機能中心の発明分析方法 実践レポート

NTT 小林哲雄様のレポートをここに掲載させていただきます。
(以下、原文のまま。なお、★は私のコメントです)
 

弁理士 遠山勉


1.            機能中心の発明分析方法はいろいろな場面で役に立つ

 遠山先生が提唱されている「機能中心の発明分析方法」を知財協C8Bコース研修にて習い覚え、NTT研究所で適用してみたところ、発明権利化の実に多くの場面で効果を発揮しました。

 C8Bコースの研修では、発明者からの発明提案の内容分析から特許明細書作成の場面でのご利益に主に焦点を当てて説明されていたように記憶しております。

 それに加えて、当該分析方法は、

(1)発明者の考えたアイディアを先行文献調査の結果と比較して、真に特許性のある部分はどこであるか、一連の出願のストーリーを検討するフェーズ

(2)特許庁への「まとめ審査 技術説明」に際して、自身がなした複数の特許出願の相違点を明確にするフェーズ

においても大いに役立ちました。

 

2.発明発掘フェーズでの適用

 「機能中心の発明分析方法」を適用すると、発明者からは多数のアイディアが出されてきます。これら10件〜20件程度のアイディアをそれぞれ、発明発掘シートと呼ぶ用紙に書き出しました。

 発明発掘シートはA4サイズの紙を横にしたもので、左半分に「機能(ご利益)」を、そして、右半分に「手段・構成(手品のタネ)」を箇条書きで書き出すようにしたものです。

 そして、機能から構成へ、次に構成から機能への対応関係の検討を約2往復行なうとの手法で発明の分析を行いました(試行錯誤の結果わかったのですが、2往復という写像回数がコストパフォーマンスの点で良いようです)。

 遠山先生の方法からの改良点は、いったんアイディアを発明発掘シートに箇条書きで書き出した後に、簡易的な先行技術文献調査を、特許公報全文検索システム活用してその場で行なう点です。

発明者のアイディアについて、いきなり先行技術文献調査を行なう従来手法では、検索で見つかった先行文献を発明者が見て意気消沈してしまうとの問題がありました。
(★私も、従来技術は分析後に見るということを推奨しております。発想の広がりが限定されてしますことを防ぐためです)

しかし、いったん、発明発掘シートに書き出し、機能中心の発明分析を行なった後であれば、見出された先行技術との機能の相違点を明確化して、さらに発明のポイントを絞り込むとの作業が発明者と共同で連続的に行えるメリットがあるのです。

加えて、単一性の範囲を考慮に入れつつ、機能や構成に一定の相違点がある発明は別出願とするとの「出願のストーリー付け」の作業もこのフェーズで行うことができるメリットもあります。

 

3.            中間処理段階ので適用

 機能中心の発明分析手法は、中間処理、特に、特許庁への「まとめ審査 技術説明」の場面で大きなパワーを発揮しました。

 出願段階で「出願のストーリー付け」を行なった際に、一連の出願について、発明の効果・当該効果を奏するための構成(「手品のタネ」と呼んでいます)を一覧表にまとめて整理した資料を表計算ソフト等により作成して、出願包袋に保存しました。

一般に、出願から約2年後に審査官へ「技術説明」する段階では、個々の出願のポイントを思い出すには困難が伴います。さらに、10件〜15件の類似する発明を一括して特許出願するため、それぞれの相違点を審査官へ技術説明することはさらに大変です。

「まとめ審査 技術説明」では、技術説明対象の出願について相互関連性を最初に説明ことが求められました。この場面で、機能中心の発明分析手法に従って作成した、発明内容をまとめたA4サイズのシート、および、上記の一覧表にまとめた整理資料が役立ちました。

 

4.            成功事例

(1)位置情報利用システム資料はここ

 ICカード公衆電話を利用して、発信者の位置情報を、公衆電話の番号情報を受信者へ開示することなく通知する仕組みを実現することを前提に、各種サービスのバリエーションについての一連の特許出願です。

 別ファイルに添付の“3件抄録”に示す15件の特許出願が、上記の手法によって発明が発掘され、そして、まとめ審査技術説明において、それぞれの発明をその機能から説明することで高率の特許査定を勝ち取ったものです。(たしか、15件の出願のうち、13件が特許査定になったはずです)

 一連の発明発掘の成功により、発明者の増田氏等はNTTサイバーソリューション総合研究所での発明表彰を受賞し、また、発明発掘活動を行なった私(小林)も、NTT知的財産センター長表彰を受賞しました。

 ただし、残念なことに、ICカード公衆電話システムが平成17年3月末をもって廃止となってしまい、本件の発明が事業収益を生み出す段階まで進めなかったのは悲しいです。

(2)映像コンテンツ利用システム (資料はここ

 映画やTV番組など、連続して再生などされる映像コンテンツの「シーン」を切り出し、その「シーン」に対してコメントを入力し、または「シーン」の再生に同期して他人が入力したコメントを併せて視聴する機能や、同じ「シーン」に対して同じようなコメントを入力している利用者を探し出し、同じ「シーン」に感動する利用者間でのコミュニケーションを実現する発明です。

この一連の発明は、同じ映画の同じ場面について同じように感動する人同士では話が合う、とのデート等での経験的事実に基づいてなされたものです。

 発明発掘の場面でも、また、審査においても、機能中心の発明分析方法は大活躍いたしました。

 なお、このシステムの機能限定版が、名古屋大学をはじめ複数の法科大学院に既に導入され、裁判での証人尋問のやり方などの映像コンテンツに対してベテランの弁護士がコメントを記入し、同時に、映像のシーンに対応して受講生が講師に質問や議論を行なうために活用されています。

 

5.            まとめ

 従来の多くの発明分析方法が「構成」をスタート点としていることと一線を画す遠山先生が提唱された「機能中心の発明分析方法」は若干の改良を加えつつ、NTTの研究所においても発明発掘活動に適用され大きな効果を生み出しています。

また、当該方法で成功した経験を持つ発明者達は、その後の研究開発活動で適切な発明を量産できるようになっています。

それに加え、「機能中心の発明分析方法」をそれぞれが後輩達へ実地に教えています。

以上