1996年9月5日
1996年USオープン準々決勝 / フラッシングメドウ、ニューヨーク
ピート・サンプラス/アレックス・コレチャ
7-6(7-5)、5-7、5-7、6-4、7-6(9-7)

ポール ・アナコーン記者会見
(ピートは治療を受けていたため、アナコーンが代理で出席)


Q. 試合に向かう時、ピートは具合が悪かったのですか?

アナコーン:いいえ。試合の終わり頃になって、気分が悪くなったのだ。試合中は良くなったり悪くなったりしていたが、終わり頃になって、かなり悪くなったと彼は言っていた。

Q. ケイレンですか、それとも……。

アナコーン:いや、胃の具合だ。明らかにひどく不調になっていた。背中は少しばかり硬くなっていた。脚も重く感じていたが、終える事は可能だった。

Q. 試合からくるものですか。それとも……病気になったのですか。

アナコーン:最初は元気だった。つまり、彼は長時間プレーしたから……試合時間はどれくらい?

Q. 4時間9分。

アナコーン:彼は最初の2セットでたくさん走ったと思うし、かなり暑い日だった。ピートは、とにかくプレー中に、疲れているように見える事がよくあると思う。だから彼が自分のプレーにガッカリしているのか、あるいは実際に疲れているのか、判断しづらい時もある。だが今夜の場合は、いろいろな事が重なった結果だろう。

Q. ポール、これはトッド・シュナイダーにすべき質問かもしれませんが、彼は試合に臨む前、充分な水分を摂っていたのですか?

アナコーン:ええ、まあ、彼はケイレンを起こした訳ではなかった。つまり、脱水症状ではない。あなたの言うとおり私は専門家ではない。だが通常、筋肉がケイレンを起こす時は、疲労から、あるいは脱水症状からくるものだ。そして私は今晩彼と一緒だったが、彼は脚にも腕にもケイレンは起こしていなかった 。今日、彼はたくさんの水分を摂っていたよ。

Q.  彼がああいう状態で試合を終えるのをよく見ますが、その間、あなたの印象あるいは心配はどんな事でしたか?

アナコーン:そう、分からない。適当な言葉が辞書にあるとは思えない。つまり、彼は特別な男だ。そして特別な人間には特別な事ができるのだ。ストイックな性格ゆえ、人は彼にドラマティックな性向があるとは思わないだろうが。

オーストラリアからここまでの18カ月間は、何と言うべきか分からない。教える事はできないものがあり、ただ畏敬の念をもって見守り、関わっていくものがあるという以外はね。私には信じがたいものだ。

Q. ポール、どう尋ねるべきか分からないが、ティム・ガリクソンの存在を感じましたか?

アナコーン:辛い18カ月だった。そしてピートが順調にやっている時には --- フレンチでは目標に少しばかり届かなかったが --- 彼がそこにいると思うよ。辛い年だった。だが、あのような試合を彼がやり遂げると、ティムが微笑みを浮かべて見守っていると、我々は感じがちだ。特別な感慨だよ。

(双子の)トミー(トム・ガリクソン)がここにいて、すべての情況に関わっている。そしてあと数日で彼らの誕生日を迎える。だから様々な感情がせめぎ合うよ。そしてピートについて最も見事だと思うのは、集中を保ち、そして比喩的な意味で、心の中でボールを見つめ続けてこられたという事だ。私はピートのようなレベルでそれを可能とし、心を乱すものを遠ざけてこられた人間に会った事がない。

Q. 彼の体調は良かったのですか?

アナコーン:そう思うよ、つまり嘔吐するまではね。彼はかなり良い状態だと思う。とても熱心にトレーニングしてきた。彼はアキレス腱を傷めていたので、オリンピックに出場できなかった。それから2週間は激しいトレーニングをし、2つのハードコート大会に出場した。

彼は良い体調だ。だが問題は、自分が選手の1人として1年に30週ツアーを回ってみない限り、多くの選手たちがどれほど優秀か、人々は気付かない事だと思う。そしてアレックス・コレチャはとてつもないプレーヤーで、彼のプレースタイルとしては、完璧に近い試合をしたのだ。

そして彼はピートにフリーポイントを与えなかった。1つとして楽なポイントを与えなかった、ボールを追い続け、パッシングショットを打っていた。あの男はとてつもないテニスプレーヤーで、あのレベルでプレーすれば、相手がピート、アンドレ、誰であろうが、勝つ事もできる。アレックスは少々の不運や、ピートがやってのけた唖然とするような事などで、勝利に及ばなかっただけだ。

Q. 試合の後、最初にピートがあなたに言った事は何ですか?

アナコーン:私はただ彼の背中を叩いて、気分はどうかと尋ねた。彼は、今は少し良くなったと答えた。それから彼は数分の間そこに座っていて、医者が彼をざっと診察した。そして私は……何と言うべきか分からないが、もし私にできる事があったら言ってくれ、と言った。

口を閉じ、ただそこに座して全てを受け入れる、そういう特別な時があるのだ。あれは、そういう時の1つだと思う。何が言える? 彼が勝とうが負けようが、何を言えるかい? 何も言えないよ。彼の「時」なのだ。それは彼の時で、我々はただそこにいて、何らかの形でそこに加わっていられる事を嬉しく思うべきなのだ。

Q. 彼はかなり感情的になっていましたか?

アナコーン:そうだね、第一に精根尽き果てる試合だった。そして……先ほど言ったように、この18カ月の間に起こった事を考えると、何倍にもなる筈だ。とても辛い年だったからね。

彼はティミーがその場にいない情況で、2つのグランドスラム優勝をし遂げた。だが電話で手助けしてくれ、私に話をし、ティムはまだ我々の仲間だった。今でもそうだ。精神的な意味において、そして我々を天から見下ろしてくれているのだ。

本当に……やり遂げられて良かった。だがどうにかして、土曜日に再びプレーできるよう、準備しなければならない。

Q. ピートはこの試合がタフマッチになると予想していましたか?

アナコーン:
私は彼が17歳の時から知っているが、一度も……彼を見てきて最も感銘を受けるのは、彼のプロ意識については何の心配をする必要もないという事だ。彼は誰のことも軽く見たりはしない。コートへ出ていく時に、6-2、6-2で終わるなどと考えたりしない。対戦する誰に対してもだ。彼は自分がプレーしなければならないと知っている。そして、この男がプレーできると知っていた。

先ほど言ったように、我々は年に30週ツアーを回っているのだから、そういうテニス界にいる者は皆、アレックス・コレチャはいいプレーができると知っているよ。彼があのアリーナでピートに対して、5セットの間そのレベルでプレーできると彼らが考えていたかどうかはともかく。それは誰にも分からないからね。だが彼の名前を記憶し、そしてあのような途方もない情況の中で、どれほど彼がいいプレーをしたか、覚えているべきだと思う。

Q. 第5セットで、ピートがコレチャのサーブではわずかしかポイントを取れなかった時、どんな事を考えていましたか? 彼はリターンゲームで動いていなかったし、タイブレークを待っているように見えましたが。

アナコーン:オーストラリアでも、ある時点では似たような事があったと思う。今年のフレンチでもそうだった。ある時点ではそういう戦術をとり、いわばポイントを投げる事も可能だろう。多くの感情が絡み、肉体的にも疲れ果てるような時点に達した時にはね。あれやこれや引きずりながらも、両者とも必死で戦っているんだ。

確かに私としては、あぁ、もっと早くボールを捕らえるべきだとか、もっと相手にプレッシャーをかけるんだとか、厳密に言えばある。だが、そこではそれ以上の事が進行しているわけで、コーチとして私が思うに、ただ座って批評するのはフェアじゃないよ。

あの時点では、勇気や精神の問題になる。彼に最後まで頑張って上手くやってほしいと願う。そして私にとってさらに重要なのは、ただ彼が幸せで、健康で、目標にチャレンジし続けてほしいという事だ。なぜなら……それが彼にとって最も大切な事だからだ。もちろん、テニス、グランドスラム・タイトルを勝ち取る事は素晴らしい。だが私には、彼が幸せで、健康で、それらのゴールを追おうとするかどうか、それがいちばん重要だ。

Q. あなたはこの試合を、今までに見たベストマッチの1つと位置づけますか?

アナコーン:何とも言えない……時は記憶を曖昧にするからね。だが、あれほどのドラマを伴った試合は見た事がないと思うよ。全豪オープン・クーリエ戦の後にもそう言ったが、だが……今回のようなものは見た事がないと思う。

Q. あのタイブレークの最中に、彼は棄権せざるを得ないかもしれないと思った瞬間はありましたか?

アナコーン:それは彼の決める事だ。だがタイブレークで、そしてピートのようなサーブが打てたら、救急車や彼をノックアウトする大槌でも出てこない限り、彼がコートから去ろうとするとは考えなかったね。

Q. 彼があのセカンドサーブのエースを放った時、どんな事を思いましたか?

アナコーン:何が言える? つまり、特別な人々には特別な事が起こるのだ。そしてチャンピオンは、我々には夢見るだけのような事ができるものなのだ。ある者は勝つ事を恐れる。ある者は負ける事を恐れる。そしてたいていの者は、自分の才能に疑問を持つ。

彼は謙虚さを持ち、しかし肝心の時には特別な事ができるのを知っている。もしそれができないなら、ベストを尽くし、毅然とした態度を保つ。そのような人は稀にしかいない。

Q. 何か公式の診断があれば、要点をお願いします。

アナコーン:最大級の嘔吐(聴衆笑い)。いや、彼は疲れ切っていたのだと思う。私は分からない。医者ではないからね。私なら、彼は肉体的にも精神的にも疲れ切っていたと言うだろう。

Q. 医師が診断を下したかと思ったのですが。

アナコーン:いいや。(脈拍・呼吸・体温・血圧など)彼のバイタル・サインは問題ない。半時間前よりは、気分は回復している。あと1時間ばかり安静にしていれば、さらに良くなるだろう。彼の回復具合と、次の挑戦にどう対応するかは何とも言えない。

Q. 点滴などは……。

アナコーン:実のところ、どんな事をしているのか知らないんだ。トッドが彼のストレッチをしているのは見た。彼がストレッチをしているなら、それは良い兆候だ。

Q. 彼の嘔吐は1度だけでしたか?

アナコーン:ちゃんと数えてはいなかった……別の側にいたから。彼が屈み込むのを見たが、何が起こっているのかハッキリしなかった。それから彼が嘔吐するのを見た。私は数えていなかった。

Q. バスルームに行った時、彼は……。

アナコーン:あれは着替えのためだった。彼のズボンは汗で濡れていた。彼は2度着替えたと思うが、汗をたくさんかけば、しばらく経つと少し重くなるんだ。

Q. 次はサービスゲームというところで、彼はズボンを替えに行きました。あなたは、(聞き取れない)サーブをする際、もしかしたら彼に余分なプレッシャーがかかるのでは、と考えませんでしたか。

アナコーン:もし彼が負けていたら、そう言ったかもしれないね。分からないが。試合中はどんな時でも、できるだけ良い心地でいられる事が必要だと思う。あれは重大な試合で、もしリズムとかゲンかつぎを気にするなら、あるいは躊躇いがあるなら、そのままで行くべきだ。

もし充分な能力があると感じ、自分のできる事に自信があるなら、ベストを尽くすためにできるだけの事をすべきだ。特に試合の重要な場面ではね。

Q. テニス・プロというと、賞金を追い求めるエゴの集団というイメージがあります。しかし、今日ピートが見せた偉業、そしてステファンが、*彼は試合の直前にピートを見舞ったと聞いたのですが、そのような事実は、テニス選手について何かを物語っているでしょうか。そして家族のような……。
訳注:そういう噂が一部に出たが、見舞っていないとエドバーグ自身が否定した。

アナコーン:テニスは一風変わったスポーツだと思う。それは個人スポーツで、そこで我々はずっと、自分に可能なベストのテニス選手になるよう育てられる。残念ながら我々の大半は、我々は同時に娯楽ビジネスの世界にいるのだとは気付かないで成長する。君たちや他の多くの人々と付き合うすべを、後から身につけていかなければならない。我々はテニスの試合に勝つ事を教えられるのだ。

多くの人は、ピート、アンドレ、マイケル、ボリスや皆が、17〜18歳でスターダムへ昇ったという事を忘れている。彼らがこの全てをこなすのは、難しい時もあるのだという事を理解していない。

だがテニス界に関しては、紳士である人もいれば、紳士でない人もいると思うよ。ピートは紳士だ。ステファンも紳士だ。他のスポーツでもそうだが、様々なタイプの選手たちがいる。だから、他のスポーツと同様に、共に過ごしたいと思うような人、そうでない人の両方がいて、バランスが取れているのだと思う。

Q. 彼は肉体的にどの程度、次に備えられるでしょうか?

アナコーン:それについては、心配もしていないよ。それは私のコントロール外の問題だ。もし彼が……つまり、私はピートを知っているが、彼は土曜日にプレーする備えができているだろうと思う。だが、どうなるかは何とも言えない。もし彼が不充分なら、それだけの事だ。人生は続く。だが彼は準決勝に出ると思うよ。