タイムズ・オンライン(イギリス)
2005年3月19日
ピーター・ザ・サイレント --- 静かなるピーター
(Peter the Great =ピーター大帝のもじり)


めったに喋らず、大いにラケットをふるう:高みへと向かう


矢継ぎ早のお喋りが常にサービス・エースになるわけではない。今日、我が社のテニス特派員がピート・サンプラスのインタビューを発表する。彼が2年近く前に引退して以来、初めてである。史上最高のテニス・チャンピオンは、寡黙さの鑑(かがみ)である。

彼はセレブ、饒舌、ゴシップの氾濫する現代における、まさにアンチテーゼである。もはや沈黙は金ではない。現代では罪悪と見なされる。

だがサンプラス以前にも、そのようなチャンピオンたちはいた。クレム・アトリー(訳注:第62・63代イギリス首相。インドとビルマの独立を承認)とハリー・トルーマン(訳注:第33代アメリカ大統領。第二次世界大戦終結および戦後処理を担当)は、やかんの如く熱弁をふるう現代の政治家と比べ、口数が少なかった。しかし彼らの評価は高い。

インタビューを拒否する事で、グレタ・ガルボは伝説的な映画スターとなった。クリント・イーストウッドは寡黙さを保ち、若い後継者たちより輝いている。彼は重い口を開いてぶっきらぼうに言った。「Go ahead, make my day(君が言え、私はいい)」と。しかもそれは台本の台詞で、浅ましいインタビュアーに向けられたものではなかった。

タイガー・ウッズとデビッド・ベッカムは時たまマスコミに向けて話すが、大した事は言わない。マーチン・ジョンソンとジョニー・ウィルキンソン(訳注:共にイギリス・ラグビー界の偉大な選手)は、自己宣伝よりも次の試合に集中する。

「ラコニック(簡潔)」という言葉は、質実剛健を旨とするスパルタ人の古名ラケダイモニアンからきている。古代マケドニア国王フィリッポス二世は、彼らへ書き送った。「もし(If)余がスパルタに入らば、スパルタを壊滅するであろう」と。スパルタの民選長官は単音節語で返答した。「If(もし)」と。1世紀の間、スパルタは世界に君臨し、「雄弁な」古代アテネ人を降した。

アインシュタインは簡潔さのエースであった。彼の語るべき事が大多数には理解できなかったからだけではない。サンプラスは、アインシュタインが語った唯一のわかりやすい引用句のチャンピオンである。「もしAが人生における成功であるなら、A = x + y + z である。xは努力、yは実行、そしてzは無駄口をきかない事」

おそらく時流には外れているだろう。だがエース・アドバイスだ、ピート。


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