模倣と創造に関する書籍紹介「創造学のすすめ」
畑村洋太郎 (講談社)より

by 遠山 勉


 最近、畑村洋太郎東京大学名誉教授が著された「創造学のすすめ」を読んだ。極めて有用な本だと思うので、ここに紹介します。創造とは何かを考える上での参考にして下さい。発明のクレームドラフティングの際に、畑村氏の手法を利用して、保護範囲を拡大する作業をしてみましょう。

第1章 創造の仕組み

・すべては「要素」「構造」「機能」で成り立っている。
・創造とは新しい機能を果たすものをつくり出すことである。
・「『要素』や『構造』の組み合わせによって、新しい『機能』を果たすものをつくること」

★最初の第一段階のレベルは「模倣」です。

・大切なのは模倣を徹底的に繰り返すことで、その対象がどういう「要素」によってどういう「構造」を形成しているかをなんとなくわかるようになること。
・模倣は誰もが必ず通過しなければならない一つのプロセスだということ。

★自分で構成する「要素」をいろいろと組み合わせて「構造」をつくっていく創造の第二段階のレベルです。
・「作法」といい、培ったもののつくり方、ものごとの進め方を凝縮し、定式化していまに伝えている。
・作法を身につけることでそれなりにものをつくることができるようになった状態が、まさに、「模倣」に続く第二のレベルなのです。
・定式や先生に依存しているうちは、自分が求めている「機能」を持つものをなかなか生み出すことができない。

★真の創造の段階では「機能」を意識する(第三のレベル)

・「守・破・離」
・最初は教えを守る「守」の段階で、これは「模倣」ということです。
・その次にくる「破」は自分なりの発展を試みる段階です
・「離」の段階で、これは創造の第三のステージ

第2章 創造のプロセス

(1)種の出し方

★思考平面:創造の場には高さも時間の流れもなくまさに平面の場である。この平面を思考平面という。創造の種がこの思考平面に落とし込まれるところから創造がスタートする。

★水平法:他の分野の知識や常識を自分が取り組んでいる分野に当てはめたり、自分が得意とする分野の知識や常識を他の分野に当てはめる。

★対話法

・誰かと話しながら相手の力を借りて新しいアイデアを得る。
・誰かにそのアイデアを話すことを想定して、相手が理解できるように説明の仕方や予想される質問に対する回答を考えること。
・相手がいると仮想して、自分の頭の中に生まれたアイデアを相手に理解させるためにはどう説明すればいいかを考え、仮想の世界で問答をしながらアイデアをさらに深めていくやり方。

★ブレインストーミング法:ある課題を設定し、集まった様々な種類の人がそれについて自分が考えていること、そこから連想されることを出し、考えをぶつけ合いながら新しいアイデアを得るという方法。

(2)まとめ方

★要素の関連づけ

・「共通概念で括る」「使う概念(要素)を選択する」「脈絡をつける」
・共通概念で括る具体的な方法をしては、「KJ法」

★考えの抜けを見つける

・共通概念で括って改めて全体を見渡すことで、自分の考えの抜けている部分に気づく

★上位概念に登り、使う概念を取捨選択する

・括ることで個別の要素の概念が「上位概念」に登ることです。

★脈絡をつける

・使う要素の取捨選択を行ったら、最後は「脈絡をつける」という作業を行います。これは要するに、思考平面上で目的とする機能を発揮できるように要素間に関係をつけて全体の構造をつくりあげることです。

(3)「わかる」とはどういうことか

・「あの人は創造的な仕事をしている」と周りから高い評価を得ている人
・「よく観察している」こと
・日常的に目の前で起こっている現象の大部分は、日々の繰り返しであったり、過去に誰かがやったことの模倣なので、すでに私たちの頭の中にその現象のモデル(要素と構造)がインプットされている。
・「要素の合致」は頭の中の要素のテンプレートと、目の前の現象の要素とが合致した状態
・「構造の合致」もこれとほぼ同じですが、テンプレートが要素ではなく要素同士の結びついた構造であるところに違いがあります。

(4)新しいものをつくる

・創造とは要素を組み合わせてある機能を果たす構造をつくりあげること
・「現地・現物・現人」の「3現」を実行するしかない
・成熟期末には組織も管理手法も賢固に確立し、組織のすき間で起こる問題には誰も触ろうとしない。確立したマニュアルに頼って自分で考えて行動しなくなり、少しでもマニュアルから外れると対処不能になる。さらにマニュアル文化の中で育った人たちは、失敗や試行を通じて得られる科学的な理解に達しないまま仕事をすることになる。
・“逆演算思考”を始めること
・失敗の知識化
・実践の大切さ

第3章 思考には法則性がある

(1)思考演算

・足し算(加算)や引き算(減算)などのように数式の示すとおりに所与の数値を計算することを「演算」といいます。創造的な思考にもここでいう数式のようなものがあり、これを本書では「思考演算」と呼んでいます。
・交換と逆転
・原因と結果、入力と出力をあえて逆にする発想法を「交換・逆転」といます。
・「AならばBということは、BならばAということにはならないか」
・「ダメなことはいいことかもしれない」

・直列と並列の入れ替え

・四則
・「加算演算」は複数
・「減算演算」、複数の要素で構成されている状態からある要素を引くことで新しい効果を得る考え方
・複数ある機能の一部をあえて取り除くことで新しい効果を得るというシンプル化
・「乗算演算」で新たなアイデアを得る方法は、加算演算と少しばかり似ています。加算演算がニつを足すことで新しい機能を求める発想でであるのに対して、乗算演算のほうはあるものにニつの作用を同時に加えることで起こる相乗効果を使う
・杭に横振動を与えながら、ハンマーを打つとうまくいきます。これなどは上からの打撃と横の振動というふたつの作用を同時に使うことでうまくいく典型例です。
・鏡像
・「鏡像」とは文字通り、いろいろなものに鏡を置いてみたらと仮定する考え方です。
・拡大
・あるものを十倍のスケールで考えてみることで、それが新しいアイデアにつながることがあります。このように拡大して考えることで新しいアイデアを得る方法を「拡大」といいます。
・縮小
・前項の拡大とは正反対に、あるものを「縮小」するとどうなるかと考えるところからスタートする発想法です。

(2)思考探索

・思考の法則には、思考演算のほかにもう一つ「思考探索」があります。これには、「集中と分散」「時分割」「第三場を加える」「第三物質を加える」「界面変更」「要素の入れ替え」などの方法があります。
・集中
・「意思疎通がやりやすくなる」「全体のコントロールがやりやすくなる」「効果的である」「相乗効果が期待できる」などの機能を求めるとき、使われるのが「集中」という方法です。
・街全体を集中冷暖房のシステムにすることで、エネルギー効率を高め、ムダをなくすという考え方
・分散
・一方、「分散」は、「リスクを減らす」「意思決定を速くする」などの機能を求めるときに用いられる方法です。
・コンピュータのシステムは、多くの小さなコンピュータがそれぞれ自立してネットワークでつながって動くというシステム
・時分割
・接触部分への第三物質の挿入
・接触部分で起こっている摩擦や軋轢を収めたいときに有効なのが、両者の間に「第三物質を挿入する」とい考え方です。
・要素の入れ替え
・最も簡単でかつ一般的なものです。すでにある創造物の構造をそのまま利用し、新しい働きを得たいと考えるときに、構成している要素だけを別のものに入れ替えることです。

第4章 ブラッシュアップをどうするか

・「決定」とは何か

第5章 具体化の方法

・「具体化」とは「できあがった全体構造に必要な属性をつけること」
・「属性を付ける」とはこうした具体的な手順や数字を付けていくことです。
・最近私は「『具体化』とは具体の世界から上位概念の世界へ『登ってみる』ことだ」と考えています。