2000年7月9日
ミレニアム・チャンピオンシップ・ウインブルドン決勝
ピート・サンプラス/パトリック・ラフター 6-7, 7-6, 6-4, 6-2

ピート・サンプラス記者会見


司会者 彼には何のご紹介も必要ないでしょう。

---いま、どんな感情が渦巻いていますか?

ピート 様々な理由から、とても感激している。この1週間半の(怪我の)事、両親が来てくれた事、タイトルやこの大会が、僕にとってどんなに重要であるかという事……諸々の事が、最後に勝ちを決めた時に、僕の心を打ったんだ。両親とこの感動を分かち合えた事は、とても素晴らしかった……彼らは一度もウインブルドンに来た事がなかったからね。僕はこの場を、両親にも共有してほしかった。勝つにせよ負けるにせよ、招待するつもりだった。彼らが飛行機に飛び乗り、旅をしてくれて嬉しいよ。

---もしかしたら勝てないんじゃないかという、プレッシャーに悩みませんでしたか?

ピート そういう事に悩んではいられないよ。試合が進む中、勝利が滑り落ちていくと思ったりもした。両親との事を言っているの?

---もし負けたら、気が滅入るでしょう?

ピート 確かに気が滅入るだろう。僕は過去ここで優勝した事もある。決勝まで来たら、毎回勝ちたいと思うよ。とても一生懸命やって、到達したんだからね。でも、もし優勝できなかったら、それはただそういう事だ。優勝云々は、今日の僕のプレーに悪影響を与えるものではない。試合中、時にとても硬くなってしまったけれども。幸運だった。ここまで、本当に一生懸命やってきたからね。

---なぜご両親は、今まであなたの試合を見に来なかったのか、なぜ今回が多分ベストの時だと感じたのか、話して下さい。

ピート 年齢を重ねるにつれ、家族がそこにいてほしいと感じるようになる。両親は今までいつも、僕が試合する時に、ゆとりを与えてくれていた。彼らは僕に、自分たちの事を心配させたくないんだ。でも、ここであれどのメジャー大会であれ、もし決勝に進出したら、彼らにいてほしいと、自分で自分に確認した。両親が来てくれて嬉しいよ。

---過去はどうして来なかったのですか?

ピート 彼らはとても神経質になるだけでなく、とても縁起をかつぐし、とても引っ込み思案なんだ。両親は……彼らがどこに座っていたか知ってる? カメラに映りたがらないんだ。

---いついらしたのですか? あなたがスタンドに行った時、どんな言葉をかけてくれましたか?

ピート ただ僕を愛している、「お前を誇りに思う」と言ってくれた。多分、昨日到着したんじゃないかな。

---スタンドの彼らの所に行こうと、あなたを駆り立てたものは何ですか? 昨日ビーナスが自発的に行ったのとは、違うように見えましたが。誰かが勧めたのですか?

ピート ファミリーボックスを見上げたら、みんな行け行けって、僕の両親を指さしたんだ。彼らを見つけるのに、少し時間がかかったよ(笑)。でもそうしたら、とても素晴らしい気分だった。

---お母さんは、最初そこにいませんでしたね。

ピート 両親は垂木の上の方にいたんだ。降りてくるのに少し時間がかかった。

---ご両親があなたのキャリアにとって、どんな意味があるのか聞かせて下さい。今まで陰にいましたよね。

ピート 彼らはいつもとても協力的で、僕を愛してくれてきた。いわゆるテニスの典型的な親ではなく、僕に自立心を与えてくれた。僕にこのスポーツをやり、ここでプレーし、記録を破るチャンスを与えてくれた事を、とても感謝している。

彼らはいい時も悪い時も、僕を支えてきてくれた。僕の最高の時も最悪の時も、見守ってきてくれた。だから彼らにこの場を共有してほしかったんだ。それは……毎年、来年も戻ってきますと言っても、何の保証がある訳じゃない。だから勝っても負けても、彼らに……そりゃ、負ければガッカリするだろうけど、でも両親がここにいてくれるのは、いいものだよ。もし優勝できなかったら、それはそういう事だ。

---誰かこの記録を破れると思いますか? グランドスラム13回優勝というのは、最高基準になると思いますか?

ピート 時が語るだろう。現代のゲームでは、難しいかもしれない。たくさんプレーして、大舞台でいいプレーをしなければならない。1人、あるいは3人にそれができるとか言うのは難しい。でもそれは可能だ。誰か、世界のどこかの公園で、今ボールを打っている8歳の少年が、それをやるかもしれない。
もしかしたらできるかもしれない優れた選手はいる。でも簡単ではない。

---今日の試合において、大事な場面でのいいプレーとは何でしたか?

ピート 試合の中で、勇気・度胸を試される場面がたくさんあった。僕たちはお互いにそれを感じた。僕は第1セットで度胸を失い、彼は第2セットのタイブレーク4-1の場面で失った。彼が4-1でサービスを迎えた時、僕は勝利が滑り落ちていくと感じた。そこから、何とかタイブレークをものにした。2分くらいの間に、負けるだろうという気持ちから、勝てるだろうという気持ちに変わったんだ。それが芝のテニスだよ。

あの時点から、僕は彼のサービスを少し捕らえられるようになり、彼にもっともっと仕事をさせるようになった。実際にブレークを奪い、僕は必要な時にいいサービスが打てた。パットは素晴らしい選手で、今後も毎年優勝争いをするだろう。勝敗を決めたのは、ほんの1・2ポイントの差だった。僕には試合を通じてブレークするチャンスがあったけれど、ものにできなかった。競り合うたびに、勝利が滑り落ちていくように感じていた。第2セットのタイブレークに入った時、少し勇気を感じたんだ。でも僕は幸運だったよ。あのタイブレークで、試合全体の様相が変わった。

---第4セット後半、時間を追いかけているような気がしましたか? 翌日に持ち越したくなかったでしょう?

ピート いや、そうでもなかった。もしある時点で中断したとしても、1セットリードしていたし。もし4-4とか5-5でも、勝てるという自信を持って、今夜はよく眠れたと思うよ。でも翌日戻ってくる事は、したくないよね。勢いやリズムを保ちたいと思うよ。幸運にも、全てが完璧に収まった。

---視界はどうでしたか?

ピート 最後の方は難しかった。多分、あと10分くらいしか残ってなかっただろう。興味深いタイミングで、興味深い日だったよ。

---今日はあなたのテニス人生で、最良の日と言えますか?

ピート そうだね、いろいろ起こった事を考えると、最良の時の一つと言えるね。時が経つにつれ、この事を、いま現在よりもっと味わうようになるだろう。僕がどう感じているか、10分かそこらで語るのは難しいよ。何カ月か何年か過ぎて、この最も困難で、最も満足のいく2週間の事を振り返るだろう。両親が来てくれ、素晴らしい筋書きで、僕にうまく働いてくれた。

---他に匹敵する時がありますか?

ピート
 僕が優勝したグランドスラム大会でいうと、最初にここで優勝した時が匹敵するよ。ここで優勝すると、いつも何かしら得るものがある。今回のウインブルドンでは、僕はベストじゃなかった。2週目はいろいろな理由で、元気がなかったよ。でも今日は必要な時に、自分のゲームを見つけられた。それが……それがこの2週間から得るものだ。

---それはリターンですか? 今日はそれまでの2週間より、リターンが良かったようでした。それが、自分のゲームを見つけられたという事ですか?

ピート そうだね、リターン。パットに対しては、いいリターンを打たなければならない。彼はボレーがとても上手いし、運動能力も高いから、パスで抜くのはとても難しい。何回かチャンスがあったけれど、いいリターンが返せなかった。ようやく第3・4セットで、彼に苦労させる事ができた。ブレークできないゲームでも、0-30とか30オールまで持って行けるようになった。僕が彼のサービスをブレークするのは、時間の問題だと感じていたよ。

こういうコンディションで最後までやり通すのは、簡単じゃない。今日は僕らは2人とも、感情的なジェットコースターに乗っているみたいで、上がったり下がったりしていたよ。全てがうまく行ったなんて、驚くべき事だ。僕は今日プレーする事になるとは考えてなかった。キャンセルになると思っていた。なんとか終える事ができた。

---中断の間、どんな事を考えていましたか?

ピート
 ただリラックスしていた。いつ物を食べるかが、いつも一番難しいんだけど、少し何か食べて、雨が止むのを待つ。ある時点で「今日はプレーしないんじゃないか」と思ったりもした。そうしたら、パッと太陽が顔を出し、15分で準備しなければならなかった。それがウインブルドンの魔力でもある。こういった天候上の問題にも、対処しなければならないんだ。

---あなたはテニスの歴史についても、よく承知していますね。皆があなたに、この記録の事を聞き続け、いまは解放されたような気分ですか? ようやく達成できたというような、ホッとした気持ちはありますか?

ピート 解放感とは見なしていないよ。僕はこの記録を破ろうと、計画していた訳じゃなかった。9回か10回優勝した頃、可能性としては考えたけれど。でも記録更新を、プレッシャーとは見なしていなかった。できたらいいなあという、一つの好機と見なしていた。でもこんな風に記録を破ろうと、計画したりはできない。僕がそういう位置についたから起こった、計画の範疇を超えるものだ。

その事に囚われた事はなかったし、何カ月か先も、まだピンとこないだろう。多分、まだ少し頭がクラクラしているんだ。ビックリしている。この大会がこんな風に、僕にいいような結果になるなんて、本当に驚くべき事だ。今回優勝できるとは思っていなかった。僕は苦しんできて、一体どうなっていくのか、全く分からなかったんだから。

---いまならあなたの足について、何か教えてくれますか? いままでは言わないできましたが……治療の事とか、どのくらい悪かったのかとか。

ピート 興味深い1週間だった。とても痛かったし、プレーするためにやるべき事は、全てやらなければならなかった。それがアスリートであるという事だ。そういう状況を乗り越えて、プレーするんだ。少し休んで、自然に治せたらいいなと思っている。もしこれがウインブルドンでなかったら、プレーしなかっただろう。

---実際に最悪の状態の時は、どんな風だったのですか? どんな事をしたのですか? いままで話したくなかった事で、いま話せる事がありますか?

ピート 以前にも言ったように、すべき事は全部やったよ。いい医療チームがついてくれて、お医者さん達は本当に素晴らしかった。

---呪い医師は?

ピート 何でも試したよ(笑)。鍼治療師も。

---第4セットでとても暗くなってきて、彼はもう自分のサーブが見えないんじゃないかという、快適な気分になりましたか?

ピート
 いや。暗くなってはきたけど、ボールが見えないという程ではなかった。それほど問題ではなかった。9時までにはサスペンデッドのコールがあるだろうと、僕らは分かっていた。眠れぬ夜になったかもしれないけど、僕は1セットアップしていたからね。そういう立場はいいよ。

---神経質になったと言いましたが、6回優勝していてもなおですか?

ピート そうだよ。僕らはみんな緊張して硬くなる。誰であろうが、その場の雰囲気に呑まれるんだ。タイトルは、ほんの2・3のショットで決まる。勝利が滑り落ちていくと感じたよ。第1セットは彼に優っていると感じていたけれど、ブレークできなかった。第2セットも少し優っていたけれど、タイブレークでは劣勢に立っていた。何だって起こるんだ。賽を振るようなものだ。

第2セットのタイブレークが、ターニングポイントだった。負けてしまうように感じていたけれど、チェンジオーバーで椅子に座っていた間、過去に第1セットを落とした試合の事を考えていた……ベッカーに対して第1セットを6-7で落とし、次の3セットを取った試合の事をね。過去の経験から、劣勢を乗り越える途を見つけられる時もあるんだ。

---ご両親はあなたのする事を信頼して、任せてくれるタイプの親だったと描写しましたね。あなたの選手としての上達には、どのくらい重要な存在だったのですか?

ピート 彼らはいつも少し距離を置いていた。子供時代やジュニアの時は、関わってくれていたよ。でもプロに転向してからは、コーチと一緒に大会を回るようになった。僕は独立していた。彼らは普通の親がするように支えてくれた。僕を愛してくれ、いつも正しい事を言ってくれた。ただ、いつも少し距離を置いていたんだ。僕が競っている時に、出しゃばりたくなかったんだ。

---今後あなたのお父さんが、ファミリーボックスで踊り出すような人になる可能性はありますか?

ピート いや、父はサインを出したりもしないよ(笑)。父はウイリアムズ氏みたいに注目を浴びるのが、好きではないんだ。

---あなたのご両親は注目されるのが窮屈で、脚光を浴びたがらないタイプである事を感謝していますか?

ピート 一つ言えるのは、僕の両親は……僕の両親は、いわゆるテニスパパ・ママではなかったという事だ。子供のテニスに関わりすぎる親をたくさん見るだろうけど、僕の両親は、いつも距離を保っていたんだ。つまり、家に戻れば僕はいつも同じピートで、両親は僕を、小さな子供扱いするよ。でも彼らは、僕が今日ここにいるための強さと心をくれた。僕に、この素晴らしいスポーツをするチャンスを与えてくれた。

彼らが僕にしてくれた事に、とても感謝しているし、だからこそ、年月が経つにつれて、キャリアのこういう場を共有してほしいと思うようになる。今回がその一つだ。多分数カ月後には、USオープンでも。でも父に聞いてみて。多分彼には少し休養が必要だと思うけど(笑)。

---どの時点で来てくれるよう頼んだのですか? もし決勝に進んだ場合には頼むと、あらかじめ考えていたのですか?

ピート 僕たちはその事については、ずっと話し合ってきた。毎年、決勝に進むたびに、彼らを招待していたんだ。でも父は「ああ、いや、お前はとてもよくやっているよ」という感じで……その場にいたくなかった訳じゃなくて、とても神経質になってしまうんだ。

今回、ヨーロッパに来る前に、彼らに話しておいた。「もし僕がグランドスラムの決勝に進んだら、あなた達にその場にいてほしい」ってね。彼らはそれを覚えていてくれた。準決勝に勝った後、言ったんだ。「よし、あなた達が飛行機に乗るかどうか、見てみようじゃないか」とね。彼らはそうしてくれたよ。

---観客の反応はどうでしたか?

ピート 素晴らしかった。彼らは試合にのめり込んでくれた。最後は素晴らしい瞬間だった。暗くなり、フラッシュが明滅して……あの時の観客のどよめきは、一生忘れないだろう。

---この後テニスで、成し遂げるべき事は、何が残っていますか?

ピート 達成という点では、僕はやりたかった事をやり遂げた。長い間1位でいたし、グランドスラムで何回も優勝した。フレンチが残っているものだね。でも僕はいまでも競い合う事、プレーする事を愛している。今日のような状況にいる事を愛している……コートに出る前に神経質になり、不安や勝利への切望を感じ、乗り越える途を見つけるような。

今日僕はそれをやった。ピンチを乗り越え、勝つ途を見つけた。いまは椅子に座って今日の事をよく味わい、楽しむ時だ。まだ次の事を心配する時じゃない。ただこの2週間の事を思い返すんだ。

---少しスケジュールを減らす予定はありますか? 記録も塗り替え、婚約もしました。これらは、あなたの人生の一里塚とも言うべきものです。今後スケジュールを減らし、グランドスラム大会のためにだけ準備するといった考えはありますか?

ピート 残りのキャリアの目標は、ベストのスケジュールを立てて、グランドスラム大会でいいプレーをする事だ。1位に戻りたいとも思うけれど、それはもう主たる目標じゃない。僕が練習、プレー、トレーニングするのは、メジャー大会のためだ。

---デビスカップでプレイする可能性はありますか?

ピート う〜ん、いまの時点で言うのは難しい。僕はここでプレイするために、とても果敢な処置を受けてきた。いまは適切なやり方で、この怪我を癒すべき時だ。でも、できるだけの事はやってみるよ。僕がどれだけ戦力になるか分からないけど。もしうまく行ったら、スペインに行くつもりだよ。

---第4セットの第6ゲーム、ブレークした後のサービスゲームを覚えていますか? あなたはダブルフォールトを犯し、ブレークポイントを迎えましたが、緊張したのですか?

ピート 緊張だよ。ブレークした後、自分に言い聞かせるんだ。「僕はあと3回サービスをキープしなくちゃいけないんだ」って。心臓の鼓動が速くなる時、緊張を感じる。何回ウインブルドンの決勝に進もうが、プレッシャーを感じる。とても重大なゲームだった。それからもう一度彼のサービスをブレークしたから、サービング・フォー・マッチは随分楽になった。

---彼の家族がオーストラリアから来ていた事を知っていましたか? あなたは彼らのパーティを台無しにしてしまった訳ですが、それは……?

ピート さあ、よく知らなかったよ。