南フロリダ サン - センティネル
2007年7月2日
ウインブルドンの遅い芝生は、サーブ&ボレーへの余地をほとんど残さない
文:Charles Bricker


ウインブルドン、イギリス――手をついて跪き、カタツムリのような低い目線でセンターコートの芝生を見るだけで、あるいはウインブルドンのボールとUSオープンのボールを並べるだけで、なぜサーブ&ボレーのテニスがこのグランドスラムから姿を消したか理解する。

「芝生は現在、100パーセントのライ芝だ」とマーク・ペッチーは語った。

「かつての混合芝とは違い、まっすぐに生える。混合芝だった時はマットのように他の芝と重なり合って横向きになり、それゆえ打ち込まれたボールは滑る傾向があった。そして疑いなく、現在ボールはより大きく、より重くなっている」

35勝73敗のキャリア勝敗記録を持つペッチーが、英国テニス界の偉人の1人と見なされる事はなかった。しかし彼は11年間ウインブルドンでプレーし、自分が何について話しているかを承知している。ここのゲームは際立って遅くなってきた、と彼は言うだろう。

ピート・サンプラスとパトリック・ラフター、過去15年で最も素晴らしいサーブ&ボレー・テニスをした2人が引退すると、ロジャー・フェデラーやアンディ・ロディックを含むトップ選手たちによって、その戦術はチェンジアップへと移行してきた。

それは30-40、あるいはセットポイント――対戦相手が最も予想しない時――に組み入れるプレーとなっている。

バックコートのゲームに自信がないため、ウインブルドンでは可能な限りネットに付かなければならないと感じるプレーヤーは、今でも少数はいる。しかし彼らは1週目に、ほぼ全てのサービスで前へ突進する事がどれほど徒労であるかを悟ったのだ。

遅くなった芝生では、相手には準備する時間があり、ネットにいるプレーヤーの脇をライフルのように抜いていくパッシングショットを持っている。

ウインブルドンが始まる2日前、フランスのニコラス・マウーは、ロンドンのクイーンズクラブ決勝戦でロディックを破った。そこの芝生はより速く、彼はおよそ75パーセントをサーブ&ボレーで戦った。17回のサービスゲームで、彼は一度もブレークされなかった。

しかし遅い芝生のウインブルドンでは、彼は2回戦で敗退した。彼のサーブ&ボレーは、同国のリシャール・ガスケを破るには全く及ばず、ガスケは彼をストレートで下した。

現在のイギリス人選手で、ティム・ヘンマンほどそのサーフェスの力学を理解している者はいない。彼はジュニアの頃から徹底的なサーブ&ボレーのトレーニングを受け、ウインブルドンで優勝するよう養成されたのだ。

1回戦でカルロス・モヤに勝利した時、ヘンマンはサービスゲームで44パーセントしかサーブ&ボレーをしなかった。オールイングランド・クラブでゲームに何をされてきたか、彼は完全に理解しているのだ。

コーチたちはジュニアにサーブ&ボレーを教え続けている。それなりの重要性があるからだ。しかし、もはや重視はされなくなっている。ウインブルドンだけでなく、USオープンや他のメジャー大会のハードコートも遅くなり、攻撃の基礎とするには無分別になってきたのだ。

同じく、ラケット・テクノロジーの向上もある。現在のラケットは軽くて効率性が高く、サンプラスやラフターのようなボレーができないのなら、ベースラインの数フィート後ろに構えて、リターンで大きい回転をかける方がより効果的である。

もしサンプラスが現在28歳で、ここの「新しい」芝生でプレーしていたとしても、やはり恐らくエリート選手であっただろう。彼のサーブ&ボレー・ゲームは比類なきもの――マウーやヘンマンより確実に数段は上だったからだ。恐らく彼は今でもウインブルドン・タイトルを獲得できただろう。しかし8年間で7回にはならかったのではないか。

数日前、彼は「ロンドン・タイムズ」紙のインタビューを受けたが、その中で、男子が現在するプレーを見ているのは「もどかしい」とコメントした。基本的には、威圧をかけ、さらにそれをバックアップできる者は誰もいないという事である。そこにはリチャード・クライチェク(1996年ウインブルドンの優勝者)のような、真に相手を攻撃し、時間的余裕を奪う者は誰もいない。

「それはサーブ&ボレーで勝利するための鍵だ。相手に時間を与える事を拒否するんだ」

サンプラスは2002年USオープンで優勝した後に引退した。そして、彼はかつて芝生でプレーされたようなゲームを懐かしんでいるのだと言うのは容易い。

「1990年代はウインブルドンで勝つのが最も厳しい時代だったかも知れない」と彼は「タイムズ」紙に語った。

「芝生は速かった。ボールは速かった。そして賭のような状況に追い込む男がたくさんいた――ステファン・エドバーグ、ボリス・ベッカー、ゴラン・イワニセビッチ。それらの男たちは、本当に相手を居心地悪くした」

サンプラスは現在でも勝てるだろうとする理由は、コートは遅くなりボールは大きくなったが、彼のサービスはプレースメントが非常に優れていたため、難しいリターンを強要したり、クリーンなエースを取れたという事である。

そしてサンプラスが優勢だった理由の一端は、リターンがどこへ来るかを本能的に感じ取り、サーブをバックアップするやり方だった。それは彼にファーストボレーの鮮やかな位置取りを可能にし、さらに彼のファーストボレーは正確無比だったのだ。