1999年8月31日
1999USオープン/フラッシング・メドウ ニューヨーク

ピート・サンプラスとブライアン・ハインライン医師の記者会見


特ダネは何だい、ピート?

ピート え?

何が起こったか聞かせてください。

ピート 日曜日にクエルテンと練習していて、ショットを打った時に、背中に何か起こった事を感じた。コートを出て、すぐ医師のところへ行き、少し治療を受けた。基本的には、過去48時間、ただホテルの部屋で苦しんできた。


昨夜、CATスキャンとMRIのテストを受け、椎間板ヘルニアを起こしたと分かった。この大会を欠場し、しばらくく戦列を離れなければならない事を意味していた。それがこの3日間の出来事だ。

どのくらい痛みがあるのですか? 座っているのも辛いのですか?

ピート いや、座っている分には大丈夫だよ。体を屈めようとすると、とても痛くてできない。

こういう事が起こって、この大会を欠場するのは、どのくらい辛いですか?

ピート この大会を欠場するのは、とても辛いよ。僕はここでプレーするのを、とても楽しみにしていた。USオープンでプレーする事を愛しているから。この2カ月間の僕のプレーぶりからいって、優勝のチャンスもあると考えていた。

でもこういう事が起こってしまった。これは一種の偶然の出来事だ。僕はこれまでプレーしてきて、背中がこんな風になった事はなかった。でも、すべての事は理由があって起こるのだと信じている。この2日間、僕はその理由を見定めようとしてきた。半年後か1年後かには、なぜこれが起こったのか、明らかになるだろう。

でもいまは、とても打ちのめされているよ。本当にここでプレーしたかった。優勝するとかは言わないが、ここニューヨークで記録を破るのは、僕の夢だった。しかし、健康がいちばん重要だ。健康でなければ、僕はプレーできない。

まだ記録を破るチャンスがあるという事について、何か不安がありますか?

ピート 僕にはまだ何回も、USオープンやグランドスラム大会でプレーするチャンスがある。いまはとても辛いけれど、1カ月後か半年後かには、別のチャンスがあるだろう。だが、僕はここで記録を破りたいと思っていた。それはできない事になった。

でも僕は、きっとこれを乗り越えるよ。そして来年を楽しみにする。願わくばある日、記録を破れたらと思う。僕は32歳とか33歳とかではない。健康でいれば、まだ何年かチャンスはあるだろう。これは1回の挫折だ。

手術が必要な感じですか?

ピート いいや。

どんな治療をするのか、説明がありましたか?

ピート できるだけ背中に負担をかけずに、休養する事がメインだ。何もしない事。2週間くらいは、ただ1日2回治療を受け、何もしないでいるだろう。何もできないからね。

クエルテンを責めますか?

ピート いいや。

しばらく戦列を離れるとの事ですが、どのくらいですか?

ピート お医者さんの方が、うまく答えられるだろう。たっぷり1カ月間は、プレーしないだろう。今年の残りについては、全く分からない。彼がもっと確実な答えをくれるだろう。

この厄介事の理由を見つけようとしてきたと言いましたが、何だと思いますか?

ピート 僕は人生において、何よりも道理・理由について話してきた。この事が起こったのには理由があると信じている。いまは分からないが、4カ月後か半年後か1年後かには、その意味を了解するだろう。これは1つの挫折で、とても辛い。この3日間は地獄のようだった。プレーできない不安やストレスを抱えてきて、最後にテストを受け、挙げ句に「これで終わりだ」となった。

椎間板ヘルニアとの診断を受けてすぐに、プレーしないとなったのですか?

ピート 診断を聞いてすぐに、欠場が決まった。

日曜の夜、あるいは月曜の朝には、まだわずかなチャンスがあると考えていましたか?

ピート うん。日曜の夜、あるいは月曜には、何か背中のケイレンかと考えていた。それなら水曜日のスタートにしてもらい、なんとか出来る限りのプレーをしようと考えていた。

ハインライン医師から、MRI検査を受けるよう電話があり、行ったところ、結果は僕が望んでいたものではなかった。考えていたより、もう少し深刻だった。

だが椎間板に何か起こった場合は危険だ。僕はこれを、キャリアを通じて進行していく問題にしたくない。いま処置するのがベストだ。僕にはまだ何回もUSオープンでプレーするチャンスがある。いま言うのはむずかしいけれど、戻ってくるのを楽しみにする。

ハインライン医師の診断を聞かせてもらえますか?

医師 ピートがとてもうまくまとめたと思いますよ。要点は、彼はこれまで背中に問題がなかったという事です。これが初めてです。

幸いにも、もっと深刻になる前に、とても早い段階で、椎間板ヘルニアの診断を下す事ができました。実際、彼の椎間板そのものは、とても健康です。中央に、非常に局所的な裂け目がありますが、神経を圧迫していません。局所的で比較的小さいので、彼は完全に治ると予想されます。

いま彼に休ませるのはとても賢明です。というのは、このように初期で小さい裂け目は、大きくなる危険性があるからです。すると、より慢性的な背中の問題を抱える事になります。

背中のどこか、述べてもらえますか?

医師 私たちはL-5、S-1レベルと呼びます。第5腰椎と仙骨の間です。

これは累積したストレスの結果、引き起こされるたぐいの怪我ですか? それとも、いつでも起こり得る怪我ですか?

医師 これを累積したストレスとは呼びませんね。起こった事には、生物力学的な分析を試みる事ができます。我々の観点からいって、充分に満足のいく答えは得られませんが。

脚にまで及ぶたぐいの怪我ですか? 脚に痛みは感じますか? 破裂に近いものですか?

医師 もし椎間板が裂けたら、サイドまで広がって神経を圧迫し、坐骨神経痛と呼ぶものになります。もしくは痛みは脚にまで広がります。しかしこれはとても小さく、中央部のものです。神経を圧迫していません。ただ痛みに敏感な靭帯を圧迫しているのです。このままの状態で留まると予想しています。ピートの言ったように、約1カ月の休養と適切なリハビリで、完治するはずです。

どんなリハビリが必要ですか?

医師 まず休養、それからいい脊椎療法士について、背中を強くする適切なエクササイズのやり方を習います。最終的に、固定法と呼びますが、脊椎を固定させ、将来このような事が起こるのを避けるやり方を習います。

我々が日曜日に最初に聞いたところでは、背中の軽い筋違えで、問題はないだろうとの事でした。その時から昨夜のテストまでの間に、悪化したという事は考えられますか? それとも初めに考えたのよりも、もう少し深刻だったのですか?

医師 テニスの大会では、背中の筋違えはごく一般的で、20例くらいも見られます。ピートが最初に感じた背中の痛みは、比較的局部的なものでした。これは椎間板ヘルニアと考える、決定的なものとはなりません。その可能性については話し合いましたが。

彼はその後24時間で回復せず、体を屈められなかったので、次の段階に進んだのです。

コートで何か普段とは全く違う動きをしたのですか? 音は聞こえましたか? フォアハンドの時ですか? それともバックハンド?

ピート サービスリータンの時だった。何も聞こえなかったが、何かが起こったのを感じた。背中をナイフで刺されたような感じで、すぐさまプレーを止めた。

ウォームアップも充分したし、30分ほど打ち合って、ポイントゲームを始めたところだった。バックハンド・リターンをしようとして、それを感じた。とても恐ろしかったよ。すぐコートを離れた。そういう状態だった。

キャリアを通じて、たくさんの肉体的な挫折がありましたが、感情的には、今回のものはその他と比べてどうですか?

ピート 今回はいろいろな理由から、いままででいちばん困難なものだよ。ここでプレーする盛り上がりや、僕のここ2カ月のプレーぶりとかを考えても。僕はここにとてもいい感じでやって来た。

これまでも、いくつか長引く怪我はあったが、筋肉のものなら、アドレナリンや何かで、怪我を抱えたままプレーできる。でもこれはその点を超えている。

次の2週間、感情的にはとても辛いだろう。ここにいたいし、毎年USオープンは大きな要素だったから。ここでプレーできないのを寂しく感じるだろう。でも元気になるよ。家に帰れば家族は僕を支えてくれる。家族に会って、これを乗り越えるよ。

今後数週間、数カ月、家で過ごすのですか? 何をするか計画がありますか?

ピート 家に帰って治療に専念するよ。

カリフォルニアの家に?

ピート ああ、良くなるために、医師が勧めるあらゆる事をやるよ。いまはいい気分じゃないからね。何をしようにも、限られている。ホテルの部屋を動き回るだけでも、とても大変だった。1日2回治療を受けて、回復に努める。楽しくはないよ。僕が望む休暇の過ごし方ではない。でも仕方がない。

最近はとても怪我が多くなっています、特に男子に。スケジュールが過密すぎるからでしょうか、それとも現代のパワーテニスのため、20年前に比べて、選手寿命が短くなっているのでしょうか?

ピート う〜ん、いまコメントするのはとてもむずかしい。僕の場合、今年は10大会に出場しただけだ。だからプレーのしすぎではない。スポーツに怪我はつきものだ。何年もたくさんプレーしてくると、いろいろな違った怪我をするけれど、今回の怪我はたまたまだと言えるよ。

ストレスのかかりすぎから来るものではない。ただ間の悪い時に間の悪い動きをし、これが起こったという事だ。これまでいくつかの事があったけれど、今後数年のスケジュール、どれだけプレーしたいと思うかは、僕にとってとても重要だ。でも怪我はスポーツの一部だよ。

時にアスリートにとって、背中の怪我は、柔軟性やコンディション作りに原因がある場合があります。あなたはとてもいいプレーをしていますが、この方面には満足していますか?

ピート ああ。過去2カ月間の僕のプレーぶりや動きは、これまででベストだった。コンディションの面では、いままでで最もフィットしていると言ってもいい。これは単に、僕が何か悪い動きをして、身体がそれに準備できてなくて起こった事だ。

それが起こった時に分かったし、考えていたよりもう少し深刻だった。慢性的なこわばりとかではない。ある特定の動きをした時に感じたんだ。それが起こった時は、少しばかり当惑したけれど。

僕はプレーするつもりだった。月曜日には「この硬直は消えて、良くなるだろう」と考えていた。ハインライン医師の手柄だよ。彼がすべてを診るためにMRIを勧める電話をくれたんだ。彼は何か気づいていた。僕にはいい事じゃなかったけれど。

ドクター、この怪我ですが、可能な限り最高のリハビリ治療を受けた場合、最も楽観的な予想として、ピートが再び試合に出られるようになるのは、いつ頃になるでしょう?

医師 楽観的でいいと思いますよ。この怪我はとても早い時期に発見されましたし、非常に局所的なものです。すべてがうまく行けば、ピートは1〜2カ月で完治して、全力でプレーできるようになるでしょう。

椎間板の破裂ではありませんし、長いスパンで考えた場合も、背中の具合は充分いいと言えます。椎間板そのものは、一カ所の小さい部分を除いて問題ありませんからね。彼が以前の完全な状態に戻れるのは、確かだと言えるでしょう。

休養というのは、ベッドに横になり、動かないという事ですか? それともある程度は動き回れるのですか?

医師 休養というのは、激しい運動をしないという事です。最初の1〜2週間でも、歩いたりはできます。ただダンベルを挙げたり、過度に身体を屈めたりはしないという事で、ベッドに横になっているという意味ではありません。背中の筋肉は鍛え続けたいですね。

ピートの怪我について述べた医学用語を、もう一度繰り返してもらえますか? 綴りもお願いします。

医師 ええ、小さいdisc(椎間板)、d-i-s-c(笑)、ヘルニアがL-5、S-1にあります。我々は通常L-5、S-1と書きます。

ドクター、もしこの怪我がまた起こるとしたら、それはプロレベルで要求される、アスレティックな動きのプレーから来ると言えるでしょうか?

医師 怪我というものは、どこででも起こりうるものです。もしこのような怪我が再び起こった場合は、リハビリのプログラムを考え直す必要があるでしょう。しかし今回のケースでは、そのような予想はしていません。

治療・リハビリをするのは、ピートが痛みを感じ、そのような状態では、いいプレーをすると期待できないからです。これらのリハビリは非常に合理的で、また予防的な意味もあります。従って、彼はまたハイレベルなプレーができるはずですし、それを妨げる事はありません。

あなたはここで4回優勝しましたが、同時にコレチャ戦、イサガ戦、昨年のラフター戦のように、怪我や体調不良に見舞われたりもしていますね。少しばかり不運だと感じていますか?

ピート いや、不運だとは感じていない。そのようには感じていない。とてもガッカリしているし、過去2カ月間のようなプレーをここでする事を、楽しみにしてはいた。
でも接戦や困難な試合で、幸運にも勝利できた事もあった。確かに不運という面はある。でもそれはニューヨークである事や、USオープンである事とは関係ない。

今回起こった事より悪い事なんて思いつかないが、それでもこれは起こったんだ。これから1〜2週間、僕は落ち込んだ気分で過ごすだろう。でも毎朝起きるたびに、少しずつ楽になっていって、最終的に大会は終わるし、僕は今回の件から学んで先に進む。予防法について考え、再出発するんだ。
いずれにせよ僕は戻ってくる。それは確かだ。

大会をテレビで見ると思いますか?

ピート 見ないようにするよ。

SKWROEBクリニックに行きますか?

ピート
 いや、いまは考えてない。

誰か他の選手と話しましたか?

ピート 今朝アンドレが電話をくれて、少し話した。気の毒に感じていてくれたよ。とても高潔な態度だと思う。

電話をかけてきた時、彼はもうあなたの状態を知っていたのですか?

ピート 彼が昨夜勝ったと知らせるために、電話してきたと思う?(笑)彼は知っていたさ。

痛みは増して、あるいは減じていますか? それともずっと同じですか?

ピート 日曜からずっと同じだ。動きづらいし、身体を屈められない。今日までには少し良くなっていて、ヒッティングでき、試合に出られるよう期待していたけれど、思ったより深刻だったね。

もしあなたがプレーできて、優勝し、記録を破る事ができたら、次のオーストラリアン・オープンには出場しないのではないか、という話がありました。いまは出場する気持ちが、より強くなりましたか?

ピート 来年どうするかとか、今年の残りどうするかとか、そんな先まで考えてない。でも、確かに今年オーストラリアン・オープンに出なかった事で、最初の3〜4カ月間のプレーにいい影響はなかった。今後の事は、この先1〜2カ月間で考えるよ。現在の最重要課題は、背中を治す事だ。それからスケジュールとかを考えるよ。

インディアナポリスの時点で、背中を痛めていたのですか?

ピート いいや。

試合を途中棄権しましたよね?

ピート あの時はお尻を痛めたんだ。

昨年のパリ・インドア、今年のバルセロナでも、背中の問題がありましたね。何か関係はありますか?

ピート あの時は筋肉のケイレンで、それなら何とかプレーできる。あれは僕が時おり抱えてきた、より慢性的な問題なんだ。今回は、ある特定の動きをした時に起こり、調べてみたら椎間板に裂け目があった。休んで治療する必要のあるものだった。僕はこれまで、椎間板に問題を抱えた事はなかった。今回のような深刻な背中の問題はなかった。もし慢性的な問題なら、プレーするだろう。でもこれはもう少し深刻のようだ。

お尻の怪我は治りましたか?

ピート うん。

どんな薬を処方されているのですか?

ピート この2日間は、Naprosyn を1,500ミリグラム処方された。痛みを取るためだったけれど、効かなかった。今後2週間くらい、積極的に治療に専念するよ。

ドクター、先ほどの質問に答えてもらえますか? 10年ほど前よりもテニスがパワフルになり、その事や日程などに問題があるのでしょうか?

ピート この質問には答えたくないでしょう。彼はテニスの専門家ではないんだよ。でも、もし答えたかったら、どうぞ(笑)。

医師 スケジュールについては分かりませんが、2つの事が考えられます。よりたくさんプレーするようになった事に加えて、トレーナーがより選手に関わるようになった事です。10〜20年前と比べて、怪我の起こる頻度がどう変わったかを示すデータはないと思います。

より多くの選手が高い、激しいレベルでプレーするようになるにつれ、健康に配慮するシステムも進化してきました。いまのところ答えはありません。データは仮定の事に対する答えにはなりません。

ホテルの部屋で動き回るのにも苦労したと言いましたが、具体的にどんな事ができなかったのですか?

ピート すべてだ。つまり、眠る時にも、姿勢を変えようとするたびに感じた。歩いたり、何かを持ち上げたり、日常的な事をするたびにだ。何かをするには背中が必要なんだ。この2日間、何をするにも苦労して、ラケットを取り上げてプレーするなんて、想像もできなかった。まだ無理だと分かってるよ。