる場所がなかったからである。ルカ2:1〜7
クリスマスの物語ほど人間と神様の考え方の違いを見せ付けるものは無いと思います。まず、処女から子供が生まれます。そして、神の子、主の主、王の王と言われる方が、飼葉おけの中に生まれます。イスラエルの飼い葉おけは多くの場合岩をくりぬいた物です。木は非常に贅沢な素材ですから飼い葉おけなどには使わないと思います。冷たい石の上に枯れ草やわらを敷いて寝かせたのでしょう。布にくるむと言うのはイスラエルの習慣で赤ちゃんを包帯のような布でぐるぐる巻きにします。それにしても生まれたばかりのわが子を飼い葉おけに寝かせる母親の気持ちはどんなものでしょうか。
アウグストはジュリアス・シーザーの三人の後継者の一人で名をオクタヴィアヌスと言いました。アウグストとは“尊厳なる者”という称号です。多くの戦いの末にローマの全権力を掌握し、皇帝(インペラトウル・カエサル・アウグストウス)になりました。彼は全世界、当時の地中海沿岸を支配下に置き、その人口調査を命じました。この人口調査はクレニオがシリアの総督であったときのものだとルカは書いていますが、クレニオは二度シリアの総督になっており正確にはわかりません。また人口調査の勅令がローマ帝国の全版図に届くには数年の誤差があったと考えられます。しかし、私はダニエル書から紀元前四年と見ています。(詳しいことは別の機会に)
さて、この土地に、羊飼いたちが、野宿で夜番をしながら羊の群れを見守っていた。すると、主の使いが彼らのところに来て、主の栄光が回りを照らしたので、彼らはひどく恐れた。御使いは彼らに言った。「恐れることはありません。今、私はこの民全体のためのすばらしい喜びを知らせに来たのです。きょうダビデの町で、あなたがたのために、救い主がお生まれになりました。この方こそ主キリストです。あなたがたは、布にくるまって飼葉おけに寝ておられるみどりごを見つけます。これが、あなたがたのためのしるしです。」2:8〜12
ここにも驚くべき逆転の発想があります。イスラエル民族が三千年もの間、待ち焦がれていたメシヤの到来が伝えられたのは、王でもなく、祭司たちでもなく、無数の民衆でもなく、わずか数名の羊飼いたちでした! 羊飼いはイスラエルでは最も卑しい仕事でした。それは羊を飼う者は安息日を守れないからです。それで一般には子供や奴隷、異邦人などの職業でした。さげすまれ、人として認められないような“数名の”羊飼いにメシヤの訪れが伝えられたのです! 何と皮肉な! 全く人間の発想とは逆です。
さらに、その赤ちゃんの特徴は、黄金のベッドや絹の服ではありませんでした。まして多くの聖画にあるような、頭の上に金の輪が輝いているわけでもありませんでした。その赤ちゃんの特徴は「飼い葉おけに寝ている」だけでした!
すると、たちまち、その御使いといっしょに、多くの天の軍勢が現われて、神を賛美して言った。「いと高き所に、栄光が、神にあるように。地の上に、平和が、御心にかなう人々にあるように。」御使いたちが彼らを離れて天に帰ったとき、羊飼いたちは互いに話し合った。「さあ、ベツレヘムに行って、主が私たちに知らせてくださったこの出来事を見て来よう。」そして急いで行って、マリヤとヨセフと、飼葉おけに寝ておられるみどりごとを捜し当てた。それを見たとき、羊飼いたちは、この幼子について告げられたことを知らせた。それを聞いた人たちはみな、羊飼いの話したことに驚いた。しかしマリヤは、これらのことをすべて心に納めて、思いを巡らしていた。羊飼いたちは、見聞きしたことが、全部御使いの話のとおりだったので、神をあがめ、賛美しながら帰って行った。2:13〜20
何と絢爛たるスペクタクルでしょうか! どんなミュージカルもこれほど豪華な舞台をしつらえることは出来ないでしょう。前の聖書では「おびただしい」天の軍勢とありました。わずか数名の羊飼いの為に!? 信じられない話です。数千数万の観衆ではないのです。神様は何てことをなさるのでしょうか!
ルカは他の福音書記者と違って、実際にキリストと行動を共にした記録ではありません。その特徴はジャーナリストのように目撃者、体験者からの聞き取り調査によるものです。ですから彼は羊飼いと会ってその話を聞いたのです。ルカは医者ですから冷静な分析をしています。そしてこの小さな集団の目撃談はその後の世界に長く伝えられることとなりました。
その夜、ベツレヘム(パンの家)で何人の赤ちゃんが生まれたのでしょうか。命のパンである主イエスを、羊飼いたちは「飼い葉おけに寝ている」という唯一の手がかりだけで探し出したのです。「見たんだよ! すごかったよ。何百人と言う天使が現れたのさ。夜空が、真昼のようになってさ」。 興奮して話す羊飼いたちの真剣な言葉を人々は聞きました。
マリヤはお産の後のつかれで休んでいたことでしょう。しかし、静かにその話を聞きました。ガブリエルの来訪によって始まった、自分ではどうすることも出来ない運命のまにまに,神の御旨にゆだねて。「これらのことをすべて心に納めて、思いを巡らしてい」ました。この時、マリヤは15〜16歳ぐらいと言われています。なんと過酷ですさまじい使命だったことか。神の御子を産んだこの若い母に最大の敬意を表します。