メッセージ071125                     小 石  泉

     Bible Land museum
             バイブルランド博物館

創世記  ヤコブV レアとラケル

30:1 ラケルは自分がヤコブに子を産んでいないのを見て、姉を嫉妬し、ヤコブに言った。「私に子どもを下さい。でなければ、私は死んでしまいます。」 30:2 ヤコブはラケルに怒りを燃やして言った。「私が神に代わることができようか。おまえの胎内に子を宿らせないのは神なのだ。」 30:3 すると彼女は言った。「では、私のはしためのビルハがいます。彼女のところにはいり、彼女が私のひざの上に子を産むようにしてください。そうすれば私が彼女によって子どもの母になれましょう。」 30:4 ラケルは女奴隷ビルハを彼に妻として与えたので、ヤコブは彼女のところにはいった。 30:5 ビルハはみごもり、ヤコブに男の子を産んだ。 30:6 そこでラケルは、「神は私をかばってくださり、私の声を聞き入れて、私に男の子を賜わった。」と言った。それゆえ、その子をダンと名づけた。 30:7 ラケルの女奴隷ビルハは、またみごもって、ヤコブに二番目の男の子を産んだ。 30:8 そこでラケルは、「私は姉と死に物狂いの争いをして、ついに勝った。」と言って、その子をナフタリと名づけた。

 これも悲しい物語ですね。自分が産めないから、自分の奴隷に産ませるなんて。ダンというのは「裁き」です。ナフタリは「取っ組み合い・レスリング」です。やれやれ。ちなみにビルハは「優しい」です、良い名前ですね。

30:9 さてレアは自分が子を産まなくなったのを見て、彼女の女奴隷ジルパをとって、ヤコブに妻として与えた。 30:10 レアの女奴隷ジルパがヤコブに男の子を産んだとき、 30:11 レアは、「幸運が来た。」と言って、その子をガドと名づけた。 30:12 レアの女奴隷ジルパがヤコブに二番目の男の子を産んだとき、 30:13 レアは、「なんとしあわせなこと。女たちは、私をしあわせ者と呼ぶでしょう。」と言って、その子をアシェルと名づけた。

 ガドとは「くじ、運、予見者」です。さらにアシェルは「幸せ」。ジルパは「もつ薬のしたたり」、素敵な名前ですね。

30:14 さて、ルベンは麦刈りのころ、野に出て行って、恋なすびを見つけ、それを自分の母レアのところに持って来た。するとラケルはレアに、「どうか、あなたの息子の恋なすびを少し私に下さい。」と言った。 30:15 レアはラケルに言った。「あなたは私の夫を取っても、まだ足りないのですか。私の息子の恋なすびもまた取り上げようとするのですか。」ラケルは答えた。「では、あなたの息子の恋なすびと引き替えに、今夜、あの人があなたといっしょに寝ればいいでしょう。」 30:16 夕方になってヤコブが野から帰って来たとき、レアは彼を出迎えて言った。「私は、私の息子の恋なすびで、あなたをようやく手に入れたのですから、私のところに来なければなりません。」そこでその夜、ヤコブはレアと寝た。 30:17 神はレアの願いを聞かれたので、彼女はみごもって、ヤコブに五番目の男の子を産んだ。 30:18 そこでレアは、「私が、女奴隷を夫に与えたので、神は私に報酬を下さった。」と言って、その子をイッサカルと名づけた。 30:19 レアがまたみごもり、ヤコブに六番目の男の子を産んだとき、 30:20 レアは言った。「神は私に良い賜物を下さった。今度こそ夫は私を尊ぶだろう。私は彼に六人の子を産んだのだから。」そしてその子をゼブルンと名づけた。 30:21 その後、レアは女の子を産み、その子をディナと名づけた。 30:22 神はラケルを覚えておられた。神は彼女の願いを聞き入れて、その胎を開かれた。 30:23 彼女はみごもって男の子を産んだ。そして「神は私の汚名を取り去ってくださった。」と言って、 30:24 その子をヨセフと名づけ、「主がもうひとりの子を私に加えてくださるように。」と言った。

 何だか説明する前に赤面してしまうような所なのですが、旧約聖書は赤裸々に人間を描いています。いつも話すように“旧約聖書は人間の診断書、新約聖書は処方箋”なのです。
恋なすびは最後に載せたように猛毒を持った植物です。しかし、何らかの方法で毒性を除いて精力剤または媚薬として用いたらしいのです。レアはヤコブを恋なすびで買ったのです! イッサカルとは「雇った、報酬」です。我々の感覚では考えられない命名ですね。さらにゼブルンは「住む」です。このところを見ると、ヤコブはラケルと一緒に住んでいたようですね、レアはこれでヤコブと住めると思ったのです。
 ここにディナという女の子の名前が出てきます。他にも女の子はいたはずなのですが、ディナだけが出てくるのは、後に大変な事件が起こるからです。それはディナという名前の通りに血なまぐさい復讐の話です。
 そして、ついにラケルにも男の子が与えられます。ラケルの切実で悲痛な祈りのように、この子の名はヨセフとつけられました。一人だけど「増加する」ようにと。このヨセフがエジプトの宰相となり偉大な人物となります。

30:25 ラケルがヨセフを産んで後、ヤコブはラバンに言った。「私を去らせ、私の故郷の地へ帰らせてください。 30:26 私の妻たちや子どもたちを私に与えて行かせてください。私は彼らのためにあなたに仕えてきたのです。あなたに仕えた私の働きはよくご存じです。」 30:27 ラバンは彼に言った。「もしあなたが私の願いをかなえてくれるのなら……。私はあなたのおかげで、主が私を祝福してくださったことを、まじないで知っている。」 30:28 さらに言った。「あなたの望む報酬を申し出てくれ。私はそれを払おう。」 30:29 ヤコブは彼に言った。「私がどのようにあなたに仕え、また私がどのようにあなたの家畜を飼ったかは、あなたがよくご存じです。 30:30 私が来る前には、わずかだったのが、ふえて多くなりました。それは、私の行く先で主があなたを祝福されたからです。いったい、いつになったら私も自分自身の家を持つことができましょう。」 30:31 彼は言った。「何をあなたにあげようか。」ヤコブは言った。「何も下さるには及びません。もし次のことを私にしてくださるなら、私は再びあなたの羊の群れを飼って、守りましょう。 30:32 私はきょう、あなたの群れをみな見回りましょう。その中から、ぶち毛とまだら毛のもの全部、羊の中では黒毛のもの全部、やぎの中ではまだら毛とぶち毛のものを、取り出してください。そしてそれらを私の報酬としてください。 30:33 後になってあなたが、私の報酬を見に来られたとき、私の正しさがあなたに証明されますように。やぎの中に、ぶち毛やまだら毛でないものや、羊の中で、黒毛でないものがあれば、それはみな、私が盗んだものとなるのです。」 30:34 するとラバンは言った。「そうか。あなたの言うとおりになればいいな。」

 ヤコブは故郷に帰ることにしました。ラバンはヤコブによって財産である羊が沢山増えたようです。そしてヤコブは自分の報酬を自分で作ることにします。それは毛が白くないものをくださいと言うものでした。ラバンはそれならば良いと承諾します。

イラスト: 渡辺 百合
30:35 ラバンはその日、しま毛とまだら毛のある雄やぎと、ぶち毛とまだら毛の雌やぎ、いずれも身に白いところのあるもの、それに、羊の真黒のものを取り出して、自分の息子たちの手に渡した。 30:36 そして、自分とヤコブとの間に三日の道のりの距離をおいた。ヤコブはラバンの残りの群れを飼っていた。 30:37 ヤコブは、ポプラや、アーモンドや、すずかけの木の若枝を取り、それの白い筋の皮をはいで、その若枝の白いところをむき出しにし、 30:38 その皮をはいだ枝を、群れが水を飲みに来る水ため、すなわち水ぶねの中に、群れに差し向かいに置いた。それで群れは水を飲みに来るときに、さかりがついた。 30:39 こうして、群れは枝の前でさかりがついて、しま毛のもの、ぶち毛のもの、まだら毛のものを産んだ。 30:40 ヤコブは羊を分けておき、その群れを、ラバンの群れのしま毛のものと、真黒いものとに向けておいた。こうして彼は自分自身のために、自分だけの群れをつくって、ラバンの群れといっしょにしなかった。 30:41 そのうえ、強いものの群れがさかりがついたときには、いつもヤコブは群れの目の前に向けて、枝を水ぶねの中に置き、枝のところでつがわせた。 30:42 しかし、群れが弱いときにはそれを置かなかった。こうして弱いのはラバンのものとなり、強いのはヤコブのものとなった。 30:43 それで、この人は大いに富み、多くの群れと、男女の奴隷、およびらくだと、ろばとを持つようになった。

ヤコブは不思議な方法でぶちや黒い羊を沢山産むように細工します。これは私たちには分からない技術なのですが、もしかすると、アラビアの砂漠のベドウィン族なら分かるかもしれません。とにかく策略の多い人ですね。名前の通り「押しのける」人です。
 こんなヤコブでも晩年は静かで偉大な老人になり、エジプトの王パロさえ畏敬の念を抱くほどの、神の人となります。

■ 恋なすび 〈ヘ〉ドゥーダーイーム(創30:14等).これはなす科の植物で,学名はMandragora officinarum L.,英語でlove apple,訳して恋なすび,と言われる.なす科の植物として,アトロピン,ヒヨスチアミン,スコポラミン等の劇毒を含むところから,昔から大変恐れられた.今日でもアラブ人はこの花や実を見ると恐れて逃げる.たとえば,アトロピンの0.001グラムを服用したならば,汗も涙も糞便も止ってしまうと言われる.またスコポラミンの微量を与えたら,その人は意識もうろうとしてしまうのである.このように危険なものの用法を,ラケルやレアは知っていたのであろうか(創30章). これを野で掘り起してきたルベンが,もしもその手でうっかり目をこすったならば,瞳孔が拡大してしまい,物を正しく見ることができなくなってしまったであろう.恋なすびの恐ろしさと共に,彼らはその秘めた魔力に強いあこがれを感じていたに違いない.それが1株の恋なすびを中にして,ラケルとレアの夫争奪戦に展開していったのであろう. 日本でこれに類するものとしては,ちょうせんあさがおの類があり,また山に行けば,はしりどころのようなものがある.共に強烈なアルカロイドを含有し,しばしば中毒事件を起している.