プラネット・オブ・ディ・エイプス(猿の惑星)事件顛末記


1993年ジャパンオープンでピートは初めてナンバー1の座に就きましたが、それについてアガシが舌禍事件?を起こし、ピートが迷惑をこうむったというお話。

発端:アガシ「サンプラスは猿のようだ。あんな顔でナンバーワンなんて信じられるかい」

当時の事について、以下の2本の記事は次のように伝えています。



テニスマガジン
1997年12月5日号
たしかアメリカのライターが著した男子テニス界(もしくはアガシについて)の本の翻訳記事(ピートに関係ある部分しか切り抜かなかったので、タイトルは不明)

サンプラスのことを、あいつは木にぶら下がっているサルみたいだ。あれでも世界のナンバーワンか、などとつまらぬ陰口をたたいた。アガシが遅まきながらしぶしぶ申し述べた謝罪を、サンプラスが寛大に受け入れたおかげで、ウインブルドンのヒーローにあるまじきお粗末な失態は、何とか収拾がついた。

テニスマガジン
1999年10月号
新・ライバル伝説が今、はじまる より

ふたりの間にライバル的な意識が芽生えたのは、サンプラスが初めてナンバーワンになった頃だろうか。93年の4月にサンプラスは歴代11人目のナンバーワンとなったのだが、その年のフレンチ・オープンで、アガシは「サンプラスは猿のようだ。あんな顔でナンバーワンなんて信じられるかい」と記者たちの前で余計な一言を口にしている。

これは、その頃、サンプラスとは対照的に、トップテンからも滑り落ちてしまっていたアガシの子供っぽい、ちょっとした嫉妬から出た言葉だろう。もっとも冷静で温厚な性格のサンプラスは、そのコメントを聞かされても「僕らは去年いっしょにデ杯を戦った。アンドレは友人なんだ。彼と言い争いをするつもりはないよ」と大人の発言をしてとりあわなかった。



アガシはこの年、手首の怪我でフレンチ・オープンを欠場しましたが、プロモーション活動のためにパリには来ていて、そこで取り巻きの記者相手にこの失言をしたらしい。当時のアガシは、まだ「 Image is everything 」を地でいく目立ちたがりで反逆児きどりの浅はかな若者で、たとえ冗談まじりだったとしても、子供じみたヒガみ根性をこんな風に露わにするとは、なんたる愚かさ・見苦しさと驚きあきれたものでした。これっていわば政治家が自分の後援会なんかで、調子に乗って不用意な失言をするレベルだものね。

まあ、ピートがいわゆる「サル系」でないとは言わないけど、外見についてアガシになんか言われたかない! もっとも私も初期のピートを「モンチッチ」「オリバー君」なんて親しみを込めて?言ってたけど。(^^; でも心の中で思うのと、公にこんな形で口にするのとは大違い。おかげでフレンチに出場していたピートは、記者会見でもこの件について質問され、煩わされました。2人のケンカを期待するメディアはワクワクしていたのかもしれませんが、ピートは以下のように答え、挑発には乗りませんでした。



1993年フレンチ・オープン
1回戦後の記者会見 1993年5月25日
ピート・サンプラス/アンドレイ・チェルカソフ 6-1, 6-2, 3-6, 6-1

(前略)
質問 土曜日にアンドレ・アガシが君について、サルみたいな奴だ、あんな風な奴が1位になるべきじゃないと言ったのを知ってるかい?
ピート ああ、聞いたよ。
質問 どう反論したの?
ピート 特に何も。
質問 彼に会ったら反論するかい?
ピート 僕としては、アンドレと言い合いをするつもりはない。だからただ放っておくよ。
(ここからしばらくは試合の話になる)

質問 ピート、特に誰とは限定しないが、原則的にトップ選手たちは、公の場では互いにそれなりの敬意を払う事が重要だと感じるかい?
ピート 何について?
質問 つまり……
ピート 彼が言った事?
質問 お互いについて言うべき事は?
ピート 少し驚いたよ。僕はアンドレをいい友人だと思っている。昨年のデビスカップで彼をかなりよく知るようになった。彼があの発言をしても、僕の気持ちはそれほど傷つかなかった。きっと彼は本気じゃなかったんだろう。よく分からないけど。僕はメディアを通して言葉の応酬をするつもりはない。ただそのままにしておくよ。
質問 君が公の事で目指すのは……
ピート 僕は発言でもプレーでも、品格をもって行うように努めている。それは僕にとっては大切な事なんだ。それが、僕がかつてのオーストラリア人選手たちを好きな理由だ。彼らの発言や振る舞い方。僕には大切だ。僕は誰に対しても否定的な事を言ったりしないだろう。
質問 それが君にとっての品格かい? 友好的に振る舞い、いまの君のようである事?
ピート ええ、コートの中でも外でも品格をもって自分を律する事。それは僕にとっては重要な事だ。コート上でナイスガイとして振る舞い、さらに大切なのは、コートの外でもナイスガイでいる事。それが僕の努めている事だ。

Q. were you aware that Andre Agassi on Saturday described you as looking like a monkey, said somebody who looked like that should not be the No. 1.
PETE SAMPRAS: Yeah, I heard.
Q. What was your reaction to that?
PETE SAMPRAS: Didn't really have a reaction.
Q. Do you think you might have a reaction when you see him?
PETE SAMPRAS: I think it's best that we -- for me, not to get into any verbal words with Andre. So I will just leave it at that.

Q. Pete, without getting involved in specifics, do you feel it is important to be -- as a matter of principle, that the leading players should show some respect to one another in public?
PETE SAMPRAS: As far as what?
Q. In terms of--
PETE SAMPRAS: What he said?
Q. What you have to say about one another.
PETE SAMPRAS: I was a bit surprised. I consider Andre a pretty good friend. I got to know him pretty well this past Davis Cup matches, but you know, when he said it, my feelings weren't really that hurt, but maybe he didn't mean it. I don't know, I'd rather not really get into any sort of verbal communication through the media. Just keep it at that.
Q. You always aim in public things --
PETE SAMPRAS: I try to say and play with class, and that is something that is really important to me. That is why I really enjoy the way the Australians kind of conducted themselves as far as their -- what they say and the way they act. That is important to me. And I wouldn't say anything negative about anyone.
Q. Is that class for you? What does class -- like behave friendly and like the way you are right now?
PETE SAMPRAS: Yeah. Just try to conduct yourself on the court and off the court with class. It is one thing that is important to me. I try to conduct myself on the court to be a nice guy, and even more important, off the court to be a nice guy. That is what I try to do.



終了宣言:サンプラス「僕は以後この事については話をしない」

2回戦後の記者会見 1993年5月28日
ピート・サンプラス/マルコス・オンドルスカ 7-5, 6-0, 6-3

(前略)
ピート 1つ触れておきたい事がある。2日前アガシが僕にファックスを送ってきてくれたが、その中で発言について謝っていた。彼はちょっとふざけたんだ。とても感じの良いファックスだった。もうこの件は終わりにして、僕は以後この事については話をしない。
質問 ファックスには驚いたかい?
ピート いいや、別に。つまり、それを期待していたとは言わないけれど、ファックスを見てもショックは受けなかった。アガシが本気で言ったんじゃないと知っていたからね。彼はちょっとふざけて、それをマスコミの何人かが間違った取り上げ方をしたんだ。僕たちはいい友人で、そのファックスはいままで僕が受け取った中でも、とても感じの良いものだった。
質問 ホテルに届いたの? それともここに?
ピート ホテルにだよ。

PETE SAMPRAS: One more thing I wanted to mention was that Agassi wrote me a fax couple of days ago just to apologize for what he said. He was basically having some fun, and it was a very nice fax, and you know, basically just put it behind us, and I'd rather not talk about it anymore.
Q. Did that surprise you?
PETE SAMPRAS: No, not really. I mean, I didn't say I expected it but when I saw it, I wasn't like shocked because I knew Andre didn't really mean what he said. He was having a bit of fun and couple of guys in the press kind of took it the wrong way and we are good friends and it was one of the nicer faxes I have ever gotten.
Q. To the hotel or to here?
PETE SAMPRAS: To the hotel.



とまあ、ピートの「大人の対応」で一件落着。その後1995年、2人の友好的ライバル関係が喧伝されていた頃、アガシは次のような事を言ったとなっています。



T.Tennis
1995年8月号
我らの時代に(文:亀井史夫)より

(前略)
だが、当時からふたりの仲が良かったかどうかは、疑問である。
こんな事件があった。
93年、ピートがナンバー1の座についたとき、アンドレは先を越された悔しさからか、「あんなサルがナンバー1だなんて…」と公の場で発言してしまった ---。
そのことがピートの耳に入ったことを知ったアンドレは、ヤバイ!と思いすぐさま謝罪のファックスを送った。
それを読んだピートは、肩をすくめながらも、簡単に許したという。
「アンドレらしいよね」と…。

「それが尊敬の始まりだったんだ」
アンドレは述懐する。
「僕たちはオンコートでもオフコートでも、尊敬しあうようになった」



後日談
それこそアガシらしいシー調発言。もっとも、ピートも例の発言そのものは忘れていなかったらしく、この年の春先に行った「ゲリラテニス」CM撮影の休憩中、2人が木の下で腕を上げてリーチの長さを比べ合い、アガシが「僕より15センチくらい長いかなあ」と言ったら、ピートは笑いながら「僕は木にぶら下がってるから…」と、キツ〜い(^^; 冗談。「ダンクシュートができるんじゃない?」と、さり気なく話題を変えたアガシも、内心は冷や汗タラ〜リだったかもね。
(このエピソードは「ゲリラ・テニス」メイキングビデオ中に収められている)