シカゴ・トリビューン
2007年11月29日
サンプラスは戻る……ただ楽しむために
文:Melissa Isaacson


元チャンピオンは今でもプレーできる事を見せるが、カムバックを始めはしない


目先がきくスポーツ欄の読者と「 スポーツセンター」の視聴者は、それを捕えたかも知れない。その中の何人かは、それを真剣に受け止めさえしたかも知れない。

36歳のピート・サンプラスは5年前に14番目のグランドスラム・タイトルを獲得し、その後にプロツアーから引退したが、土曜日、3試合にわたるアジア・エキシビション・シリーズの最終戦ではナンバー1のロジャー・フェデラーを7-6、6-4で破った。フェデラーは最初の2戦に6-4、6-3と7-6、7-6で勝利していた。

しかしサンプラスはフェデラーを倒した。

サンプラスは土曜日の夜に、UIC Pavillion で開催されるフェデックス・テニス・シュートアウトでトッド・マーチンと対戦する。もし薄くなった髪と2人の子供が7度のウインブルドン・チャンピオンから競争心を奪ったと考えるなら、彼らが言うように、考え直してほしい。

「コートから歩み去る時に、僕は現在でもまだプレーできると思った瞬間はあったよ」中国から帰宅した翌日、サンプラスはカリフォルニア州ビバリーヒルズの自宅から電話で語った。

彼はそうすべきだと考える人々がいる――皮肉な事に、最高の、そして最後のサーブ&ボレーヤー が提供しえた類のドラマをテニス界は深刻に必要としているのだ。忘れた人もいるかも知れないが、サンプラスの偉大さはしばしば退屈と勘違いされていた。特に彼が長年のライバル、アンドレ・アガシと戦っていた時期に。

フェデラーは26歳で、すでに12のグランドスラム・タイトルを獲得している。そして史上最高の1人と呼ばれるに値するが、それより賢明だ。

「もし(サンプラスが)今でもプレーしていたら、彼はトップ5プレーヤーだろうと思う」とフェデラーは語った。

286週ナンバー1在位、6年連続年度末トップの記録を持つサンプラスにとり、2002年に引退した後の2年半は、父親である事とゴルフを楽しむだけで充分だった。

「体重も増えた。自分の写真を見たんだが、それが転換点だった」と彼は語った。「『いったい僕に何が起こったんだ?』って感じだったよ。僕の顔は丸く見えた。『僕は30ポンドも太るような運動選手の1人になりたくない』と言ったよ。それで食生活を改め、週に2回バスケットボールをプレーし始めた」

さらに、彼は再びテニスを始めた。真剣に。

「テニスをしない日があると、集中するものがなくて、少し落ち着かなくなり、退屈だ。暇がありすぎるんだ」とサンプラスは語った。「それがプレーし始めた理由だ。自分に少しばかりバランスを与えるためだね」

それはまた、再び競技的なプレーをするための誘因にもなった。マーチンはフェデラーに対するサンプラスの勝利を見たが、サンプラスのプレーレベルを直接体験で知ってもいる。元同僚のジム・クーリエがプロモートする30歳以上のサーキット「アウトバック・チャンピオンシップシリーズ」で、3戦3敗したのだ。

「彼がいかに上手くプレーしていたかは明白だった。……最高レベルのプレーヤーとも競り合える見本のようなプレーだ」とマーチンは語った。彼はノースウエスタン大学でもプレーし、1999年USオープンと94年オーストラリアン・オープンで決勝戦に進出した。

「ピートが持つこの武器は、正直に言って現在のサーブの中でも恐らくトップ5に入るだろう。彼のサーブは全盛期の頃から変わっていない」

繰り返すが、 フェデラーとの試合はエキシビションであった。そしてサンプラスは、フェデラーはマスターズの優勝で締めくくった長いシーズンを終えたばかりだとして、慎み深く自分の勝利を控えめに扱った。しかしサンプラスはまた、コートでの動きは遅くなったが、新技術のラケットのおかげで「今までより上手く」ボールを打っていると語った。そして彼の名高いサーブは、実際に時速130マイルを計測した。

「読むのが非常に難しかった」とフェデラーは語った。

そしてこれが、2人の戦いを見るのは楽しみだろうという理由だ。サンプラスにとってもう一度だけのウインブルドンだとしても。彼がサーブをより激しく打つからではない。アンディ・ロディックは時速130マイル以上で強打する事ができる。イワン・ルビチッチやイボ・カルロビッチにも可能だ。

彼らについて聞いた事がない? 世界18位と22位の選手で、共にクロアチア出身である。だが彼らの名を挙げられるのはテニス中毒者だけだ。フェデラーに挑戦するためにした事だけを考慮すれば、ロディックについても同じ事が言えるかも知れない。

「アンディ・ロディックがいかに強烈なサーブを打とうと、(サンプラスほど)正確ではない」とマーチンは語った。「そしてフェデラーはアンディのサーブを読んでいると思う。だからアンディはプレーにもっと精神的な負担がかかるのだ」

サンプラスもまた、ロディックは「ロジャーの1段下のレベル」だと言い、フェデラーの圧倒性は男子ゲームを損ねているという論点を「とても正直で、とても公正だ。……結果の分かっているものを見るのは辛い」と認める。

サンプラスは付け加えた。「ロジャーはすでに伝説的偉人で、スポーツにとっては素晴らしい事だ。しかしメディアの見地からそれをさらに高めるには、ロディックあるいは誰か、彼を追い詰める者が必要だ。彼は基本的に、僕の記録すべてを破ろうとしている1人の男だ」

しかし36歳でツアーに戻る事については、たとえもう1回のウインブルドン出場であっても、サンプラスは一線を引く。

「できるだろう」と彼は語った。「だがスポーツを、そしてウインブルドンを本当に知っている者は、それが大変な仕事だと承知している。もちろん、もし2週間のためにトレーニングして、ウインブルドンの決勝戦でフェデラーと対戦すると言われたら、僕は恐らく努力するだろう。だがそこには、僕がプレーを見た事のない多くの素晴らしい選手がいる。そして得るものだけでなく、失うものもたくさんあるだろう」

サンプラスは、今でも競い合う強い願望を持っている事は否定しない。

「僕は注目を浴びるためにするつもりはない。勝利のためにするつもりだ」と彼は語った。「でも僕はもう充分に勝ったと感じている。誰にも証明すべきものはないよ。夢物語的な意味では、それはスポーツ界の呼び物になるかも知れない。そしてニュースになるだろう。だが僕には価値がない」

我々にとっては残念だ。テニス界にとっても。しかしサンプラスにとっては、フェデラーのような紳士が彼の記録を破ろうとしている事は、どういうわけか慰めとなり、そしてふさわしい事なのだ。

「僕は自分が90年代にした事に満足しているよ」とサンプラスは語った。「自分の記録が永遠に破られない事を願うか? ノーと言えば嘘になるだろう。だがその事で僕に何かできるわけじゃない。もし誰かがそれを破るのなら、ロジャーが破るのを見たい。この国にはお祭り騒ぎや何かを欲する人もいるが、そういうものではない、僕と同じような事をしている誰かに」

それでも、フェデラーに勝った事は、いかにそれが心地よいものであるかを彼に思い出させた。

「人々は様々な理由でカムバックするのだと思う。ある者は脚光を浴びるために、ある者はお金のために」とサンプラスは語った。「僕はいつだって勝つためにプレーした。フェデラーとの対戦は、確かにその気持ちを強めた。そして、そういう事を考えてみた瞬間もあった。でもすぐに消え失せたよ。毎日の厳しい鍛錬、もうそういう事をする気はない。もう終わったんだ」