ホームページ・メッセージ071202 小 石 泉
Bible Land museum
バイブルランド博物館
創世記 ヤコブW 帰郷
31:1 さてヤコブはラバンの息子たちが、「ヤコブはわれわれの父の物をみな取った。父の物でこのすべての富をものにしたのだ。」と言っているのを聞いた。 31:2 ヤコブもまた、彼に対するラバンの態度が、以前のようではないのに気づいた。 31:3 主はヤコブに仰せられた。「あなたが生まれた、あなたの先祖の国に帰りなさい。わたしはあなたとともにいる。」 31:4 そこでヤコブは使いをやって、ラケルとレアを自分の群れのいる野に呼び寄せ、 31:5 彼女たちに言った。「私はあなたがたの父の態度が以前のようではないのに気がついている。しかし私の父の神は私とともにおられるのだ。 31:6 あなたがたが知っているように、私はあなたがたの父に、力を尽くして仕えた。 31:7 それなのに、あなたがたの父は、私を欺き、私の報酬を幾度も変えた。しかし神は、彼が私に害を加えるようにされなかった。 31:8 彼が、『ぶち毛のものはあなたの報酬になる。』と言えば、すべての群れがぶち毛のものを産んだ。また、『しま毛のものはあなたの報酬になる。』と言えば、すべての群れが、しま毛のものを産んだ。 31:9 こうして神が、あなたがたの父の家畜を取り上げて、私に下さったのだ。 31:10 群れにさかりがついたとき、私が夢の中で目を上げて見ると、群れにかかっている雄やぎは、しま毛のもの、ぶち毛のもの、また、まだら毛のものであった。 31:11 そして神の使いが夢の中で私に言われた。『ヤコブよ。』私は『はい。』と答えた。 31:12 すると御使いは言われた。『目を上げて見よ。群れにかかっている雄やぎはみな、しま毛のもの、ぶち毛のもの、まだら毛のものである。ラバンがあなたにしてきたことはみな、わたしが見た。 31:13 わたしはベテルの神。あなたはそこで、石の柱に油をそそぎ、わたしに誓願を立てたのだ。さあ、立って、この土地を出て、あなたの生まれた国に帰りなさい。』」
ヤコブがあまりにも栄えるので、ラバンとその子供たちはねたみを起こします。別にラバンの家畜を奪ったわけではなく、ラバンはヤコブによってこれまでよりずっと栄えていたはずです。しかし、ヤコブが彼らの目の前でどんどん豊かになるのを見ていると、愉快ではなかったのでしょう。神様はヤコブに故郷のカナンの地に帰るように命じます。ヤコブにとってどちらも茨の道でした。ヤコブは抜け目無い人でしたが結局その性格が災いにもなったのです。
ラケルとレアがヤコブとは離れたところで放牧していたことは、あまりにも多くの群れだと牧草を食べつくしてしまうからでしょう。聖書はこのあたりから常にラケルを先に書いています。恐らくこれらの資料はヤコブの口から出たことか、書き記したものだったのでしょう。
31:14 ラケルとレアは答えて言った。「私たちの父の家に、相続財産で私たちの受けるべき分がまだあるのでしょうか。 31:15 私たちは父に、よそ者と見なされているのではないでしょうか。彼は私たちを売り、私たちの代金を食いつぶしたのですから。 31:16 また神が私たちの父から取り上げた富は、すべて私たちのもの、また子どもたちのものですから。さあ、神があなたにお告げになったすべてのことをしてください。」 31:17 そこでヤコブは立って、彼の子たち、妻たちをらくだに乗せ、 31:18 また、すべての家畜と、彼が得たすべての財産、彼がパダン・アラムで自分自身のものとした家畜を追って、カナンの地にいる父イサクのところへ出かけた。31:19 そのとき、ラバンは自分の羊の毛を刈るために出ていたので、ラケルは父の所有のテラフィムを盗み出した。 31:20 またヤコブは、アラム人ラバンにないしょにして、自分の逃げるのを彼に知らせなかった。 31:21 彼は自分の持ち物全部を持って逃げた。彼は旅立って、ユーフラテス川を渡り、ギルアデの山地へ向かった。
ラケルとレアは父ではなく夫を選びました。女性と言うのは大胆なものだなあと思いますね。もちろん当然なのですが。親族とは言え見知らぬ国に行くのですから。ヤコブはラバンの留守をねらってこっそりと逃げ出します。来たときも、帰るときもヤコブは惨めですね。盛大に送り出された母リベカとは大違いです。
ここでラケルが父の「テラフィムを盗み出した」とあります。テラフィムとは守り神として何らかの像が彫られたものです。ラケルたちの信仰はアブラハムの家系とは違います。パダン・アラムは神様がアブラハムを導き出した偶像の地でした。ラケルたちが本当の神に出会うのはまだこれからだったのでしょう。
31:22 三日目に、ヤコブが逃げたことがラバンに知らされたので、 31:23 彼は身内の者たちを率いて、七日の道のりを、彼のあとを追って行き、ギルアデの山地でヤコブに追いついた。
31:24 しかし神は夜、夢にアラム人ラバンに現われて言われた。「あなたはヤコブと、事の善悪を論じないように気をつけよ。」
31:25 ラバンがヤコブに追いついたときには、ヤコブは山地に天幕を張っていた。そこでラバンもギルアデの山地に身内の者たちと天幕を張った。
31:26 ラバンはヤコブに言った。「何ということをしたのか。私にないしょで私の娘たちを剣で捕えたとりこのように引いて行くとは。
31:27 なぜ、あなたは逃げ隠れて私のところをこっそり抜け出し、私に知らせなかったのか。私はタンバリンや立琴で喜び歌って、あなたを送り出したろうに。
31:28 しかもあなたは、私の子どもたちや娘たちに口づけもさせなかった。あなたは全く愚かなことをしたものだ。
31:29 私はあなたがたに害を加える力を持っているが、昨夜、あなたがたの父の神が私に告げて、『あなたはヤコブと、事の善悪を論じないように気をつけよ。』と言われた。
ラバンはそれと知って武装した僕を引き連れて、ヤコブの後を追いました。危機一髪。この時も、神様は直接ラバンの夢に現れてラバンを牽制します。ラバンはヤコブを倒すことを思いとどまりました。しかし、「私はタンバリンや立琴で喜び歌って、あなたを送り出したろうに。」というのはかなり怪しいです。ラバンはヤコブを来た時の様に、無一物で追い出す気だったかもしれません。ラバンの「私はあなたがたに害を加える力を持っているが、昨夜、あなたがたの父の神が私に告げて、『あなたはヤコブと、事の善悪を論じないように気をつけよ。』と言われた。」と言う言葉にはラバンもアブラハムの神を認めている様子が伺えます。
31:30 それはそうと、あなたは、あなたの父の家がほんとうに恋しくなって、どうしても帰って行きたくなったのであろうが、なぜ、私の神々を盗んだのか。」
31:31 ヤコブはラバンに答えて言った。「あなたの娘たちをあなたが私から奪い取りはしないかと思って、恐れたからです。
31:32 あなたが、あなたの神々をだれかのところで見つけたなら、その者を生かしてはおきません。私たちの一族の前で、私のところに、あなたのものがあったら、調べて、それを持って行ってください。」ヤコブはラケルがそれらを盗んだのを知らなかったのである。
31:33 そこでラバンはヤコブの天幕と、レアの天幕と、さらにふたりのはしための天幕にもはいって見たが、見つからなかったので、レアの天幕を出てラケルの天幕にはいった。31:34
ところが、ラケルはすでにテラフィムを取って、らくだの鞍の下に入れ、その上にすわっていたので、ラバンが天幕を隅々まで捜し回っても見つからなかった。
31:35 ラケルは父に言った。「父上。私はあなたの前に立ち上がることができませんので、どうかおこらないでください。私には女の常のことがあるのです。」彼は捜したが、テラフィムは見つからなかった。
ラバンは、せめてテラフィムだけは取り戻したいと言いました。ヤコブはラケルがそんなものを持ってきたとは知らなかったので、どうぞ探してくださいと言います。ラケルは女性の武器で父親を撃退しました。これは父親としては弱いところです。
イラスト: 渡辺 百合
31:36 そこでヤコブは怒って、ラバンをとがめた。ヤコブはラバンに口答えして言った。「私にどんなそむきの罪があって、私にどんな罪があって、あなたは私を追いつめるのですか。
31:37 あなたは私の物を一つ残らず、さわってみて、何か一つでも、あなたの家の物を見つけましたか。もしあったら、それを私の一族と、あなたの一族の前に置いて、彼らに私たちふたりの間をさばかせましょう。
31:38 私はこの二十年間、あなたといっしょにいましたが、あなたの雌羊も雌やぎも流産したことはなく、あなたの群れの雄羊も私は食べたことはありませんでした。
31:39 野獣に裂かれたものは、あなたのもとへ持って行かないで、私が罪を負いました。あなたは私に責任を負わせました。昼盗まれたものにも、夜盗まれたものにも。
31:40 私は昼は暑さに、夜は寒さに悩まされて、眠ることもできない有様でした。
31:41 私はこの二十年間、あなたの家で過ごしました。十四年間はあなたのふたりの娘たちのために、六年間はあなたの群れのために、あなたに仕えてきました。それなのに、あなたは幾度も私の報酬を変えたのです。
31:42 もし、私の父の神、アブラハムの神、イサクの恐れる方が、私についておられなかったなら、あなたはきっと何も持たせずに私を去らせたことでしょう。神は私の悩みとこの手の苦労とを顧みられて、昨夜さばきをなさったのです。」
このヤコブの反論は切々として胸を打ちます。こうしてヤコブの人格は磨かれて行ったのです。「押しのける」ヤコブはラバンの元で苦労の末に謙虚さや思いやりを学んだようです。人間にとって苦難ほど人格を磨く学びはありません。
この先、故郷に帰っても兄エソウに殺されるかもしれないのです。前門の虎、後門の狼です。ヤコブの人生は決して安楽なものではありませんでした。そして、神はそのヤコブから栄光の民イスラエルを造られます。
■テラフィム (〈ヘ〉terapim) この偶像については旧約聖書の全時代にわたって言及されている(族長時代―創31:19,士師時代―士17:5‐18:31,王国時代―Tサム19:13‐16,U列23:24,エゼ21:21,ホセ3:4,捕囚からの帰還後―ゼカ10:2).イスラエルの民は偶像礼拝を禁じられていた(U列23:24).
テラフィムは,矢や動物の肝の形での占いとか,霊媒と共に使われていた(U列23:24,エゼ21:21).大きさは手に持てるほど小さいもの(創31:34)から等身大(Tサム19:13‐16)のものもあった.ラバンは家の神として祭っていた(創31:30‐34).ラケルはラバンのテラフィムをらくだの鞍の下に入れて隠したが,パレスチナまでの旅の守護神とするために盗んだのかもしれない.ヘブル語の発音から,病気よけや祖先崇拝に使われたとも言われるが,用途は不明である.