アメリカ版テニス
2008年1・2月号
男子プレーヤー・オブ・ザ・イヤー
ロジャー・フェデラー
文:Pete Sampras

*2007年度の男子プレーヤー・オブ・ザ・イヤーはロジャー・フェデラーでしたが、彼についてピートが文章を書きました。ちなみに女子部門のジュスティーヌ・エナンについては、ビリー・ジーン・キングが書いています。


僕がロジャー・フェデラーと対戦した時――我々の唯一の公式試合だったが、2001年ウインブルドンで彼はタフな5セットの末に僕を負かした――僕は2つの事に衝撃を受けた。彼の多才な能力と動きの滑らかさに。それは素晴らしい資質である。彼のストロークは2007年のオーストラリアン・オープン、ウインブルドン、USオープンを含むグランドスラム・タイトルを獲得してきたが、それらのタイトルを驚くべき早さで積み上げる事を可能にしたのは、彼の動きである。さらに彼はバーンアウトや怪我、疲労を避けてきた。

ある男たちは――例えばラフターが思い浮かぶが――勝つために非常な努力をしなければならない。彼らのゲームはそういった集中、献身、骨折りを必要とし、それは自身を消耗させる。ロジャーは正反対である。彼の軽やかなステップは、見たところ痛手を受けずに多くの試合をうまく切り抜けさせる。たとえ負けたとしても、叩きのめされたという印象は受けない。彼を見ていて、いかに「容易である」か気付くだろうか? その絹のような滑らかさは、スタイリッシュなポイントよりもさらに有益である。彼はエネルギーを温存できるのだ。

昨年の春に彼がロサンジェルスに来て、数日間一緒に練習した時、僕は初めてロジャーを少し知る事ができた。彼の成熟したゲームを目の当たりにしたのは、とても楽しい事だった。ロジャーのサーブは見た目よりもずっと大した武器で、フォアハンドは破壊的だ。だが、何よりも感銘を受けたのは、彼が防御から攻撃へと転じる事のできるスピードだった。

ある場面で、僕は良いサーブを放ってから、彼のバックハンドにとても手堅いアプローチショットを打った。ボールは深く鋭いもので、僕はゆったりとネットに向かった。しかしロジャーは楽々としたステップ、あるいはさらなる爆発力を見いだしたかのようで、そこに到達したばかりか、ダウン・ザ・ラインへとショットを放ったのだ。僕はポイントを生かすために慌てさせられた。ロジャーはポイントを続けただけではなかった――瞬く間に、防御的なポジションを威圧的な攻撃的ポジションへと変え、形勢を一変させたのだ。コート上のどんな場所からでも、ポイントのどんな段階でも、支配権をつかみ取る能力は、彼の最も素晴らしい天賦の才能なのかも知れない。