グローブ&メール(カナダ)
1996年9月24日
サンプラスは遺伝性の貧血症と戦う
文:Tom Tebbutt


この上なく才能豊かなピート・サンプラスにとって、サラセミア(地中海性貧血症)ほどの難敵はいそうもない。

9月10日付「トロント・グローブ&メール」紙に、世界ナンバー1のサンプラスは貧血症を抱えているという憶測記事が掲載された。そして、それはまず間違いなく遺伝性のサラセミア・マイナーであろう。地中海地方の人々によく見られる、先天的形質の貧血症である。

サンプラスの母親ジョージアはギリシャで生まれ、父親のサムもギリシャ系である。サラセミア・マイナーの形質を持つという事は、25歳のサンプラスは、赤血球中で酸素を運ぶヘモグロビンの数値が低い事を意味する。

「それは軽症から中程度の貧血症で、普通の生活を営む分には何の支障もない。週末にラグビーをする程度の人なら、恐らく気付きさえしないだろう」と、トロントの血液学学者 George Kutas 博士は説明した。

サラセミア・マイナーは両親の1人から遺伝する。もし両方の親からその遺伝子を受け継ぐと、結果としてより重篤なサラセミア・メジャーになる。「もしサンプラスがサラセミア・メジャーを抱えていたら、症状はとても重くて、テニスをしていないだろう」と Kutas は断言した。

より重篤な形質の場合は、継続的な輸血の必要性があり、成長も阻害される。また、たび重なる輸血によって、多くの合併症が生じる可能性も高い。

「サラセミア・マイナーは、それに適応して生涯を過ごせるものである」と Kutas は語った。「今後数年にわたるサンプラスの体調は、今までと大して変わらないと予測される。なぜならサラセミアは生まれつきのもので、これ以上は良くも悪くもならないからだ」

「サラセミアを抱えた世界的な運動選手は、これまであまりいなかったので、対象についての参考になる文献はない。証明する研究結果はないが、酸素の運搬許容量が限定されるため、運動選手は、もう心臓血管から酸素の供給を増加できないという事態に陥るかもしれない。赤血球の数は一定だからだ。従ってスポーツのトップレベルに要求される『もう一踏ん張り』を損なうであろう」

酸素吸入はあるスポーツ、特にフットボールではよく見られるが、サンプラスにとって解決にはならない。

「恐らく助けとはならない。赤血球が酸素を運ぶという機能自体には、何も問題はなく、単にヘモグロビンの数が不足しているからだ」と Kutas は言った。

サンプラスは試合中に何ができるだろうか?
「大会の前に輸血を受ける以外には、できる事はさほどない」と Kutas は語った。

輸血の効果は(しかし彼自身の血液ではダメだ。既にヘモグロビン値が低いのだから)、USオープンのような大会(サンプラスが2週前に優勝した)の2週間は容易に続くだろう。しかし副作用の可能性を考えると、彼が輸血を受けるとは考えにくい。

輸血そのものは、何人かの世界的な運動選手が犯した血液ドーピングとは見なされないだろう。
「血液ドーピングとは、標準的なヘモグロビン値の者が、さらに過大なヘモグロビン・レベルを求める場合をいう」と Kutas は説明した。「サンプラスの場合は、もし輸血をしても、彼のヘモグロビン値を標準レベルまで上げるだけの事になる」

サンプラスに対して、どんなアドバイスがあるだろうか?
「長い試合では、彼が多くの困難に陥る事は明白である」と Kutas は言った。

「(USオープンでの忘れ難いアレックス・コレチャ戦のように)彼はちょっとラケットにもたれて屈み、そして次に時速110マイルのサービスエースを放つのだ。基本的には、ただあるポイントまで自分自身をプッシュするようにと、彼に忠告するだろう」

食べるものについて、サンプラスが気をつけるべき点はあるだろうか?
「食事療法に関しては、彼にできる事は何もない。なぜなら、それは生まれつきの体質だからである。実際に、しばしば鉄分の欠乏と誤診される」と Kutas は語った。

サンプラスのケースでは、もし彼の母親がその遺伝子を持っていたら、恐らく彼女は妊娠時に受けた検査で、その事を承知していただろう。
「血液検査をする医師は、容易にそれを見つけられる。もしヘモグロビン値が正常より低ければ、医師はそれを確認するために、さらに簡単な検査をするのだ」と Kutas は言った。

サンプラスに子供ができた場合、それが遺伝する可能性は50パーセントである。しかしながら、もし母親になる者も同じ遺伝子を持っていたら、彼らの子供がサラセミア・メジャーになる可能性は25パーセントある。

サンプラスのキャリアへの影響だが、長い消耗戦になると、彼が問題を抱え続ける事は明らかだ。しかし1ポイントが速く終わるウインブルドンのような大会では、彼はきっと上手くやり、堂々たる8回のグランドスラム優勝にさらに追加する事も可能な筈だ。

もしサンプラスがサラセミア・マイナーである事を認めれば、頻繁に起こる身体の衰弱は準備とコンディション調整の不備からくると解釈してきた批評家を沈黙させる一助となるだろう。