ソーテック製「e-one」は、アップルコンピュータ製iMacの模倣か???
独創的デザインコンセプト保護という観点から

秀和特許事務所 弁理士 遠山 勉

(以下の記述は、上記観点からのものであり、e-oneのiMacに対する不正競争防止法2条1項1号要件事実の該当性判断の是非とは異なることに注意して下さい。)


 iMacとe-oneについて,東京地裁は、iMacがアップルコンピュータの商品表示として需要者の間に広く認識されているものであり、e-oneの形態はこれと類似し、アップルコンピュータとの混同のおそれがあるとして、ソーテックに対し、不正競争防止法3条1項、2条1項1号に基づき、e-oneの製造、販売等の差止め認める仮処分の決定を下した(決定全文はここをクリックして下さい)


          e−one

左の写真中、上がe−one 下が iMac

 *注  i Mac とe−oneとの写真での詳細な比較は、DIME No.19 10月7日号 122〜123頁で見ることができます。ご参照下さい。
 

 不正競争防止法第2条1項1号の不正競争行為の要件事実は以下のように分類されます。
  @他人の商品等表示として需用者の間に広く認識されているものの存在
  A不正競争行為者が上記@の商品等表示と同一または類似の商品等表示を使用し、または、それを使用した商品を譲渡等したこと
  B上記Aの行為によって、他人の商品または営業と混同のおそれを生じること

  その他、差し止め要件として被侵害者の営業上の利益が侵害され、または侵害のおそれがあること、損害賠償の要件として営業上の利益が侵害されたことが必要となります。

 上記要件事実のうち、Aの商品等表示との類似性について(以下の7つの点で、e-oneはiMacに類似するとした。)の地裁の判断は以下の通りです。
 (前提として、地裁は、iMacの外観デザインが、アップルコンピュータの商品等表示であり、かつ、需用者の間に広く認識されていると判断したものとみられます。)


東京地裁におけるe−oneのiMacに対する商品等表示の類似性について

@一体型のコンピュータにおいて,全体に曲線を多く用いた丸みを帯びたデザインであり,外装に,半透明の白色と半透明の青色のツートンカラーのプラスティック素材が使用されている。

A正面視方向の形状は,角がやや丸みを帯びた四角形であり,中央の表示画面を囲む支持部分の左右及び下部が半透明の白色である。表示画面の下方のコンパクトディスク・ドライブのトレイ前面が半透明の白色で,トレイ出し入れ用ボタンが半透明の青色である。下部の両端に内蔵されたスピーカーが青色である。

B上面視方向の形状は,ほぼ台形に近い緩やかな三角形である。上面の前側は,正面の表示が面支持部分丈夫から連続するカバーに覆われ,半月形を示している。半月形の中央部には,債権者商品(iMac),債務者商品(e-one)のそれぞれの標章が付されている(なお,債務者商品の標章は地の青色と同一色が選択され,目立たない)。半月形カバー以外の後ろ半分が,側面と連続的に半透明の青色のカバーに覆われており,内部の熱を外部に放出するための穴が,横向きの曲線状の数本の帯に沿って並んでいる。丈夫に,本体を持ち運びするための半透明白色の持ち手が取り付けられている。

C側面視方向の形状は,上辺が後方に緩やかに下がった台形に近い三角形である。ほぼ3分の2は,半透明の青色であり,その他の部分は半透明の白色である。カバーを透かして見える内部には基板が立てられた形で配置されている。

D背面視方向の形状は,正面の四辺から背面に向けてそれぞれ緩やかな曲線を描いて絞られている。多くが半透明の青色で覆われ,一部半透明の白色がある。それぞれ側面と連続性を有している。

Eキーボードは,本体と同じ半透明の青色のツートンカラーである。キーは,半透明の黒色である。マウスも,本体と同じ半透明の白色と半透明の青色のツートンカラーである。キーボード及びマウスを本体に接続するためのケーブルは,銀色の芯線を透明な皮膜で包んだものである。

F電源ケーブルは,鮮やかな複数色の芯線を透明な皮膜で包んだものである。

 現時点での判決内容に関する情報はここまでであり、他にも混同の有無についての判断等に関する情報が必要ですが、入手できた場合、掲載します。


DIMEでの類似性意見

雑誌 DIME 10月7日号の122頁では、iMacとe-oneとの類似性について、以下の記事が載っている。

カワベ:ついにアップルコンピュータから「iMac」のデザインを模倣したとして訴えられたね。
オグチ:少なくとも、スケルトン(トランスルーセント)ボディーで、モニター一体型というコンセプトは同じですからね。私の「iMac」と並べてみましょう。
カワベ:うーん、第一印象としてはそっくりだなあ。内蔵マイクや電源ボタンの位置も同じだ。
オグチ:じっくり見ると「e-one」はよりクスエアで、従来のパソコンのイメージに近いですね。
カワベ:後ろには、それぞれシンボルマークが入っているのも同じ。おしりは「iMac」のほうがとがっているね。
オグチ:あとうりふたつなのは、ACコード作っているのはたぶん同じメーカーでしょう。

●以上が、DIMEでの意見ですが、ここで注目すべきは、「コンセプトは同じ」という意見と、「第一印象としてはそっくり」という点でしょう。
 このお二人は、いわゆる不正競争防止法における類似性判断の「専門家」ではありませんが、この専門家でないが故に、その意見は重要であるといってよいと思います。

弁理士の立場からみた意見

●以下、一弁理士としての立場から今回の決定についての見解を述べたいと思うが、本事件について、債権者、債務者間で具体的にどのような疎明がなされたのか、現段階で知り得ないので、その限りにおいての見解であることを了解して下さい。

○iMacデザインの独創性
 「iMacは、ボンダイブルーと呼ぶ初期型モデルが平成10年8月に発売され、その後平成11年1月に債権者商品を含む5色の現行型が発売されたが、初期型モデルも現行型モデルも極めて独創性のある形態を有することには変わりがなく、そして、初期型モデルの販売の際はもちろん、現行型の販売に際しても、強力な宣伝がされ、マスコミの注目を集め、販売実績も上がったことが一応認められる・・・」(地裁決定)というように、iMacデザインの独創性は極めて高く、これを否定しえません。
 本件が、このようなiMacデザインの独創性を背景にしているのは疑いのないことでしょう。

○独創性を無視した類否判断
 では、このような独創性を無視し、e-oneがiMacに類似するか否かを単に機械的に行うとしたら、どうでしょうか?
 そのような場合、非類似であるとの結論となる可能性は極めて高いものと思われます。

 両者において外観上大きく異なるのは、以下の点です。

1.正面から見て、e-oneが、外装に,半透明の白色と半透明の青色のツートンカラーのプラスティック素材を使用しているが、着色部分が、正面のディスプレイを取り巻く周囲の内、天井部分と、左右下の角部のスピーカを有する三角部分に存在するのに対し、iMacでは、正面のディスプレイ周囲全体が半透明の白色となって額縁状態であり、着色部分は、わずか左右下側のスピーカを有する楕円領域部分にすぎない点。

2.側面から見て、e-oneが、外装上部に,半透明の白色のプラスチック素材を使用し、そこから下部に至る領域を、青色のプラスティック素材で覆っているが、iMacでは、側面下部が半透明の白色となっており、そこから上部に至る領域が着色部分となっていて、前者が半透明の帽子をかぶったような印象を受けるの対し、後者は半透明の座椅子に座っているような印象を受ける点。

 この2つの相違点は、両者の類似性を判断する上で、かなり大きな比重を占めるものと思われます。 iMacデザインの独創性を無視して、単に機械的な類否判定を行った場合、上記差異は、両者が非類似であるというには十分であると思われます。
 しかも、e−oneはウインドウズモデルであって、iMacのOSとは異なるわけですから、需用者が購入の際に混同することはないという主張も可能でしょう。

  このような相違点から、弁理士が行う通常の類否判断において、「非類似」であるとの結論が出されるのも無理からぬことだと考えられます。ソーテック側では、「特許や意匠など専門分野の弁護士に相談した。問題はなかった」としているが(朝日新聞ニュース)、従来からの手法ではこのような結論になるのではないかと同情します。

●しかし・・・(私の個人的見解)

 機械的類否判断では上記のような見解となるのが通常ではないかと思いますが・・・がしかし・・・です。iMacの独創性を考慮するとき、上記結論が妥当かは疑わしいものとなります。
 
 決定の言う通り、「一体型のコンピュータにおいて,全体に曲線を多く用いた丸みを帯びたデザインであり,外装に,半透明の白色と半透明の青色のツートンカラーのプラスティック素材が使用されている。」とう点は、いわば、iMacデザインのコンセプト部分であり、iMacの出現なしに、e-oneの出現はなかったでしょう。

○私は、結論として、本事件は、不正競争防止法2条1項1号に基づき、間接的に「独創性のある外観デザイン・コンセプト」を保護したものと理解します。

 外観デザイン・コンセプト(ある商品の外観を○○というデザインにするというデザイン思想)自体を直接保護する法律はなく、意匠の創作を保護する意匠法ですら、具体的物品の外観として、「物品の意匠」を登録し保護する法律形式となっており、デザイン思想自体を直接保護するものではありません。おそらく、iMacとe-oneが共に意匠出願された場合、上記機械的類否判断からすると双方登録される可能性は高いでしょう。

 おそらくiMac側は、iMacのデザイン・コンセプトを日本でどのように保護したらよいか、思索したことでしょう。
 候補として挙げられる条文は、不正競争防止法2条1項1号、同3号でしょう。ここで、3号は商品形態の模倣禁止条項で、いわゆるデッドコピー禁止と言われるものです。ここでいう模倣の範囲は完全コピーを原則として想定しており、上記相違点からすると、デザインコンセプトは同じくするものの、デッドコピーとは言えないものであり、その限りにおいて3号の適用は不可能となります。
 そこで、今回、2条1項1号で、商品等主体混同惹起行為としての商品形態の模倣防止を図ったのでしょう。

○模倣は是か非か
 模倣自体が、デザインの創作、技術の進歩等に必要不可欠なものであり、模倣=悪とすることが短絡的であることは自明であります。シルクロードを伝わって、ギリシアの唐草模様のデザインが、地域毎に風合いの異なるデザインとして伝搬し、日本にまで影響を与えたことは、日本文化に恵みを与えるものであり、それ自体を否定するものでありません。すなわち、新たな創造を生み出す上での模倣は許されるということであります。
 ここでいう新たな創造というとき、その創造の内容が問題となります。
 本件について換言すると、模倣と創造という見地から、e-oneという模倣が正当な模倣として許容される範囲のものかということです。
 模倣と創造については、本ホームページの「模倣と創造の研究」のコーナーで私の見解等を紹介してありますので、参照して下さい。

 創造というとき、そこには自己のオリジナリティ(アイデンティティ)を包含した、積極的創造と、他人のデザイン・コンセプトを内包するだけの迂回的創造にとどまる消極的創造とがあると思われます。

 積極的創造では、他人の模倣を土台にした場合でも、そこには、自己の新たなコンセプトやアイデンティティがさらに上乗せしてあるという意味で、模倣対象に対し、敬意を払っている、と言ってよいでしょう。今回のe-oneデザインを見た、iMacデザイナー達が、「うーむ、我々の上を行くデザインだ」、良い意味で「やられた」と感心するものであったとしたら「文句」は出なかったでしょう。
 
 e-oneデザインとiMacデザインとの模倣関係を見ると、
 一体型のコンピュータにおいて,全体に曲線を多く用いた丸みを帯びたデザインであり,外装に,半透明の白色と半透明の有色のツートンカラーのプラスティック素材を使用するという点で、デザインコンセプトが同じとした上で、
 e-oneは、半透明の白色と半透明の青色のツートンカラーのプラスティック素材をiMacとは天地逆さにし、iMacの左右下側のスピーカを有する楕円領域部分の着色部分に対し、e-oneは、正面から見た、左右下の角部のスピーカを有する着色部分を楕円から三角形に変更したのであり、この点にオリジナリティがあるか否かが問題となるでしょう。
 このような変更を積極的創造とは言い難いのではないでしょうか。

●消極的創造から積極的創造の時代へ

 本件を報じる日経産業新聞の一面は、・・・・「模倣」文化に法の警鐘・・・・という見出しを付けています。
 アジア圏における模倣文化は、明治以来、近代西洋文化に追いつけ追い越せという形で、日本がその先鞭を付けたものです。今や、奇跡の発展を遂げた日本の産業は、アジア諸国から「模倣」の対象となってきていますが、未だなお、その根底に「模倣」文化を潜在化させています。
 近年の不況は、そのような文化からの脱皮がない限り打破できないものと思われます。これから、世界をリードする産業の発展を目指すには、これまでの模倣文化を捨て、良い意味で模倣を組み入れた、積極的創造文化を構築して行く必要があるのではないでしょうか。 今回の決定は、そう言った点で大きな意義を有するものでしょう。

●独創的デザインコンセプト保護の問題点

 先に、「本事件は、不正競争防止法2条1項1号に基づき、間接的に「独創性のある外観デザイン・コンセプト」を保護したものと理解します。」と言いました。

 仮にそうだとした場合、不正競争防止法でそのような保護をするにはやはり無理があり、今後の裁判の進行によっては、e−oneが法律上の許容される範囲での模倣であるとされる可能性は大きいとも言えます。

 不正競争防止法2条1項1号が問題なのは、本号がいわゆる「周知性」を要件としている点です。
 周知性がなければ、どのように優れた独創的デザインであっても保護はされません。

 また、「混同」を要件とする点も問題です。販売方法の相違点が大きい場合、混同を生じないとされる場合があり(例えば、ビオクイーン事件)、本件においても、販売チャネルが大きく異なっており、e−oneがソーテックの製品であり、ソーテックが何らアップルコンピュータと関係がないということを認識しうる状態で、販売されていることが立証されるのであれば、出所混同しないとされる可能性はあるでしょう。

 このような場合、独創的なデザインコンセプトは保護されないことになります。 
 この点意匠法などでも同様です。独創的なデザインコンセプトを保護するには意匠法ではあまりにも権利範囲が狭すぎます。特許では保護対象となりません。

 日本が、欧米諸国に真の意味で肩を並べて世界をリードして行くためには、もはや「創造性」がないとか、「模倣天国」ということを言われない、オリジナリティのあふれた産業界を構築していかなければなりません。その意味で、「独創性」を育てるであれば、それを保護するための法的整備も行う必要があるでしょう。