デイトナビーチ / ニュース ジャーナル・オンライン
2008年3月5日
サンプラスがフロリダのファンの前に登場する
文:MICHAEL LEWIS


それはアメリカが生み出した最も偉大な男子テニス選手にとって、不条理な新しい現実である。

現在ピート・サンプラスがテニスコートに向かう時、彼は自分のゲームのどんな部分が現れるか不確かなのだ。

サーブの砲弾は上手く発射されるだろうか? ボレーの時にどれほど速くボールに近づけるだろうか? そして彼の頭が返球したいと望む時、彼の足はボールを追いかけるだろうか?

それはいつも謎だ、と彼は認める。「名誉の殿堂」入りを果たした、史上最高とも目される華々しいキャリアの後に、ついにピート・サンプラスは、土曜日の朝に公園でゲームを行う男のような気持ちをほんの少し感じているのだ。

「その場に臨んで、何が起こるだろうかと思うんだ」と彼は語った。「以前は、何が起こるのかを承知していた。今は、まったく違うフィーリングだ」

サンプラスは先週、カリフォルニアの自宅から電話で話をしていた。その不確かな彼のフィーリングは、ジャクソンビルのベテランズ・アリーナで木曜日の夜に披露されようとしている。14回のグランドスラム・チャンピオンは、初めて訪れる中央フロリダ近郊で試合を行う。

サンプラスは午後7時30分に、元トップ10プロのトッド・マーチンと対戦する。3月10日にマジソン・スクエア・ガーデンで行われるロジャー フェデラーとの試合を控えて、調整の意味を持つ2つのエキシビション・マッチの1回目となる。

サンプラスとフェデラーは、昨年11月にアジアで3回対戦している。そこでピートは瞠目すべき1勝を挙げた。

しかし36歳になるウインブルドンの帝王がオール・イングランド・クラブの現在の君主と会う前に、彼とマーチンはショーを催す。

そしてマーチンは、自分の役割をはっきりと自覚している。

「ピートは僕がかなり優秀なワシントン将軍だと思っている」とマーチンは冗談を言った。「我々はコートに出て、観客は声援し、そして彼は僕のケツを蹴っ飛ばすのさ」

サンプラスにとって昨年は、思いがけず足を踏み入れる形で、愛するスポーツに再登場を果たした年だった。サンプラスは2002年USオープンで優勝した後に引退し、その後は事実上の隠遁者となって公の場から姿を消していた。

「僕は緊張を解いて、少しばかり息を抜く必要があった」と彼は語った。「2〜3年は妻と一緒にただ楽しみを持ち、何もしないでいたかったんだ」

サンプラスは2006年に幾つかのエキシビションでプレーを始めた。そして(翌年には)シニア・サーキットであるアウトバック・チャンピオンズツアーの何大会かに出場した。

「コートに出て、12,000人の観客の前でプレーするのは、今でも気分が浮き立つよ」とサンプラスは語った。「かつてのようなアドレナリンが湧き出してくる」

36歳のサンプラスがテニス界に再び現れるのは、年老いたウィリー・メイズがよろめきながら野球場を回ったのとは話が違う。昨年のフェデラーに対する勝利の他に、サンプラスは先月、サンノゼ大会のエキシビションで、現役男子プロで元トップ5選手のトミー・ハースを屈服させたのだ。
訳注:ウィリー・メイズ。1931年〜。メジャーリーグ史上最高の「完成されたプレイヤー」と称された野球選手。1979年にアメリカ野球殿堂入り。

長年の友人であるマーチンは、昨年サンプラスの何試合かを見てきたが、第2バージョンのピートにはほんのわずかな相違があるだけだと語った。

「唯一の大きな違いは、もし彼に対して自分の途を見いだし、そして上手くプレーし始めれば、彼はそれに対して以前ほど敏速には対応していないという事だ」

彼がテニス界を去って以降のラケット技術の進歩は、自分を助けてくれているとサンプラスは語った。サーブ&ボレー――自分がマスターし、公衆電話のように現在のテニス界から姿を消してしまったスタイル――は、かつてより骨が折れると認めた。

「背中が痛くなり、腕も痛くなる」と彼は言った。「以前はそういう事はなかったけどね」

それでもなお、最近の成功によって、サンプラスにゲームへ戻ってきてほしいというファンの要望が高まってきている。

ESPN 局の解説者クリフ・ドライスデールは「彼は今年、ウインブルドンで問題なく準々決勝に進出する事も可能だろう」と語った。さらに、そう考えるのは彼は1人ではない。多くのファンやテニス評論家は、ピストル・ピートは今でも脅威であり得ると考えている。

しかしサンプラスは断固としている。彼はプロテニスを終えたと確信している。

「誰かが僕にその事を言うたびに、僕は『あなたがすべての努力をして、僕がプレーするだけで済むのならね』と言うよ」と、彼はクスクス笑いながら答えた。「僕にはもう証明すべきものは残っていない」

「でも認めるよ」とサンプラスは付け加えた。「それを聞くのは心地よいよ」