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2006年12月22日
フェデラーが跡を追うもの?
引退して幸せに暮らすサンプラスは、今でもナンバー1選手を倒すゲームを持っている
文:Justin Gimelstob (ギメルストブのブログより)


12月はプロテニスにとって、オフシーズンである。しかしエキシビションやチャリティ・イベントが目白押しで、選手たちは、来たる年へ向けてトレーニングや準備をする合間に、休暇で使うお金を少しばかり余計に得ようと走り回る。

こういうイベントの多くでは、ゲームそれ自体は純粋に娯楽のためとなる。だが偉大な運動選手と一緒だと、競い合う本能とプライドが、常にコート上に沸き返る。

この1カ月で僕の背中はかなり良くなり、週に何回かコートで練習する事ができた。

自分が愛し、心から恋しく感じていたスポーツと再び関われるのは、気分の浮き立つものだった。何かを失うまで、それをいかに恋しく感じているか気づかないという古いことわざは、確かに当たっている。とは言っても、過酷な手術から回復しようとするための痛みとフラストレーションは、時に途轍もなくきつかった。

だが、このコラムは僕について語るのではない。テニス史の――最高の選手とは言い切らないが――偉人についてである。
2003年、ピート・サンプラスは公式に引退したが、今年4月からエキシビションや世界チーム・テニスで競技的なプレーをしている。

誰もが、僕も含めて、ロジャー・フェデラーをテニス史の新しい第1位の男と選定するのにためらいはなかった。だが引退したピート・サンプラスとしばらく練習した後、我々はピストル・ピートを不公平に扱っていたと僕は考える。

サンプラスは今月、前述したチャリティ / エキシビション・イベントに幾つか参加した。だからもちろん、彼は大いに練習してきた。僕たちはロサンジェルスでとても近くに住んでいるので、一緒にトレーニングするのにおあつらえ向きだった。練習の激しさは、その時々で変わる――主な要因は、僕の背中がその日どんな具合か、そしてピートのやる気がどうか――が、サンプラスが35歳の今でもプレー可能なテニスは、驚くばかりだ。

いわゆる「専門家」がしばしば言及を怠っている(意見をとうとうと述べるたいていの人にそうする資格はないと思うので、僕はその言葉をとても大雑把に使っている)のは、ラケットとストリングスの進化が、どれほどスポーツの質に影響を与えてきたかという事である。現在サンプラスは少しサーフェスの大きいラケット(かつて彼が使っていたスカッシュ用みたいなラケットと比較して)を使用し、選んだ武器は、流行のシンセティック / ガットをハイブリッドしたストリングスだ。プレーヤーがテニスボールに圧倒的な量の回転を加えられるという、優れた特長がある。

かつて僕が「神に祝福された」と描写した肩に、これら道具の向上という恩恵が加わり、ピートの自宅コートでプレーされるテニス(はっきりさせておくが、コートの片側だけである)は、印象的どころではない。

数年前、理想的な状態でならテニス界最高のレベルにおいて今でも競う能力があるとジョン・マッケンローが自慢していた時、僕が彼を擁護したら、ATP ツアーのロッカールームで嘲笑された。(ところで、彼は今年の初めサンノゼでダブルス優勝を遂げ、我々は正しかったのだと証明された)この申し立てをすると、僕は恐らく再び茶化されるだろう:

現在ピート・サンプラスは、フェデラー以外なら誰にも劣らないくらいの高いレベルでプレーしている。

意味を明らかにさせてほしい。サンプラスが肉体的にきついツアー生活、あるいはベスト・オブ・5セットの試合に耐えられると言っているのではない。僕が言うのはこういう事だ。ベスト・オブ・3セットなら、現在の彼は世界の誰にも劣らない。彼自身の多分より若いバージョン以外には。――ロジャー・フェデラーという名でも知られているが。

サンプラスと現在の世界ナンバー1は、いろいろな意味で不可解なほど似ている。主として、ビョルン・ボルグがツアーを支配していた時以来、彼らは最高のアスリートであるという点で。より明白な特性のほかに、フェデラーとサンプラスはコートカバーの能力、最も重要な場面でゲームのレベルを上げられる能力で、相手に多大のプレッシャーをかける。

それが、ウインブルドンに関するフェデラーの支配への最も堂々たる脅威は、僕の練習パートナーであると信じる理由だ。ピートは、タイミングを狂わせて実際にスイス・マスターを混乱させる事のできる技能、最近ではほぼ誰も為しえない何かを有している。そうは言っても、ウインブルドンあるいは他のどこかで壮麗なるカムバックがあるのかと、固唾を呑まないでほしい。
唯一の対戦だった01年ウインブルドンの4回戦では、ロジャー・フェデラー (左)が、緊迫した5セットの手に汗握る試合でピート・サンプラスを打ち負かした。AP

ピートはウインブルドンでラファエル・ナダルに対し、好機を捕らえてみたいと思うだろうか? 賭けてもいい。だが、彼は再びプロテニス選手の生活に対処したいと思うか? 絶対に思わない。誰が彼を責められるだろう? 彼は完璧なキャリアを過ごし、もう終わりだと誰もが言っていた時に、2002年のUSオープンで優勝して完璧な終局を迎えたのだ。彼は火を吹く銃を手に夕焼けへと馬を駆って、ジョン・ウェインのようにスポーツ界を去った。そんな事のできる運動選手はほとんどいない。

サンプラスはトップのまま去った(ブレット・ファーブルエバンダー・ホリフィールドに触れておこう)。
訳注:ブレット・ファーブル。グリーン・ベイ・パッカーズのアメフト選手。
   エバンダー・ホリフィールド。ボクシングの世界ヘビー級チャンピオン。
だが、僕の査定がどれほど正確かを実地に見聞きしたいと切望するなら、週に数回、午後1時30分頃にビバリーヒルズ周辺をドライブしてほしい。そして完璧にヒットされたテニスボールの快い音に聞き入ってほしい。警備員に追い立てられたら、エキシビションへピートをチェックしに行ってほしい。この秋以降、彼はそうしたイベントでアンディ・ロディックロビー・ジネプリトッド・マーチンらに快勝しているのだ。


お幸せに、リンゼイ

引退した偉人について語ったが、テニス界はリンゼイ・ダベンポートを惜しむだろう。今、彼女は最初の子供を産むためにゲームから去ろうとしているのだ。3つのグランドスラム・タイトルとオリンピック金メダルを含め、ダベンポートはとても素晴らしいキャリアを送った。彼女はまた、合衆国フェドカップ・チームを献身的に支えてきた。

リンゼイは史上最高のストライカーの1人――男女を問わず――である。そして、女子テニス界がこれまで輩出してきた最も優れた大使の1人として、正当に記憶されるだろう。彼女がテニス後の人生で、健康と幸福を得られますように。



率直な ATP テニスプロ、ジャスティン・ギメルストブは、SI.com へ頻繁に寄稿している。彼は現在86位で、ツアーでの11年の後、背中の手術から回復中である。



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