ニューヨーク・タイムズ
2008年3月2日
冗談じゃない!
文:RALPH GARDNER JR.


3月10日に行われるロジャー・フェデラーとピート・サンプラスの「 ネットジェット対決」が、ただの友好的なエキシビションにすぎないなどとテニスファンに言ってはならない。すでに1万9千枚のチケットが売れたのだ。その興奮は、サンプラスは試合を本格的なものにするだろうという信頼に由来しているのだ。引退して5年、彼は今なお強健な36歳で、アンドレ・アガシがUSオープン決勝戦でフェデラーを4セットまで追い詰めた時とほぼ同じ年齢なのだ。さらに、あのサーブがある。フェデラーは26歳だが、サンプラスについてこう語った。「午前2時に起こされても、彼はモンスターサーブを打つだろう」と。前例はなくもないとしても、異なった世代のチャンピオン同士――恐らく史上最高の2人――がぶつかり合うのを見る稀な機会なのである。サンプラスの試みは不可能に等しいと考える人もいるにはいる。

開催場所をけなしてはならない

マジソン・スクエア・ガーデンは、必ずしもテニスにふさわしい規模の競技場には見えない。しかしそれは――少なくともUSオープン決勝が行われるアーサー・アッシュ・スタジアムに比べれば、ふさわしい規模なのだ。ガーデン最上段の安い席は、実際のところアーサー・アッシュの最上段よりもコートに近い。最も遠い所で202フィート対230フィートである。そして眺めは、あれほど目眩を起こすほどではない――ガーデンでは、65フィート上方から競技を眺め下ろす事になる。一方アッシュでは108フィート、ファンはあたかも外宇宙から盗み見ようとしているかのように感じる事で知られているのだ。

誰が史上最高か?

サンプラスとフェデラーは、プロツアーでは2001年ウインブルドンの4回戦で一度対戦しただけだった。フェデラーが7-6、5-7、6-4、6-7、7-5で勝利を収め、それは恐らくサンプラスの引退への決断を早めたかも知れない。サンプラスは2年後に32歳で引退したが、テニス史で最も成功した選手の地位を保っている。フェデラーの12に対して、サンプラスは14回のメジャー優勝を成し遂げている――フェデラーがその数字に到達したのは2年早かったが。サンプラスは64の大会タイトルを獲得し、フェデラーは53である。しかしスイス人の勝率はより高い――80%対77%である。ナンバー1在位週では、サンプラスは今でも286週の最長記録を保持している。しかしフェデラーは、ナンバー1連続在位週の記録を塗り替えた――213週で現在も更新中。

彼らには歴史がある

サンプラスとフェデラーは、昨年11月に3試合のエキシビション・マッチを行った。ソウルの初戦では、サンプラスは6-4、6-3で敗れた。クアラルンプールでは、より拮抗はしたが7-6、7-6で再び及ばなかった。3試合目のマカオでは、彼はフェデラーを7-6、6-4で打ち破った。両者とも否定しているが、フェデラーはサンプラスに勝ちを譲ったという疑惑があった。フェデラーは感銘を受け、最近になってサンプラスの才能を「怖さを感じる。なぜなら彼は僕自身を思い出させたからだ」と表現した。それは率直な気持ちだったのか、あるいは雰囲気を盛り上げるリップサービスだったのか?

本当に彼らは結果を気にしているのか?

両プレーヤーとも楽しみを提供するつもりでいる。しかしもしスコアが拮抗すると――例えば第3セット、3-3――どうなるかは分からない。とはいえ、ブレークポイントをセーブするために、彼らは花壇に飛び込む事も辞さないとは期待しないでほしい。著名なテニスコーチであるニック・ボロテリーは、両者とも激しくプレーするだろう事に疑いを抱いていない――それが彼らを偉大なチャンピオンにしたのだ――が、事を真に興味深くするための方法を提案している。「彼らは自分のお金を500万ドルずつ賭け、(ネットジェット)主催者は1,000万ドル賭けて、勝利者が2,000万ドルを獲得する事にしたらどうだろう。そうすれば、何かが見えてくるだろう」

弱点?

サンプラスは、アジアの速いコートが自分に有利に働いたのだと認めた。しかしサンプラスの自叙伝を共同執筆しているピーター・ボドによれば、フェデラーもまた興味深い告白をしていたという。彼はサンプラスに、対戦の機会が滅多にないので、サーブ&ボレーヤーと試合をするのは難しかったと話したそうだ。なぜか? なぜなら、それは滅びゆく種属だからである。ネットに詰めるプレーヤーは、危険を承知で行っているのだ。元チャンピオンでガーデン・イベントのプロモーターでもあるイワン・レンドルは、次のように語る。ステロイド的な現在のストリングスは、ボールに「途方もないトップスピンを掛ける。ネット際にいても、ボールは急激に下降するので、ボレーをするのは非常に難しい」

互角の条件を持つサーフェス

コートは中くらいの速さになる。サンプラスがサーブを爆発させるのに充分であるが、フェデラーがトレードマークのマジックを行うにも充分なゆとりがあるだろう。「ピートは短くてスマートなポイントを望むわ」と、テニス解説者のマリー・カリロは言う。「ポイントが長引くほど、フェデラーに有利になるでしょう」と。サンプラスの練習相手であるジャスティン・ギメルストブは、フェデラーが自分にこう語ったと話す。「サンプラスのサーブを読めるとは感じられなかった。ピートのような攻撃をできるプレーヤーとは、あまり直面しない」