模倣と創造の研究
模倣の種類
弁理士 遠山 勉
ところで、模倣という言葉を繰り返してきましたが、では模倣にはどのような形態があるのでしょうか。
前記横山氏はタルドの説を引用して以下のように分類しています。 (以下,模倣の社会学:横山 滋:丸善ライブラリーより)
意識的模倣と無意識的模倣
抽象的模倣と具体的模倣
丸ごとの模倣と部分的模倣
形式的模倣(結果の模倣)と精神的模倣(課程の模倣)
知識の模倣と欲求の模倣
模倣と反対模倣(逆のことをしたがる)
有意味な模倣と無意味な模倣
以上につき横山氏は、以下のように説明しています。
なお、*で示した部分は私(遠山)が付加した点です。
(1)意識的模倣と無意識的模倣
「タルドの模倣説を理解する際に注意しなければならない点の一つは、彼の言う「模倣」が無意識の無意識の模倣を含んでいる点である。通常の理解によれば、模倣という言葉は主として意識的な模倣を意味している。・・・タモリが寺山修司のまねをするのは意図的な模倣に属する。しかし、タモリがタモリ自身として話すときの話し方は、彼が時に意図的に真似してみせる大橋巨泉に似ている。」 このように、意識的模倣とは模倣の意図がある場合で、無意識的模倣とは、模倣の意図がないにもかかわらず結果として模倣している場合です。
*私の個人的な見解ですが、日本人を含めたアジア人は欧米人に比較して、この無意識的模倣の範囲が広いのではないでしょうか。この点は命題として、今後検証していきたいと思います。
(2)抽象的模倣と具体的模倣
抽象的模倣とは基本態度についての模倣が抽象的模倣であり、例えば、偉人の伝記を読んでその生き方をまねるとか、恩師の価値観に影響を受けるという場合などです。具体的模倣とは隣の家でピアノを買ったのでうちも買うという場合などです。
*これを、発明に関してみると、コンセプトの模倣が前者であり具体的実施例の模倣が後者であるといってよいでしょう。
(3)丸ごとの模倣と部分的模倣 丸ごとの模倣とは、全体を模倣することであり、部分的模倣とは対象の一部を模倣することです。
私(横山氏)の小学校時代、運動会で先生が飛び込み前転の模範演技を毎年披露してくれた。それは運動会での華であった。ある年、一人の生徒がその大業に挑んだ。これなどは小なりといえど「丸ごと」の模倣に属している。 *このような模倣は非難されるものではなく、むしろ先生からは褒められたことでしょう。それが、知的財産権の丸ごとの模倣となると非難される。両者の差異は検討されるべきであろう。
(4)形式的模倣(結果の模倣)と精神的模倣(課程の模倣)
形式的模倣は、結果だけをそのまま模倣することで、精神的模倣とは、結果に至る課程や方法を模倣することをいう。
*弁理士試験に例えてみると、先輩諸氏の模範答案や答案作成用レジメをそのまま暗記する方法が前者で、それらを参考に、答案作成方法を再考して自分のものにしていく過程は後者に属するといってよいでしょう。
(5)知識の模倣と欲求の模倣 (知っていることによる差別化と同じことをしたがること)
世の中には、別段難しい技術や訓練を必要とせず、ただ知っているだけで、知らないひとに圧倒的な差をつけられような知識や情報がたくさんある。このような知識はそれ自体価値があるので、模倣の対象となる。 これに対し、欲求の模倣がある。人の行動は自分自身の内的欲求や理論だけで決まるものではない。他人の欲求に左右される場合がある。兄や姉の持っている玩具と同じものを欲しがる子供はこれにあたる。 *この点は若干疑問がある。兄と同じものを欲しがるという現象は「欲求」が模倣されたのであろうか? 今後の研究課題としてみたい。
(6)模倣と反対模倣(逆のことをしたがる)
タルドは言う。「実際,模倣には2つの様式がある。すなわち,そのモデルの通りにするか,あるいは,それとは全く反対のことをするかである。」
このことは,言い換えると次のようになる。ある発明が伝えられたとき,それに対する人々の反応は,
@それを模倣するか,(*特許の場面で言えば,発明を受け入れ正当に買うか,侵害するか)
A反発するか,(*侵害を避けて,他の発明をする)
B全く無視するか,
の3通りである。
心理学の研究によれば,発達の過程において,子供は一旦親のイメージを取り込み,次にそれを否定することで自己を確立して行くという。
(7)有意味な模倣と無意味な模倣
模倣には,(模倣対象の)本質的な理解が伴っていないために,無意味なことを模倣してしまう例もあれば,賢明に有意味な部分だけを模倣するというケースも少なくない。無意味な模倣の典型は,落語の「本膳」に現れる。食事の作法を知らない人たちが宴席に出ることになって,とにかく隠居が最初にやるとおりにやればよい,ということになる。ところがその席で隠居が誤ってさといもを取り落としてしまう。すると他の皆もそれが作法なのかと勘違いして,わざわざさといもを転がすという話である。
*特許の場面で,無意味な模倣を含む侵害品の場合,その無意味な部分まで模倣したことの事実を立証することで侵害が容易に立証される。
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