USAToday
2006年7月6日
少しホームシックで、サンプラスはゲームへと徐々に戻る
文:Christine Brennan
*写真は7月12日のもの。


3年間、ピート・サンプラスはテニスラケットを握らなかった。彼は徹底的に引退していた。時折、3歳半になる息子と遊びで軽く打つ以外、彼は2003年の夏から2006年の春まで「真剣なボール」は打たなかった。彼は、自分のテニスは終わったと考え、心の底から引退生活に打ち込んでいた。それは、彼がかつてゲームに打ち込んでいたのと同じやり方だった。

「引退の最初の年は、本当にそれをエンジョイするんだ。楽しみもある」先日、彼は電話で言った。「2年目は、依然として楽しみはあるが、次は何かなと思うようになる。3年目になると、『オーケー、自分は週に1度ポーカーをして、ゴルフをして、そして家にいる事以外にも、何かをする気になっている』という感じになるんだ。それで、僕は少しばかりプレーする事にした」

ピート・サンプラスが競技テニスに戻るというニュースを耳にする。そして今週、アメリカのテニス選手が誰もウインブルドンに残っていないという状況で、自然な反応とは、国歌をハミングし始め、そしてロジャー・フェデラーは、スポーツ界で最もよく知られた紳士のアスリートにどう対するだろうかと思う事だ。

だが、35歳になろうとするサンプラスは、1911年以来初めて、アメリカ人がウインブルドンの準々決勝から締め出されるという事態の中で、合衆国テニスにおける現在の混乱については、何もできない。彼はアメリカのテニスを救うために戻ってきたりはしない。誰か他の者が、それをしなければならないのだ。

彼のスポーツは異なった形式となった。もっとリラックスしていて、お楽しみレベル ―― すなわちビリー・ジーン・キングのワールド・チーム・テニス( WTT )。そして、この夏ともかく、カリフォルニア州ニューポートビーチにおいて月曜日から始まるイベントで、サンプラスはトライしたいと考えている。

「ビリー・ジーンと Ilana (クロス、WTT の理事と CEO)が、かなり長いこと、僕にプレーするよう誘ってくれていたんだ」と彼は言った。

「僕はビリー・ジーンの大ファンなんだ。女子スポーツのため、そしてスポーツ一般のために彼女がしてきた事を、尊敬している。彼女はまさに、真に崇拝に値する存在だ。僕が少しばかりプレーしよう、体調を整えてその場を楽しもうと決めたのは、彼女への敬意が大きな理由だ。これは熾烈な闘いのテニスではない。だが、今でもうまくプレーする事、かつて持っていたものが少しばかり残っているか知る事に、大いに気を遣っている」

サンプラスは注目を浴びる事を懐かしんではいない ―― 彼はそのためにテニスをした事はなかった ―― が、「集中、努力する事」が懐かしいと語った。「メジャー大会、特にウインブルドンの日曜日が懐かしいね。コートへ向かう時に感じる、吐き気がするような緊張と不安感、そして、それをくぐり抜けて勝つ事が。何物にも代え難い。それが懐かしい。規律ある生活、何かがとても得意だった事を懐かしく思うよ」

サンプラスは南カリフォルニアにある彼の家から、テレビでウインブルドンを見てきた。そして、アンドレ・アガシが引退を発表し、その後に負けると、サンプラスは仲間でありライバルであった彼に、共感を寄せた。

「物悲しく感じた」と彼は語った。「実際、1つの時代の終わりを感じた。僕らアメリカ人グループの仲間だった、最後の1人が引退したんだ。彼は常にとても素晴らしい選手だった。そしてスポーツに多くをもたらしてくれた。彼は僕のキャリア、そして僕のテニスにも、多くをもたらしてくれた。僕をより優れたプレーヤーにしてくれた。我々は共に、お互いの遺産に何かを加えたんだ」

かつて男子テニスは、アガシあるいはサンプラスのものだったが、今は明らかにフェデラーが支配している。そしてロサンジェルスに住む男は、彼のファンだ。

「現時点で、他の誰よりも優れた選手だ。そして彼は、何年も支配的な地位に就いているだろう」とサンプラスは言った。

フェデラーを見るたびに、気が付くとサンプラスは、自分だったらどのように彼と対戦するだろうと考えている。「僕たちのゲームは噛み合っていただろう。僕は何回か勝利を収め、彼もまた勝利を収めただろう。テニス界における世代交代の成り行きは面白いね。僕はまさにマッケンローがいないのを寂しく思った。僕が出てきた頃には、彼は去りゆく途中だった。ちょうど良い時期に対戦する事はなかった。フェデラーと僕の場合も同じだ。僕たちはすれ違ったんだ」

サンプラスがテニス人生で得損なったものを、彼は家族と過ごす事で埋め合わせている。彼の子供時代、父親は2つの仕事に従事していた。「僕は父と顔を合わせる事があまりなかった」と彼は語った。

サンプラスの場合は異なっている。彼は妻のブリジット、2人の幼い息子と共に暮らしている。「僕は子供たちと過ごし、彼らをコートやプールに連れていったり、一緒に遊んだりするという喜びを味わっている。息子たちは父親と仲良しだ。子供たちにとって、僕が何らかのヒーローであるといいね」

いずれ、彼のグランドスラム勝利を、ビデオで息子たちに見せる事ができる。だが、それまでの間、今シーズン WTT でプレーするもう1つの理由がある。

「息子たちに、僕がウインブルドンでプレーするのを見てもらえれば良かったが、それはなかった。だから、この夏、彼らに見にきてほしいと思っているよ。息子たちに、父親を、父親の人生を知ってもらいたい」