2002年9月8日
2002年USオープン決勝/フラッシング・メドウ ニューヨーク
ピート・サンプラス/アンドレ・アガシ 6-3, 6-4, 5-7, 6-4

ピート・サンプラス記者会見


司会者 最初の質問をどうぞ。

---これであなたは14個目のグランドスラム・タイトルを手にした訳ですが、今までのものと比べてどうですか?

ピート これが最高のものかもしれない。2年前のウインブルドンを超えるものはないと思っていたけれど、今年の僕の不調や、それをくぐり抜けてきた事、そして今日のプレー…素晴らしかった。アンドレに対して、いい時にピークに達する事ができた。7日間で5試合やらなければならなかったし。とても大変だった。終わってホッとしてるよ。とてもいい気分だ。

アンドレは負かすのが難しい相手だから、すごくいいプレーをしなければならなかったが、今日はそれができた。雨で試合が遅れ、とてもきつい2週目だった。厳しい試合を乗り越え、土曜・日曜と続けて試合をしなければならない事…骨折りだった。僕の経験の中でもいい出来だったと思う。

---アンドレと一緒にコートに出ていった時の気持ちは?

ピート う〜ん、神経質になったよ。観客は熱狂的で、気分が高揚すると同時に、少し神経質にもなった。素晴らしい雰囲気だった。第3セットでアンドレへの声援が大きくなり、僕のサービスを破った時にどよめきが起こってもね。でも完璧な日だった。僕は必要な時に、すごくいいプレーができた。

---あなたは最初の2セット半、信じられないようなプレーをしました。明らかに疲れが見えた時、どのように乗り越えたのですか?

ピート 3セット目の終わり頃に、少し疲れを感じた。たくさんの試合をしてきたからね。脚が少し重く感じられた。彼はリターンをよく返し、僕を追い詰め、そしてブレークした。だけど僕はまだ1セットリードしていたし、気分も良かった。何とか持ち堪えて、2-1、4-3の時に何本かのブレークポイントをしのいだ。そしてブレークをものにして、サービング・フォー・マッチを終えたんだ。全てはとても速く進んだ。確かに少し疲労を感じたけれど、最後は出来る限り頑張って持ち堪え、そして終えたんだ。

---第4セットの第9ゲームでブレークしましたが、その時あなたは何を考えていましたか?

ピート
 そう多くの事は考えない。ただ反応するだけだからね。何本かブレークチャンスを得たけれど、彼は僕のバックにいいサービスを打ってきた。僕のリターンは短くなり、彼はそういうショットでミスをしないからね。ブレークした時は、僕は深くていいリターンを返し、彼のスキにつけ込んだ。そしてブレークして、最後のサービスゲームに入った。30-0の時センターにセカンドサーブ・エースを打ったが、とてもいい気分だったよ。

---あのセットの第4ゲームについて話して下さい。

ピート 重大なゲームだったよ。

---あのゲームをキープするのは、どのくらい重要でしたか?

ピート 大きな局面だった。勢いは第3セットでアンドレの方に移っていたし、観客も盛り上がっていた。彼は何本かブレークポイントを握ったけれど、僕はなんとか逃れる事ができた。大きな転換点だったが、僕はサービスをキープして、まだゲームの中にいると感じていた。幾つか重大なポイントがあったけれど、それをくぐり抜けたという訳だ。

---サービスの調子があなたのゲームを左右すると言いましたが、最初のゲームで2本のサービスエースを打った時、今日は行けると感じましたか?

ピート とてもいい感じだった。ウォームアップも充分して、今日はサービスがとても良かった。最初の1〜2ゲームでいいリズムを感じた。スピードのある正確なサービスが打て、変化もうまくつけられた。サービスに関してはやりたい事が全てでき、セカンドサーブもうまく打てた。今日はサービスのいい日だった。

---USオープン前までは、とても苦しんできましたが、こうして優勝できたカギは何だと思いますか?

ピート 妻や家族が支えてくれ、ポールとまた一緒にやるようになった事だ。僕に心の平穏と安定をもたらしてくれた。彼は選手としての僕を、誰よりもよく知っているし、それが全てうまく機能した。僕が今年苦しんできた事の大半は、精神的なものだ。フォアハンドとかバックハンド、サービスとかじゃない。頭の中の事だ。ポジティブになれなくて、自分自身にすごく早く失望してしまっていた。僕たちは、僕の心や現状について、率直な話し合いをした。ウインブルドンの後、僕に唯一できたのは、最初からやり直す事だけだったからね。再びランニングをし、練習を始め、今週それが報われた。

---これでもっともっとグランドスラムに挑もうという気になりますか? それとも幸せな気分で終わりにしようと考えますか?

ピート う〜ん、2〜3カ月の間、よく考えてみる。僕はまだプレーしたい、プレーが好きだ。でもアンドレのようなライバルを破って、USオープンで優勝というのは、物語のような結末だよね。辞めるにはいい時なのかもしれない。でも……(笑)。でも僕はまだ競いたい。まだプレーする事を愛している。2〜3カ月、僕の心・精神の状態を見てみるよ。今それについて話すのは難しい……まだ頭がクラクラしてるからね。2週間くらいの間に、この事について振り返り、その後数カ月、僕の今の立場について考える。

---スタンドに行ったのは、その場の勢いですか? それとも考えていたのですか?

ピート その場の勢いだよ。姉や妻と喜びを分かち合いたかったんだ。彼女達のおかげで、僕は今ここにいるんだからね。支えてもらった。僕は辞めようかと考えた事もあったけれど、妻は僕を支えてくれ、ポジティブに、楽天的であり続けるようしてくれた。キャリアのこの段階では、サポートの意味は大きいよ。

---ウインブルドンの時とUSオープンの時の感情を比較できますか?

ピート 夜と昼ほど違う。ウインブルドンの時は最低で、今は最高だ。ウインブルドンの敗戦はショックで、僕は家に帰り、キャリアや現状について考え、落ち込んだ。でもとても早く立ち直れた。

---7回のウインブルドン優勝と、5回のUSオープン優勝を比較するとどうですか?

ピート 今回の優勝が最高だと思う。13回優勝した後、その後の目標を考えようとした……それはもう1回グランドスラムで優勝しようというものだったが。今年、僕は苦しんできて、辞めるべきだという否定的な論調が、メディアやコメントから聞こえてきた。とても辛い時にそういう事をやり過ごし、自分自身を信じるのは大きな意味がある。多分何よりもね。逆境にいて、それを乗り越えるのは、素晴らしい気分だからね。

---ウインブルドン敗戦の翌日、木曜の朝か午後に飛行機に乗り、家に戻った訳ですが、その長いフライトの間、いろいろ考えましたか?

ピート ああ。

---自分に疑問を持ちましたか?

ピート ただ空っぽだった。空虚な気分だった。僕は一生懸命やり、あらゆる適切な事をやってきたのに、それが機能しなかった。少し不安になった。少し自信を失った。今日、選手はみんなよくなってきている。僕は家に帰り、1週間かそこら、ただ落ち込んでいた。そして、もう一度やり直す必要があった。それが唯一できる事だからね。練習を始める事、僕はそれをやり、そしてここで報われた。

---一瞬にせよ「今、辞めるべきだ」と思いましたか?

ピート 僕は自分の判断で辞めたかった。それが自分に約束した事だった。今年苦しんできて、あれやこれや聞こえてきてもね。僕は自分の判断で辞めるに値する筈だ。僕はテニスで非常に多くの事を成し遂げてきたから、否定的な事を聞き、それを信じる事はできないよ……実際には信じ始めた時もあった。「今が辞めるべき時だろうか」ってね。

でも家族や妻、ポールが僕を前に進ませてくれ、ポジティブにしてくれた。僕にとっては大きな意味があった。ゲームから身を引いて、自分がやった事について、とてもいい気分でいる事もできるんだからね。でも、もう1回か2回、まだ僕には「その時」があると感じていた。そして今日それが起こった。

---ニューヨークへ戻った事は、意欲という点で何か意味がありましたか?

ピート 競い合いという事の他には大してない。決勝前のセレモニーには感動したよ。その後人々は試合に、テニスに入り込んだ。でも戦いの場にいる時には、ただ自分がやるべき事に集中するんだ。ニューヨークはこの1年、戦いをくぐり抜けてきたが、人々が再びこの場に来て、テニスを楽しんでいるのを見るのはステキな事だ。ここでプレーする事は喜ばしかったよ。

---今日の試合のゲームプランについて話してくれますか? オールコートゲームを見るのは、素晴らしかったですよ。

ピート それが僕がやりたかった事だ。試合の調子を作り、彼のセカンドサーブに対して攻撃的にいき、チャンスを掴む。願わくばいいサービスを打ち、彼にプレッシャーをかける。攻撃する。それが僕のゲームプランだった。アンドレに対してしたくないのは、ステイバックしてラリーをやりすぎる事だ。彼はそれがとても得意だからね。相手を動き回らせる事が。自分のチャンスを掴む事、僕はそれをやった。

---ボリス(ベッカー)がウインブルドンのネット際で、あなたに「僕は最後の試合をここで、君とやりたい」と言った事を覚えていますか? ここかウインブルドンで、あなたが最後の試合をやるとしたら、相手は誰がいいか、考えた事はありますか?

ピート そういう事について考えた事はないよ。

---多分グレッグ・ルゼツキー?(笑)

ピート 彼は彼自身の問題を抱えている(笑)。彼の問題点が問題だ。

---左利きのイギリス人選手がいますが……。

ピート それは質問なの?

---ええ、誰と、あるいはどんな雰囲気がいいと考えているか、質問したのですが。

ピート
 分からない。そういう事は予想できない。誰であろうが、その時はその時だ。分からないよ。物語のような結末を求めるけれど…でも、願わくば僕のウインブルドン最後の試合が、13番コートとか2番コートでないといいけど(笑)。

---左利きのイギリス人選手がいて、彼は今週、なにがしかのテニスの分析を提供しました。BBC(イギリス国営放送)は、かつての選手をアナリストとして迎えたいと考えています。彼はアナリストとして、見込みがありそうですか?

ピート 僕たちは、この場にふさわしくない人について話しすぎているよ。グレッグについて。彼は彼の言いたい事を言った。僕はそれに悩まない。彼には彼自身の問題があり、彼自身が対処していかなければならない。

---結婚と時を同じくして、あなたのテニスの調子が少し落ちたという質問に、この2年ほど答えてこなければなりませんでした。それは彼女にどんな影響がありましたか? 彼女はこの勝利に貢献していますか?

ピート とてもね。フェアじゃない。記録を破ったのと結婚は、単なるタイミングだ。13回目の優勝の後、これからどうするかという難しい所に僕はいた。2カ月後に結婚し、幸せだった。僕は結婚して幸せだった。夢のような女性と出会い、子供が産まれようとしている。それが人生だ。でも彼女は、僕がこの辛い時期を乗り越えてこられた大きな理由だよ。彼女は毎日僕と一緒に暮らしている。信じてほしいけど、それは簡単な事じゃないよ(笑)。苦しんでいる時には、楽しみはない。それは重荷だ。(彼女のおかげでこの時期を乗り越えられた事は)僕がふさわしい女性と出会った事を示しているよ。

---これからは、もしテニスを続けてうまく行かなくても、この優勝で全てが幸せですか?

ピート うん。とても素晴らしい気分だよ。ハードワークが報われたと感じている。今年経験してきた逆境を乗り越える事ができた。それは何よりも意味があるよ。ここから僕がどこに向かうのか、まだ本当に分からない。暫くはこの勝利を楽しんで、今回の事を振り返り、今自分がどんな地点にいるのか見てみるよ。

---デビスカップはどうするのですか?

ピート デビスカップについてはあまり考えてなかった。

---逆境に対処して、再びトップに戻ってきたアンドレの例に、触発されましたか?

ピート
 それ程でもない。アンドレは誰よりも才能がある。彼のキャリアには、時に苦しんできた時期があったけれど、それは僕のスランプというか、厳しい時期をくぐり抜けてきた事とは違うと思う。才能があれば、その才能はどこにも行かない。精神的にポジティブでいるかどうかという問題だ。彼は140位から1位まで戻ってきた。それは凄いカムバックだ。僕の場合は、それでも競い合いの中にいるし、ここでも第17シードだった。でもここでカムバックできた事は、とてもいい気分だよ。

---かつて、まるでタイトルを生み出す機械のような時期もありましたが、今あなたは逆境とカムバックを経験しました。その事は、ものの見方についてプラスになりますか?

ピート う〜ん、あの時期は……苦しんでいる時には、そういう時期の事をありがたく思うって事はないよ。僕が支配力を振るい、1位にいて、容易にグランドスラムで優勝していた頃は、自分でそれを予期していたようなところがあった。今でも期待はとても高いけれど、5年くらい前のような訳にはいかない。自信が持てず、いいプレーができず、選手はレベルが上がっている。僕はこの2週間、逆境にとてもうまく対処してきた。この勝利は最高で、おそらく僕の成し遂げてきた事の中でも一番だろう。とても辛い時期を乗り越え、USオープンで優勝した事。とてもスイートだよ。

---父親になるという気分はどうですか? 父親としての、あなたの最良の資質はなんだと思いますか?

ピート 難しいなあ。僕たちは、後2〜3カ月のうちに親になる訳だけれど…悪い事が起きませんように(おまじないの言葉)…いい父親になりたいと思ってるよ。子供に尊敬され、いいお手本となるような父親になれたらいいなあと思っている。

---アンドレとの対戦の中で、今回は質・ドラマ性という点で、どの辺りにランクされますか?

ピート
 今日は、1999年のウインブルドンをちょっと思い出させる時があった。あの年、僕は一種のゾーン状態だった。今日は全てがうまく行った。出来うる限りのいいプレーができた。第3セットで彼はプレーがよくなり、ブレークしたけど、暫くの間、ゾーン状態にいるように感じた。彼に対して、そのペースを3セット続けて保つのは難しい。でも僕はとてもいいプレーができたし、またそうでなければならなかった。彼はとても素晴らしいプレーヤーだからね。彼のゲームに対抗しなければならない。そして僕はそれができた。

---最後にネットで出会った時、どのくらい感情的になりましたか? 何か話したのですか?

ピート
 彼は……今まで対戦した他の選手にも敬意を払っているが……彼は、僕が対戦したベストの存在だ。彼はまた、僕のベストを引き出してくれる。それを何年も言ってきた。彼は特別のギアを持っているから、とてもタフな相手だ。勝敗とは関係なく、彼との対戦は素晴らしい。最高の選手との競い合いだ。彼は今でもベストの一人だ。いい「時」だった。

---あの場で何が進行しているのか理解していたか、それについて深く考えたかと聞かれ、あなたはただテニスをしようとし、自分はボールに集中していたとアンドレは語りました。あなたは特別の出来事だと考えましたか?

ピート いや。試合中は、ただ次のポイントに集中するんだ。そういう事については、あまり考えない……もちろん、大試合だった。でも……それでもテニスコートであるという点では、僕の家のコートと同じだ。それが僕の考え方だ。物事をシンプルに捉え、その場の雰囲気や意味に圧倒されてはならない。もちろんサービング・フォー・マッチの時には、その事を感じたよ。僕は今サービング・フォー・タイトルを迎えているってね。でもただコートに出て競い合う。うまく行くように願う。それが僕の考え方だ。

---「僕はUSオープンで優勝しようとしている」という事を信じられないような思いはありましたか? それはあなたが望み、我々の多くは、あなたにそれが出来るかどうか疑ってきた訳ですが。

ピート サービング・フォー・マッチの時には、僕の手に勝利のカギが握られているという事に心を打たれたよ。そして全てがとても速く起こった。サービスダウンのピンチから脱し、相手をブレークしてサービング・フォー・マッチまでは、5分かそこらの間の事だった。ちょっと変な感じだった。でも最後はとても速かった。とてもいい終わり方だった。

---勝つのに飽きる事はありますか?

ピート いや、こういう試合に勝つ事に飽きるなんて、あり得ないよ。僕たちはこういう瞬間のためにプレーしているんだからね。これはスーパーボールだ。だから僕はプレーを続けているんだ。

---それが今後も続ける理由ですか?

ピート だから今後も続けるんだ。

---運命を信じますか? 今年あなたはUSオープンに勝つよう、運命づけられていたと思いますか?

ピート ある程度までは、運命を信じるよ。でも努力しなくちゃいけない、いいプレーをしなくてはいけない。でも、少しばかりの運命は感じるよ。アンドレと決勝で相対するように、定められていたのかもしれない、アメリカのテニスにとって多くの意味を持ってきた、2人のアメリカ人同士の決勝。締めくくりにふさわしかった。

---アンドレがいなかったら、あなたのキャリアは随分と違ったものになっていたと思いますか?

ピート
 彼は……僕をより良いプレーヤーにしてくれた。彼は僕のキャリアに、ボルグ対マッケンローのような時をもたらしてくれた。彼らはお互いが必要だった。僕はアンドレを必要としてきた。彼は僕を駆り立てた。彼は僕に、僕のゲームに新しい事を加えさせた。彼はそれができる唯一の男だった。彼は、僕が対戦してきたベストの存在だよ。 

---二番目に年長のUSオープン優勝者になったというのは、どんな気分ですか? アンドレとグランドスラムの決勝で対戦するのは、これが最後だと思いますか?

ピート 僕たちの将来がどうなっていくかについて話すのは難しい。今は選手達はみんなとてもいいから、メジャー大会の決勝で対戦するというのは……5年前、僕たちが圧倒的だった頃は、頻繁にあり得たけど、今はもしかしたら、今回が最後かもしれない。でも来年また、僕たちが決勝で会うかもしれないよ。