アメリカ版TENNIS
1999年12月/2000年1月号
20世紀の偉大な男子プレーヤー10人
ピート・サンプラス
文:Sally Jenkins


彼はテニスを自己表現のための唯一の手段としてきた。その他の事では、彼は何も語らず、絶望的なほど、何も明瞭に宣言したりしない。ピート・サンプラスは、あらゆる言葉にならない感情、表現しない怒り、発散しない欲求不満、そして内に秘める痛みを、自分のテニスに伝えてきた。

USオープン最年少チャンピオンとして、初めて登場したサンプラスは、照れくさそうに頭をかく、ひょろっとした、孤独なギリシャ移民の息子だった。また彼の両親は人前に出たがらず、神経質になるので、彼のプレーを直接見る事はほとんどなかった。彼の四肢は結び目のあるロープのよう、サービスは金網のフェンスをも突き破れそうで、ちょっと見には、取るに足らない個性の持ち主のようだった。彼は困惑したような笑みを浮かべて、トロフィーを見つめた。まるで「僕がもらってもいいの?」という感じで。

青年になった彼は、深い喪失感を経験した。数々のグランドスラム・タイトルの陰には、コーチのティム・ガリクソン、親しい友人のヴィタス・ゲルレイティスの死が伴っていた。大人になり、彼にはそのゲームが表すように、物言わぬ激情が備わったが、華麗で古典的な佇まいは、めったに正当な評価を受ける事がなかった。

個々の素晴らしいストロークを持つチャンピオンは数多くいたが、サンプラスほど、たくさんの名だたるショットを持つ者がいただろうか。サービスは鉄槌のように相手を倒し、ランニング・フォアハンドはその日の栄光、バックハンドは重く、奥の深いボディブロー、ジャンピング・オーバーヘッドは息を呑むような拍手喝采を引き起こし、ボレーは決め手となる。それに彼の気質から来る一徹さと、向こう見ずなほどの大望を加えなければならない。その究極の証拠が、最高記録タイの12回のグランドスラム優勝と、6年連続年末1位の記録である。

シンプルな真実は、ピート・サンプラスは、繰り返す価値のある事を言ったりしたりはしない……このゲームを今までの誰よりも上手くプレイするという事以外は。