テニスマガジン
2006年6月号
[特別インタビュー]
ピート・サンプラス 35歳元王者の告白
インタビュー:ポール・ファイン
訳:川口 由起子
写真:AP、BBM
青文字の文章は、雑誌には収録されなかった部分を学芸員が訳しました。
*写真は、同インタビューが掲載されたオーストラリア版「tennis」の分も加えてあります。



2002年のUSオープン決勝でライバルのアンドレ・アガシを下して3年半、
テニス界の伝説ピート・サンプラスが帰ってきた。
彼はマルティナ・ヒンギスのように野心を持ってプロツアーに完全復帰するのではなく、
またジョン・マッケンローのようにテニス界に一時的にセンセーションを
巻き起こすというやり方でもない。
多くの専門家たちから「テニス史上もっとも偉大なプレーヤー」
と絶賛されたこのプレーヤーは、
ようやく、ちょっと試合に出てみようかなという気持ちになっただけである――。


サンプラスは34歳になり、2人の子供がいる。私は彼とくつろいで雑談し、引退してから何をしていたか、どんな風に次の数年を過ごすつもりなのか、そして今日のプロゲームとスターについてどう考えるかを聞いた。


少しだけテニス界に戻ってみようかという気になったんだ。
戦うことが懐かしく思ったからね。

なぜ3年半の引退生活に終止符を打つことにしたのですか?

ただゴルフや気晴らしをするだけでなく、もっと充足感を得られることがしたくなってね。引退後はテニスから離れてゆっくりと休息する時間として2、3年が必要だったが、昨年あたり、これからどうするかなと考えていた。何もせずにブラブラしているのもなんだから、エキシビションにいくつか出てみようかなと決めたんだ。

4月にヒューストンで開かれる一夜限りのエキシビションに出場するチャンスが浮上し、それから7月にワールド・チーム・テニスに出ることになった。こっちの方は少し負担がかかりそうだ。試合に出ることと、ふたたび体をフィットさせることを考えると、ワクワクしてくるよ。

引退後、どのように過ごしましたか?

まあまあ楽しんだかな。家族でちょっとした旅行に行った。メキシコには何回か行ったね。ゴルフが少しばかり上達して、ハンディキャップはたぶん4くらいだ。

あと友人たちと寄せ集めチームを作ってバスケットボールをしたり、(元ツアープロの)アレックス・オブライアンとは週に一度、コンディションを整えるためと楽しみもあって、自宅で試合をしたりしていたよ。

(ロサンゼルス)レイカーズの試合にも何度か行ったけど、レイカーズが優勝に向けて戦った試合はどれもおもしろかったね。

ポーカーにはかなりハマった。そして多くの時間を家族とともに過ごしたよ。オムツを取り替えたりもした。でもこういった生活は以前の(プロテニスの)ライフスタイルとはまったく違うせいか体の方がついていかなくて、それでマイペースで少しだけテニス界に戻ってみようかという気になったというわけさ。

(息子の)クリスチャンとライアンについて、そして父親になって最高な点について話してください。

父親になって最高な点は、子供たちが僕と妻に対して抱く無条件の愛情だね。僕は彼らの父親で、彼らは僕を愛してくれる。僕がテニスプレーヤーだからではない。同じく素晴らしいのは、愛情の絆を感じる事、そして子供たちの成長を見守る事、彼らと楽しむ事だ。

成長するにつれて、子供たちには少しばかり試されるようだよ。今クリスチャンは3歳半、ライアンは8カ月くらいだ。クリスチャンとはテニスコートでボールを打ち合ったり、ゴルフコースや練習場でボールを打ったりしてきた。彼は活発な子で、すごいエネルギーがある。だから僕たち夫婦は、かなり忙しい思いをさせられるよ。

クリスチャンは運動能力に恵まれていますか?

もう彼には、かなりのハンド-アイ・コーディネーション
(目と手の調整力)があるね。ゴルフボールも打てる。サッカーボールをまっすぐに蹴れるよ。走るのも上手い。彼にはかなり運動能力の遺伝子があるようだね。

それでは、クリスチャンはテニスコートでジェイデン・アガシ
(アンドレ・アガシとシュテフィ・グラフの息子)をあしらえそうですか?

20年くらい経ったら分かるだろうね。(笑)

過去3年半の間、プロツアーの何が一番懐かしく思いましたか?

戦うことだね。集中すること、朝起きるとスケジュールが立てられているといった規則正しい生活が懐かしくてね。そういった生活がないと……最初の年は煩わしいことが何もないのがうれしくて仕方がなかったけど、しばらくすると、充実感がないことに気づくことが度々あり、体をきちっと整え、試合に集中することや、メジャー(グランドスラム大会)が懐かしくなった。

アンドレ・アガシとのライバル関係はどうですか?

ああ、そういったエキサイティングな瞬間も懐かしかったね。最後のグランドスラムとなった(2002年の)USオープン決勝戦と(1999年の)ウインブルドンの決勝戦。コートに登場した瞬間を思い出すと、それがとても愛おしいことは間違いないが、同時にまた前へ進むときが来たと思った。そして心はもはやテニスにはなかったので、引退の潮時だと思ったんだ。

グランドスラムの時期が来て、第2週の週末になると、自分がそこに出ていないことが寂しいことは確かだ。対戦相手は誰でもいい。ただ明らかにアンドレは他の選手と比べて特別だったね。

でもあなたは明らかに最近までテニスをしなくても平気でしたよね。というのも、スポーツ・イラストレイテッドのジャスティン・ギメルストブのブログでは、最近あなたと練習を始めたが、それは引退後たった4回目の練習だったとありますから。

ああ、それは本当さ。ヒューストンに出場が決まったので、少しボールを打ってみる必要が生じたんだ。腕や体を鍛えなくてはいけないので、ジャスティンに電話をして、ここ数週間は週に2、3回打っているよ。

それではもっと真剣にトレーニングを始めるつもりですか?

いや、へとへとに疲れるほどするつもりはないよ。ただ体、特に腕を鍛えたいんだ。エキシビションに出るにふさわしいようにしたい。ゴルフをやるよりも自分が得意な領域に戻れることがうれしくてね。

実際のところ、テニスの調子はどうですか?

かなりいいよ!

驚きました。あなたは3年半テニスから遠ざかっていたあと、たった2、3回打っただけで、そんなに調子がいいなんて。

打つだけは簡単なのさ。サーブ&ボレーなど動きが入ると体を慣らすのに時間がかかる。止まったり、動き始めたりなどさまざまな要素があるだろ。

僕とロジャーは似ているよね。気性やビジネスライクな態度や、おっとりした性格と冷静なところもね。

テニスのチャンピオンたちは引退後、しばしばテレビで解説したり、コーチになったり、35歳以上のシニアの大会に出たりしていますが、あなたはその中のどれをされるおつもりですか?

解説の仕事を頼まれたことがあるが、そのときはその気になれなかったし、今のところコーチの仕事にも興味がない。もし僕に適したいい機会があれば、これからも試合に出る気持ちはあるかもしれない。3つの中であるとしたら、テレビ解説かな。

あなたはインディアンウェルズのプロ大会に投資をしたと伺いました。それについて話してください。

僕は確実に大会をアメリカに残せるよう、インディアンウェルズに投資した。とても素晴らしい大会だからね。『TENNIS』誌を通じてジョージ・ マッキンと仕事をしてきたが、僕はあの雑誌の共同オーナーでもあるんだ。

彼は(ビリー・ジーン・キング、クリス・エバート、ミラー出版グループ、USTA
[アメリカ・テニス協会]を含む)投資グループを立ち上げて、僕にも加わる気があるか尋ねてきたので、「もちろん」と答えたんだよ。僕はテニスのビジネス面に関わる事に関心があるんだ。ビジネスの共同オーナーになるのは、ずっと望んでいた事でもある。

他に何かビジネスの予定はありますか?

今年の終わりにロサンゼルス地区で、大会を開催しようとしている。4〜6人の招待選手による、ラウンドロビン形式の大会になる筈だ。それをまとめるために IMG
(国際マネージメント・グループ)と共働しているよ。

24歳時のあなたの業績(7つのグランドスラム・タイトルを獲得。うち3つはウインブルドン)とロジャー・フェデラーの現在までの業績はほとんど同じです。2006年のフェデラーは1996年のサンプラスと比較して、どうなのでしょうか? 芝生とハードコートとクレーそれぞれで。

むずかしい質問だね。芝生とハードコートではイーブンだが、クレーでは……僕はキャリアの初期はクレーでも大丈夫だったが、彼の方がいくらか相性がいいだろう。僕よりはクレーに慣れているからね。僕は96年より2002年の方がうまくなっているので、比較するのはむずかしそうだが、ロジャーに勝てるときもあれば負けるときもあるだろう。いずれにせよ、どれもすばらしい試合になるはずだよ。実際のところ、残念ながら、ここ数年で1回だけしか対戦していなくて(2001年のウインブルドン4回戦で負けている)、彼は当時でさえすばらしかったね。

ご謙遜を。

いや、正直な気持ちさ。彼が偉大なプレーヤーであることは間違いない。テニス界であとにも先にも勝てないと感じた相手などいなかったが、ロジャーとの戦いはいろいろな課題が浮上してきて、タフな戦いになると思う。

あなたが打ち立てた重要な記録――14のグランドスラム・タイトル、うち7つのウインブルドンのタイトル、そして6年連続世界ランク1位――のうち、どれがフェデラーや未来のチャンピオンによって破られそうもない不滅の記録だと思いますか?

もっとも破りがたい記録というのはたぶん14のグランドスラム・タイトルだろうね。フェデラーは間違いなくナンバーワンの記録は破るだろう。彼はほかの誰よりもダントツで卓越しているから、一年を通じて彼に挑戦できるような選手はいない。彼がケガや災難にでもあわない限り、安定して彼に優位に立てる選手はいないと思うからね。

彼はグランドスラムの記録はすでに半分まで達成しているが、ほかの選手も少しずつうまくなってきているから、メジャーの大会では少しずつ彼を追い上げてくるだろう。誰もが経験する不調の時期も訪れるだろうし。だから僕のグランドスラムでの記録を破るのはナンバーワンの記録よりもむずかしいだろう。

あなたは「テニス史でもっとも偉大なプレーヤー」と表現されたとき、心に何がよぎりましたか?

お世辞だよ。必ずしもそれが本当かどうかなんて、わからないさ。僕の全盛期には、たしかに向かうところ敵なしだったが、僕と(ロッド・)レーバーや(ビヨン・)ボルグなど異なる世代間で比較をするのはとてもむずかしいし、したいと思ったこともない。

1990年代や2000年代のテニスは1960年代よりも上を行くだろうが、時代を比較できないとも言われている。だからテニスでこれまでで最強のプレーヤーがいるなんて、ありえないよ。僕はレーバー、ボルグと並んでトップ3のひとりであり、フェデラーもこのままいけばそこに並ぶと思うね。

あなたの記録は、なぜもっとも偉大なのかについてさまざまな角度から分析された記事が出ていますが、それでもあなたは確信していないのですか?

いいポイントをついたものも多くあるし、称賛はうれしいが、僕がもっとも偉大だと言うのは、どうも気がひける。大袈裟だよ。難攻不落のテニスをしていた瞬間はあったと感じているが、レーバーやボルグやフェデラーに対して果たしてどれくらいできるのか、100%の確信はないんだから。

フェデラーはさまざまな理由からしばしばあなたと比較されますが、2003年のウインブルドンでサーブ&ボレーのテニスで優勝して以来、ベースライナーになってしまいました。あなたとフェデラーはプレーヤーとしてどこが似ていて、どこが違いますか?

気性やビジネスライクな態度が似ている。おっとりした性格もこの上なく似ているね。見たところ彼の方がやや怒りっぽいようだが、常に非常に冷静だ。ふたりとも動きはよく、楽にテニスをしているように見せている。プレーのやり方は少し違う。ボレーは僕の方が上手で、サービスも僕の方がややパワフルで、サーブ&ボレーをより頻繁にしていた。

僕がより攻撃的プレーヤーである一方で、ロジャーの方はベースラインから攻撃していて、ネットにつこうと様子をうかがっている。彼のフォアハンドとバックハンドの方がややすぐれているが、それは彼が多くのポイントをバックコートでプレーしているから必然的にそうなるのだろう。

ラファエル・ナダルはドバイでフェデラーを破り、いまやフェデラーに対して3勝1敗という記録を誇っています。19歳でまだまだ成長し続けるナダルは今年か来年にはフェデラーのナンバーワンの座を奪うと思いますか?

まだナダルをあまり見たことがないし、ふたりが対戦している試合も見たことがないが、彼は身体的に非常に恵まれ、フィットして、エネルギッシュだと聞いている。ただロジャーよりもいいプレーをするには、ロジャーよりもずっと多くのエネルギーを必要とすると思う。メジャーの決勝に進むためには、ナダルはかなりがんばらないといけないが、ロジャーの方は楽々と駒を進めるだろう。

ナダルはロジャーの王座を奪うために必要なゲーム――バックコートから、そしてサービスのゲームで攻める十分なパワー――があるのかが疑問なんだ。クレーではナダルの方がいいが、ハードコートではフェデラーに軍配が上がる。そして芝生ではフェデラーの方が明らかに有利だ。ナダルがハードコートでフェデラーを破ったそうだが、もしふたりがハードコートで10試合行ったとすると、フェデラーが7、8試合勝つと予想する。でも間違っているかもしれない。以前も間違えたことがあったからね。(笑)

1995年にモスクワのクレーで行われたデビスカップ決勝戦では、あなたは英雄的で、 ほぼ独力で優勝を成し遂げました。振り返ってみると、ますます立派に見えてきます。それ以来アメリカはデビスカップで優勝していないのですから。あの素晴らしい勝利について、どんな感想がありますか?

あの週は、自分がシングルスに出るのかダブルスに出るのか、あるいはどうなるのか、よく分からなかった。僕たちはアンドレがプレーすると想定していたが、彼はプレーしなかった。そこで僕があの場に投入されたんだ。僕はティム(ガリクソン、彼のコーチであり親友)の病気で、感情的に消耗していた。体調もあまり良くなかった。長い1年だったし、決勝戦は12月だったからね。

(アンドレイ)チェスノコフと厳しい試合をして、終わりにはケイレンを起こした(そして引きずられてコートを去らなければならなかった)。トム(ガリクソン、デビスカップ監督)は、僕にダブルス出場を望んでいたが、それは上手くいった。それから、17,000人からのタフなロシア人観客の前で、僕は(エフゲニー)カフェルニコフに(優勝を決める試合で)勝った。厳しい3日間を切り抜けた勇気と決意を考えると、あれは僕の業績の中でベストの1つだね。誇りに思っているよ。

サーブ&ボレーのゲームはもはや消滅しかかっているよ。
テニス界にとって大きな損失だね。

テニス界はあなたのような優秀なサーブ&ボレーヤーをふたたび輩出するでしょうか? そしてもし輩出しないのなら、それはこのスポーツにとって大きな損失でしょうか?

ああ、サーブ&ボレーのゲームがなくなってしまうのは、大きな損失だ。しかしサーブ&ボレーが効果的に行われるためには、かなり上手でないとできない。ビッグサーブとそれをあと押しする安定したボレーが必要だ。誰もが安定してできるとは限らない。フェデラーなら上手にできるが、どうやらステイバックしている方が落ち着くようだ。

だから現在はサービスとボレーの技術はほとんど消滅しかかっている。現在のウインブルドンを見てごらん。誰もがステイバックして、お互いに巨砲(パワフルなグラウンドストローク)の応酬をしているじゃないか。サーブ&ボレーが懐かしい。そしてステイバックしている相手に対してネットで応戦するテニスが懐かしいよ。

テニス界のリーダーはこの大きな損失を修正するために何かすべきですか?

何ができるのかわからない。ヨーロッパや南アメリカのクレーで育つと、彼らにサーブ&ボレーを教えるのはむずかしい。大きな危険を伴うし、ステイバックしてフォアハンドやバックハンドを打っている方が、サーブ&ボレーを習うより安全だからね。

現在、電子式のラインコール、インスタント・リプレー(ビデオ判定)、選手からの確認要求が話題になっています。どれか、あるいはすべてに賛成ですか?

電子式ラインコールに賛成だね。メジャータイトルのためにプレーしている時には、公平なコールを受けているという安心感が欲しい。どうやるか、注意を要するとは思う。打ったサーブがラインをかすめ、アウトとコールされた場合、それはポイントのやり直しを意味するのか、それともエースとなるのか? 解決すべき曖昧な領域がある。

スタジアムのビッグスクリーン、あるいはテレビ、主審のコンピュータ上で、ボールが実際にどこへ落ちたかの映像が示されると、選手が抗議しない、もしくは主審が訂正しないのは、奇異な感じになるでしょうか?

そうだね。なぜテレビ・モニターがあるのに、主審が抗議を受けるのではなく、インかアウトかを宣告しないのか? 
(アメリカン)フットボールでやっているように、何らかの興味深さを取り入れようとしているのだろう。マイアミ(ナスダック-100大会)で、どんな風に作用するか分かるだろうね。

USTA(全米テニス協会)会長 / プロフェッショナル・テニスのアーリン・カンタリアン氏は最近予言しました。プロテニスはこれまでの25年よりも、これからの3年から5年でもっと変わるだろうと。それに対してはどうお考えですか?

アメリカでテニスが何を売りにするかというと、それは(ビッグな)ライバル関係であり、それがテニスの枠を超えた多くのファンをテニスに集めることになる。スイス出身のフェデラーがテニス界を独占するのはアメリカでのテレビ視聴率にとって喜ばしいことではなく、人々が愛着をもつような――僕とアンドレのような――ライバル関係があれば、みんな夢中になるだろう。

アーリンはUSオープンや夏のシリーズでビジネス面からのアプローチでそうしようと(テニスを人気あるスポーツにしようと)していることは承知しているよ。しかし実際にそのスポーツを売りにできるのは選手であったり試合であったりするわけで、今年のウインブルドン決勝でフェデラーとアンドレが対戦すれば――彼らがビジネスのサイドから何をしようと問題ではない――人々はこぞって観戦しに出掛けるだろう。保証するよ。アーリンの変革が何なのかは知らないが、最終的にはメジャーの決勝で誰がプレーするかにかかってくると思うんだ。

フェデラー対ナダルは偉大なライバル関係になりますか?

アメリカ人が必要だろうね。アメリカのメディアとアメリカのファンは常に最高のライバル関係に恵まれてきたから、最高のものを期待するのさ。そしてメジャーの決勝で少なくともひとりのアメリカ人を求めている。もしそうでないと、途端に興味が失せてしまうのさ。

最近、マッツ・ビランデルは元ナンバーワンのアンディ・ロディックのことを「今では並のプレーヤーだ」と言っています。アンディが2003年のあのすごい勢いを取り戻すにはどうしたらいいのか、アドバイスはありますか?

アンディはうまくなるための練習を一所懸命にしているが、ただコート上のプレーにそれがうまく生かされていないだけなんだと思う。ほかの選手が少しずつ伸びてきている中で、同じところに留まったままのようだ。

ネットゲームでのサービス後のプレーをもっと改良しなければならないが、それは一夜にしてなるものではない。彼は同じやり方でプレーし続けているよね。サービスを炸裂させてフォアハンドでポイントを取るべく組み立てていくという。

もっとダブルスに出ることをすすめるよ。そうすればネットに出ても安心できるし、ハーフボレーの仕方やネットでの争奪戦にも慣れるだろ。ゲームに何か新しいものを加味しなくてはいけない。相手に予想されるのは最悪だからね。彼のサービスさえ返せばポイントを取れるチャンスが高いことを相手は知っているんだ。だから彼がもう少しネットへ出たり、変化をつけたりしたら、そういう連中を慌てさせることができるはずだ。もっともネットプレーヤーになれるだけの力が彼にあるかどうかが、不安ではあるがね。

ロディックのコートポジショニングを改善するには、何をしたらいいですか? 彼はベースラインのずっと後方からプレーしていますが、それは攻撃面でも防御の面でも不利な状況に追い込んでいますからね。

彼はトップスピンを多くかけるため、かなり後方でプレーしている。アンドレのストロークを見てごらん。短くてコンパクトなのでベースライン上に立ってプレーできるではないか。アンディは1980年代のチャンピオン、(イワン・)レンドルのような大きなスイングをしているので、ライジングで打つことができないのさ。だからアンディはボールをフラット気味に打つようにし、アンドレを手本として、前へ出られるように心掛けたらいい。相手のミスを待つよりはその方がいいと思うよ。

26歳のジェームズ・ブレークはここ数か月の間、しばしばいいプレーをしてきました。彼はグランドスラムのタイトルを獲得するのに必要な要素を持っていますか?

ジェームズは昨年のUSオープンでは見せてくれたよね。アンドレにもう少しで勝てそうだったし、勝てていれば決勝まで行けたかもしれない(センセーションを巻き起こした準々決勝)。

明らかにフェデラーと、たぶん(デビッド・)ナルバンディアンの方がジェームズより上かもしれないが、ジェームズもずいぶんよくなってきたし、健康だ。ふたたびプレーすることを楽しんでいる。すばらしいゲームを持っているし、動きもよく、コートでのマナーもいい。いいドローに恵まれるなど条件が揃えば、大いに活躍が期待できそうだ。

USTA のジュニア開発計画に関わるとしたら、アメリカの若い才能を開花させるためにどのような協力をしますか?

トレーニング・センターをいくつか作り、そのうちひとつは西海岸に、ひとつは東海岸に建設したいと思っている。そして正しい技術を身につけるために最高のジュニアを集め、最高の指導者を招く。100人の子供を集めるよりは、むしろ10人の本当に優秀な子を集め、真のチャンピオンにすべく手を貸したいんだ。

僕は各ストロークにそれぞれの専門家についたおかげでチャンピオンになれたが、USTA はチャンピオンを育成していないのではないのかな。彼らは協力的で、ある程度のものは提供できるが、最終的にはアメリカにどれくらいのテニス人口がいるかにかかってくるし、どれくらい人気があるかにかかってくる。

バスケットボール、野球、サッカー(アメフトではないかと思われる)と比較してね。多くの運動能力のある子供たちがそういったスポーツに流れてしまっているので、テニスのトレーニングはできるだけ早い段階でスタートしなければならないと思うんだ。
訳注:実際は、ピートは仮定の話として語っている。

ATPはすべての大会のダブルスで、ノー・アドバンテージ制と、最終セットの代わりにタイブレークを採用するとしています。どう考えますか?

いいとは思わないね。スコアリングのシステムは同じにしておくべきだ。100年以上も上手くいっていたスコアリングのやり方を、かき乱すべきではない。スコアリング・システムを変えても、テニス人気を高めたりはできないよ。人気は選手と試合、偉大なライバル関係にかかっているんだ。

ウインブルドンの決勝で僕がアンドレと対戦した時、スコアリングの変更が話題になったりはしなかった。うろたえても無駄だよ。気長にならなければ。そのうち何年も語り継がれるような素晴らしい試合、忘れがたい試合に出会えるだろうさ。

アガシは35歳で昨年のUSオープンで決勝に到達し、4月29日に36歳になりますが、彼の成功と息の長い活動は、彼が16歳でプロに転向していることを考慮すれば、意外な成り行きですか?

いや、そうでもない。アンドレは偉大なプレーヤーであり、すばらしい状態を維持してきている。キャリアの初期でいくつかのアップダウンを経験したことが、30代になってもなお活躍し続けている理由だろうね。

まだ十分フィットしているし、ハングリーで能力だってある。ツアーで誰にも負けないくらいの経験もある。今年はおもしろくなりそうだ。彼はいくつかケガをしているし、ほかの選手がよくなってきているからね。彼にとって手応えのある年になるだろう。

ビヨン・ボルグは財政的な問題のため、ウインブルドンのトロフィーとドネーのラケットを6月のオークションで売りに出す事になりました。どう思いますか?

その話は読んだが、悲しかったよ。5つのウインブルドン・トロフィーは、億万長者や社長が所有するものではない。(本人が)見るたびに誇らしく感じるものだ。それを手放さなければならないような財政状態だとすると、彼はひどく困っているに違いない。

テニス・チャンネルについての意見は?

毎週のように、1つか2つのプロ大会が放映されている。ゴルフ中毒者にゴルフ・チャンネルがあるみたいに、今やテニス中毒者にはテニス・チャンネルがある。素晴らしいよね。テニスを愛する人たちは、世界じゅうで行われている大会を見られるんだ。ワクワクするよ。

長年のサンプラス・ファンズ(1000人以上の会員のいる)の会員が質問しています。「ピートは引退後3年経ってもまだ大規模で熱心なファン組織があることをご存知ですか? そして彼のファンについてどう感じていますか?」と。

ファンには感謝しているよ。引退後もサンプラス・ファンズが大きな支援を送ってくれて、とてもうれしい。今年ふたたびプレーすることを楽しみにしているので、皆さんもぜひ楽しみにしていてほしい。



受賞テニス・ライター、ポール・ファイン著の「Tennis Confidential: Today's Greatest Players, Matches, and Controversies(テニス・コンフィデンシャル :今日最高の選手・試合・論争)」(Brassey 社刊)は、Amazon.com と BN.com. でテニス書の1位とされた。本書の情報と注文方法は
http://www.tennisconfidential.com. で。

彼の第2作「You Can Quote Me on That: Greatest Tennis Quips, Insights, and Zingers(私の言葉は使えるよ:テニス界最高の警句・洞察・当意即妙)」(Potomac Books 社)は、2005年2月に刊行。BN.com. でテニス書の1位とされた。さらなる情報は
http://www.tennisquotes.com で。