ホームページ・メッセージ080120 小 石 泉
Bible Land museum
バイブルランド博物館
創世記 ヤコブ 帰郷−3
33:1 ヤコブが目を上げて見ると、見よ、エサウが四百人の者を引き連れてやって来ていた。ヤコブは子どもたちをそれぞれレアとラケルとふたりの女奴隷とに分け、
33:2 女奴隷たちとその子どもたちを先頭に、レアとその子どもたちをそのあとに、ラケルとヨセフを最後に置いた。
33:3 ヤコブ自身は、彼らの先に立って進んだ。彼は、兄に近づくまで、七回も地に伏しておじぎをした。
33:4 エサウは彼を迎えに走って来て、彼をいだき、首に抱きついて口づけし、ふたりは泣いた。
33:5 エサウは目を上げ、女たちや子どもたちを見て、「この人たちは、あなたの何なのか。」と尋ねた。ヤコブは、「神があなたのしもべに恵んでくださった子どもたちです。」と答えた。
33:6 それから女奴隷とその子どもたちは進み出て、おじぎをした。 33:7 次にレ
アもその子どもたちと進み出て、おじぎをした。最後に、ヨセフとラケルが進み出て、ていねいにおじぎをした。
33:8 それからエサウは、「私が出会ったこの一団はみな、いったい、どういうものなのか。」と尋ねた。するとヤコブは、「あなたのご好意を得るためです。」と答えた。
33:9 エサウは、「弟よ。私はたくさんに持っている。あなたのものは、あなたのものにしておきなさい。」と言った。
33:10 ヤコブは答えた。「いいえ。もしお気に召したら、どうか私の手から私の贈り物を受け取ってください。私はあなたの顔を、神の御顔を見るように見ています。あなたが私を快く受け入れてくださいましたから。
33:11 どうか、私が持って来たこの祝いの品を受け取ってください。神が私を恵んでくださったので、私はたくさん持っていますから。」ヤコブがしきりに勧めたので、エサウは受け取った。
イラスト: 渡辺 百合
エソウは400人もの部隊を連れてやって来ました。だからヤコブは「兄に近づくまで、七回も地に伏しておじぎをした。」何とまあ卑屈な態度でしょうか。しかし、これは決して表面的な態度ではなく、心からの後悔によって謙虚さを学んで変えられたヤコブだったことはその後の彼の人生を見ると判ります。それにしてもヤコブの家中の人の分け方の露骨なこと。やはりラケルが一番好きだったのですね。
それにしてもエソウの男らしい態度はすばらしいです。ヤコブはエソウに多くの贈り物をしますが、そんなものでは消えない性質のものだったはずです。それなのに騙された悔しさも恨みもとっくに忘れて、弟を愛する気持ちで一杯です。良い兄貴ですね。「エサウは彼を迎えに走って来て、彼をいだき、首に抱きついて口づけし、ふたりは泣いた。」ちょっと歌舞伎の一場面のようです。
33:12 エサウが、「さあ、旅を続けて行こう。私はあなたのすぐ前に立って行こう。」と言うと、 33:13 ヤコブは彼に言った。「あなたもご存じのように、子どもたちは弱く、乳を飲ませている羊や牛は私が世話をしています。一日でも、ひどく追い立てると、この群れは全部、死んでしまいます。 33:14 あなたは、しもべよりずっと先に進んで行ってください。私は、私の前に行く家畜や子どもたちの歩みに合わせて、ゆっくり旅を続け、あなたのところ、セイルへまいります。」 33:15 それでエサウは言った。「では、私が連れている者の幾人かを、あなたに使ってもらうことにしよう。」ヤコブは言った。「どうしてそんなことまで。私はあなたのご好意に十分あずかっております。」 33:16 エサウは、その日、セイルへ帰って行った。 33:17 ヤコブはスコテへ移って行き、そこで自分のために家を建て、家畜のためには小屋を作った。それゆえ、その所の名はスコテと呼ばれた。 33:18 こうしてヤコブは、パダン・アラムからの帰途、カナンの地にあるシェケムの町に無事に着き、その町の手前で宿営した。 33:19 そして彼が天幕を張った野の一部を、シェケムの父ハモルの子らの手から百ケシタで買い取った。 33:20 彼はそこに祭壇を築き、それをエル・エロヘ・イスラエルと名づけた。
ここでヤコブがエソウと一緒に帰らなかったのは、これだけの人数の部族同士が一緒にいれば末端では何かのトラブルが起こり、抜き差しなら無い大事件になりかねないからでしょう。それは祖父のアブラハムとロトのことでも証明されています。ヤコブはまた、エソウトハは離れて暮らすつもりだったのです。エソウは今のヨルダンの野原にいましたが、ヤコブはパレスチナのほかの部族の近くに住むことにし野原を買いました。しかし、これがとんでもない事件のもととなります。
34:1 レアがヤコブに産んだ娘ディナがその土地の娘たちを尋ねようとして出かけた。 34:2 すると、その土地の族長のヒビ人ハモルの子シェケムは彼女を見て、これを捕え、これと寝てはずかしめた。 34:3 彼はヤコブの娘ディナに心をひかれ、この娘を愛し、ねんごろにこの娘に語った。 34:4 シェケムは父のハモルに願って言った。「この女の人を私の妻にもらってください。」 34:5 ヤコブも、彼が自分の娘ディナを汚したことを聞いた。息子たちはそのとき、家畜といっしょに野にいた。ヤコブは彼らが帰って来るまで黙っていた。 34:6 シェケムの父ハモルは、ヤコブと話し合うために出て来た。 34:7 ヤコブの息子たちが、野から帰って来て、これを聞いた。人々は心を痛め、ひどく怒った。シェケムがヤコブの娘と寝て、イスラエルの中で恥ずべきことを行なったからである。このようなことは許せないことである。 34:8 ハモルは彼らに話して言った。「私の息子シェケムは心からあなたがたの娘を恋い慕っております。どうか彼女を息子の嫁にしてください。 34:9 私たちは互いに縁を結びましょう。あなたがたの娘を私たちのところにとつがせ、私たちの娘をあなたがたがめとってください。 34:10 そうすれば、あなたがたは私たちとともに住み、この土地はあなたがたの前に解放されているのです。ここに住み、自由に行き来し、ここに土地を得てください。」 34:11 シェケムも彼女の父や兄弟たちに言った。「私はあなたがたのご好意にあずかりたいのです。あなたがたが私におっしゃる物を何でも差し上げます。 34:12 どんなに高い花嫁料と贈り物を私に求められても、あなたがたがおっしゃるとおりに差し上げますから、どうか、あの人を私の妻に下さい。」
普通なら美しい恋愛物語なのです。レアの子ディナは若い女の子らしく、他の部族の女の子たちと会いに行きました。ところがその部族の長の息子シェケムが、たまたまやってきたディナに一目ぼれしたのです。そして、ちょっと手荒に犯してしまったのですが、彼は真剣でした。結婚したいと父親に頼んで正式の結婚を申し込みました。しかし、これは紀元前2000年のロメオとジュリエットでした。「どんなに高い花嫁料と贈り物を私に求められても、あなたがたがおっしゃるとおりに差し上げますから、どうか、あの人を私の妻に下さい。」シェケムの熱烈な愛が伝わってきますね。しかし、この時からすでにイスラエル民族は他民族とは結婚しないと言う絶対的な規則が出来ていたのでしょう。
34:13 ヤコブの息子たちは、シェケムとその父ハモルに答えるとき、シェケムが自分たちの妹ディナを汚したので、悪巧みをたくらんで、 34:14 彼らに言った。「割礼を受けていない者に、私たちの妹をやるような、そのようなことは、私たちにはできません。それは、私たちにとっては非難の的ですから。 34:15 ただ次の条件であなたがたに同意しましょう。それは、あなたがたの男子がみな、割礼を受けて、私たちと同じようになることです。 34:16 そうすれば、私たちの娘たちをあなたがたに与え、あなたがたの娘たちを私たちがめとります。そうして私たちはあなたがたとともに住み、私たちは一つの民となりましょう。 34:17 もし、私たちの言うことを聞かず、割礼を受けないならば、私たちは娘を連れて、ここを去ります。」 34:18 彼らの言ったことは、ハモルとハモルの子シェケムの心にかなった。 34:19 この若者は、ためらわずにこのことを実行した。彼はヤコブの娘を愛しており、また父の家のだれよりも彼は敬われていたからである。 34:20 ハモルとその子シェケムは、自分たちの町の門に行き、町の人々に告げて言った。 34:21 「あの人たちは私たちと友だちである。だから、あの人たちをこの地に住まわせ、この地を自由に行き来させよう。この地は彼らが来ても十分広いから。私たちは彼らの娘たちをめとり、私たちの娘たちを彼らにとつがせよう。 34:22 ただ次の条件で、あの人たちは私たちとともに住み、一つの民となることに同意した。それは彼らが割礼を受けているように、私たちのすべての男子が割礼を受けることである。
34:23 そうすれば、彼らの群れや財産、それにすべての彼らの家畜も、私たちのものになるではないか。さあ、彼らに同意しよう。そうすれば彼らは私たちとともに住まおう。」 34:24 その町の門に出入りする者はみな、ハモルとその子シェケムの言うことを聞き入れ、その町の門に出入りする者のすべての男子は割礼を受けた。
ヤコブの息子たちは非常な怒りを持ちました、そして、ある提案をします。それは、ハモルの部族の男子が全員割礼を受けることでした。割礼と言うのはアブラハムが神から命じられたことで、男子の陰茎の皮の一部を切り取る行為です。今で言う包茎手術です。イスラエル人は、生後7日目に行いますが、まだ赤ちゃんの時なので痛いも何も判らないのですが、成人して、しかも麻酔無しで行うと、ものすごい激痛に数日間苦しむことになります。立ち上がることも出来ないほどだと言います。
34:25 三日目になって、ちょうど彼らの傷が痛んでいるとき、ヤコブのふたりの息子、ディナの兄シメオンとレビとが、それぞれ剣を取って、難なくその町を襲い、すべての男子を殺した。 34:26 こうして彼らは、ハモルとその子シェケムとを剣の刃で殺し、シェケムの家からディナを連れ出して行った。 34:27 ヤコブの子らは、刺し殺された者を襲い、その町を略奪した。それは自分たちの妹が汚されたからである。 34:28 彼らは、その人たちの羊や、牛や、ろば、それに町にあるもの、野にあるものを奪い、 34:29 その人たちの全財産、幼子、妻たち、それに家にあるすべてのものを、とりこにし、略奪した。 34:30 それでヤコブはシメオンとレビに言った。「あなたがたは、私に困ったことをしてくれて、私をこの地の住民カナン人とペリジ人の憎まれ者にしてしまった。私には少人数しかいない。彼らがいっしょに集まって私を攻め、私を打つならば、私も私の家の者も根絶やしにされるであろう。」 34:31 彼らは言った。「私たちの妹が遊女のように取り扱われてもいいのですか。」
ヤコブには12人の男の子のほかに女の子もいたはずですが、このディナだけが名前が挙げられているのは、その意味が「復讐」だからです。残虐な復讐が起こりました。だまし討ちによるものです。それはディナと同じ母レアを持つ兄弟シメオンとレビによる殺戮でした。もちろんこの二人だけではなく訓練された僕たちも加わっていたのでしょう。
やっと落ち着き先を見つけたヤコブは再び流浪の生活に戻らなければなりませんでした。
*12月9日のヤボクの渡しで神と相撲を取ったヤコブに御使いは「あなたの名は、もうヤコブとは呼ばれない。イスラエルだ。あなたは神と戦い、人と戦って、勝ったからだ。」と言っています。この時からヤコブはイスラエルと名を変えましたがそれは「神とともに治める者」と言う意味です。