Bible Land museum
バイブルランド博物館
創世記 ヨセフⅩ
50:1 ヨセフは父の顔に取りすがって泣き、父に口づけした。 50:2 ヨセフは彼のしもべである医者たちに、父をミイラにするように命じたので、医者たちはイスラエルをミイラにした。 50:3 そのために四十日を要した。ミイラにするにはこれだけの日数が必要だった。エジプトは彼のために七十日間、泣き悲しんだ。 50:4 その喪の期間が明けたとき、ヨセフはパロの家の者に告げて言った。「もし私の願いを聞いてくれるのなら、どうかパロの耳に、こう言って伝えてほしい。 50:5 私の父は私に誓わせて、『私は死のうとしている。私がカナンの地に掘っておいた私の墓の中に、そこに、必ず私を葬らなければならない。』と申しました。どうか今、私に父を葬りに上って行かせてください。私はまた帰って来ます、と。」
ヨセフは愛する父に別れを告げ、ファラオに葬りの願いをします。案外、見過ごされているのですがこれはある種の危険をはらんでいました。ヨセフが兄弟や部隊とともに、そのまま逃走しカナンに政権を建てることもありうるからです。
50:6 パロは言った。「あなたの父があなたに誓わせたように、上って行ってあなたの父を葬りなさい。」 50:7 そこで、ヨセフは父を葬るために上って行った。彼とともにパロのすべての家臣たち、パロの家の長老たち、エジプトの国のすべての長老たち、 50:8 ヨセフの全家族とその兄弟たちおよび父の家族たちも上って行った。ただ、彼らの子どもと羊と牛はゴシェンの地に残した。 50:9 また戦車と騎兵も、彼とともに上って行ったので、その一団は非常に大きなものであった。
イラスト： 渡辺 百合
ファラオの信頼は絶大でした。ファラオの高官たちや軍隊も共に行ったのです。反乱を防ぐ意図もあったかもしれませんが、そこまで考えるのは考えすぎでしょう。とにかくヨセフは非常に信頼され、エジプトで最も偉大な宰相でした。50:10 彼らはヨルダンの向こうの地ゴレン・ハアタデに着いた。そこで彼らは非常に荘厳な、りっぱな哀悼の式を行ない、ヨセフは父のため七日間、葬儀を行なった。 50:11 その地の住民のカナン人は、ゴレン・ハアタデのこの葬儀を見て、「これはエジプトの荘厳な葬儀だ。」と言った。それゆえ、そこの名はアベル・ミツライムと呼ばれた。これはヨルダンの向こうの地にある。 50:12 こうしてヤコブの子らは、命じられたとおりに父のために行なった。 50:13 その子らは彼をカナンの地に運び、マクペラの畑地のほら穴に彼を葬った。そこはアブラハムがヘテ人エフロンから私有の墓地とするために、畑地とともに買ったもので、マムレに面している。 50:14 ヨセフは父を葬って後、その兄弟たちおよび、父を葬るために彼といっしょに上って行ったすべての者とともに、エジプトに帰った。
「ゴレン・ハアタデ」というのはどこだかわかりません。ただ彼らはヤコブの希望通りにアブラハムの墓地に葬ったのです。「アベル・ミツライム」という言葉に注意してください。「ミツライム」というのはエジプトの古い呼び名です。そして「アベル」はあのアベルです。「エジプトの葬式」と言う意味になります。これは後々の語り草になるほど壮麗な葬式だったのでしょう。ヨセフは約束どおりエジプトに帰りました。
50:15 ヨセフの兄弟たちが、彼らの父が死んだのを見たとき、彼らは、「ヨセフはわれわれを恨んで、われわれが彼に犯したすべての悪の仕返しをするかもしれない。」と言った。 50:16 そこで彼らはことづけしてヨセフに言った。「あなたの父は死ぬ前に命じて言われました。 50:17 『ヨセフにこう言いなさい。あなたの兄弟たちは実に、あなたに悪いことをしたが、どうか、あなたの兄弟たちのそむきと彼らの罪を赦してやりなさい、と。』今、どうか、あなたの父の神のしもべたちのそむきを赦してください。」ヨセフは彼らのこのことばを聞いて泣いた。 50:18 彼の兄弟たちも来て、彼の前にひれ伏して言った。「私たちはあなたの奴隷です。」
父が死んだとき、兄弟たちは心配しました。私たちはヨセフに復讐され殺されるのではないか。人間は自分の器の大きさで物事を考えるものです。彼らはヨセフと言う人の大きさや寛容さを信じられませんでした。しかしヨセフはもう十分でした。あの夢の通りに父も兄弟たちも彼の前にひざまずき彼を拝んだのです。神の言われた通りになったのですから、それ以上何が必要でしょうか。ヨセフと兄弟たちの間にはあまりにも大きな地位の違いがあって、いまさら復讐する必要もなかったのです。
50:19 ヨセフは彼らに言った。「恐れることはありません。どうして、私が神の代わりでしょうか。 50:20 あなたがたは、私に悪を計りましたが、神はそれを、良いことのための計らいとなさいました。それはきょうのようにして、多くの人々を生かしておくためでした。 50:21 ですから、もう恐れることはありません。私は、あなたがたや、あなたがたの子どもたちを養いましょう。」こうして彼は彼らを慰め、優しく語りかけた。 50:22 ヨセフとその父の家族とはエジプトに住み、ヨセフは百十歳まで生きた。 50:23 ヨセフはエフライムの三代の子孫を見た。マナセの子マキルの子らも生まれて、ヨセフのひざに抱かれた。 50:24 ヨセフは兄弟たちに言った。「私は死のうとしている。神は必ずあなたがたを顧みて、この地からアブラハム、イサク、ヤコブに誓われた地へ上らせてくださいます。」 50:25 そうして、ヨセフはイスラエルの子らに誓わせて、「神は必ずあなたがたを顧みてくださるから、そのとき、あなたがたは私の遺体をここから携え上ってください。」と言った。 50:26 ヨセフは百十歳で死んだ。彼らはヨセフをエジプトでミイラにし、棺に納めた。
ヨセフの優しい言葉は、あの罪の女を許した、主イエスの優しい言葉を髣髴とさせるものです。ヨセフは人間的な発想より神への信仰による発想をする人でした。
ヨセフはミイラにされ、後にモーセがエジプトを出るとき持ち出されるまでエジプトに止まりました。
さて、こうして創世記を振り返ってみると、天地創造に始まり、ヤコブと言う、いかにも人間的な人の完成にまで至る、神様の壮大なご計画を見ます。創世記は聖書の苗床と言われますが、人類の創造と堕落、そして救済に至る神様の深遠で壮大なスケジュールに圧倒される思いです。
先日、私はイスラエルの貧しい人々を助けているBridge For Peaceと言う団体を主宰しているステーブンス･栄子先生から驚くべきお話を聞きました。それは終わりの時代に、アブラハム、イサク、ヤコブはもう一度復活して、イスラエルに戻ってくると言うのです。なぜなら、神様は彼らにカナンの地を与えると言う約束をされたが、彼らは実際にはそれを受け取っていなかった、だから、本当に約束の地をいただくのだと言うのです。これにはさすがの私もびっくりして開いた口がふさがりませんでした。それにしてもすごいことを言うものだと思いました。これはユダヤ人の考えなのでしょうか。私にはなんとも言えません、しかし、確かに聖書は常に文字通りに実現します。これからどれくらい生きられるか判りませんが、これらを心に留めて成り行きを見ていようと思います。
そして、もう一つ、改めて創世記を学んで感じたことは、創世記は女性の物語でもあるということでした。エバが知恵の木の実を食べてアダムに与えたから、人類の歴史が生まれました。その後も、男たちは女無しでは子孫を設けることは出来ませんでした。カインの子孫のレメクは妻たちに得意になって自分を誇っています。
また、神の子、堕落天使たちは「人の娘たちが、いかにも美しいのを見て、その中から好きな者を選んで、自分たちの妻とした。」為に人類のＤＮＡが汚され、それはノアの洪水を招きました。
さらにアブラハムはサラが産まず女だったために信仰を学びました。イサクの妻リベカも産まず女だったが祈ることによってエソウとヤコブを産みました。リベカはヤコブを溺愛して、エソウの長子の特権を奪う手助けをしました。ヤコブはレアとラケルと言う二人の妻の確執に悩まされましたが、そこから後のイスラエル十二支族が生まれました。
ルベンは父の妾と関係を結ぶという罪を犯し、長子の特権を失い、ユダは嫁のタマルによって子を設けると言う恥をかきました。レアの子のなかで唯一記録されている女の子、ディナの為に一つの部族が消滅しました。ヨセフはエジプトの高官の妻の欲望によって濡れ衣を着せられ牢獄につながれましたが、それがきっかけでエジプトの宰相となりました。
美しい糸、醜い糸、金糸銀糸、赤い糸、黒い糸、白い糸。複雑に織り成された綾布のように、西陣織のように神は歴史を織り成していかれたのです。
終わりに、前に私が訳した詩を加えることにしましょう。原作者は不明です。
時の機織り
人の命は時を織る 織機の中に横たわる
模様は誰にもまだ見えぬ けれども織り手とシャトルとは
常世の朝まで 飛びかける
シャトルの中には銀の糸 他のシャトルは金の糸
なぜか時には薄墨の 色がしばらく織りあがる
織り手は確かな目を持って シャトルの行き来を見つめては
巧みな模様を手際よく あせりもせずに織りあげる
神の確かな計らいの 模様は糸の明と暗
巧みな技に選ばれて 描き出される布の上
シャトルが飛び交い 走るとも 糸を見たとて魅力なく
金の糸とて同じこと 神のみぞ知る美しさ
織機が沈黙する前に シャトルが飛ぶのを止める前
神は模様を表して わけを聞かせてくださろう
薄墨色の糸さえも 織り手の巧みな手の中で
金糸銀糸に変わりなく 神の御旨の必需品