明細書ストーリーを決定する

01/11/27改訂)


  では、いよいよ、明細書の様式に従って特許明細書を書いてみましょう。

 以下に順次示す手法に従い、明細書を書いて下さい。

(1) 発明の分析結果に基づく、明細書記載のための「持ち駒」を確認します。

 「持ち駒」としては、

   分析後の発明の目的(課題)・・・(主目的、副次的目的を階層的に)、

   当該目的を達成するための、発明特定事項(必須要件項)、及び、各発明特定事項に対応する実施形態や実験例、

   当該発明特定事項に対応する(前記目的に対応する)作用効果、

 であり、

   前記目的(課題)の前提となった従来技術、

 である。

(2) 発明の分析を行うと、分析の結果、最も大きな目的に対応して、その目的を達成するための発明特定事項が絞られるので、その発明特定事項を明細書ストーリーの中核とします。

 発明の名称、特許請求の範囲、発明の属する技術分野、従来例、発明が解決しようとする課題の各項は、前記分析結果の持ち駒を利用すれば、容易に書くことができると思います。

 さらに、発明の詳細な説明は、発明特定事項を「幹」とし、その他の発明特定事項を「枝葉」としてストーリー展開します。

(3)ストーリー展開のための「構成」を考えます。

  ここでは、発明を説明するために、どのような図面が必要であるかをまず検討します。

  特許請求の範囲毎に対応する実施形態を考え、それらを説明するための図面を用意します。発明の分析結果により、種々の変形例を考えた場合は、それに対応する図面を用意します。

  図面としては、

  @発明の必須の構成要素を含む装置や方法の概念図、あるいは、装置の全体図

  A発明の特徴部分に対応した実施形態の図面、断面図、斜視図

  B実施形態の動作、使い方、作り方などを示す、フローチャート図、タイミングチャート図、工程図

  C効果を示す表やグラフ図、

  D他の変形例(特許請求の範囲の従属項に対応する)

 などである。

 一つの実施形態で発明の全範囲を説明しようとせず、請求項の発明特定事項に応じた実施形態を複数説明した方が、後の権利範囲特定にあたり有利となる場合が多い。

 例えば、【請求項1】A、B、Cからなる装置。【請求項2】Dを有する請求項1記載の装置。という場合、

 実施形態として、A、B、C、Dをすべて備えた例のみを説明してストーリーを終了するのではなく、第1実施形態として「A、B、C」を備えた例を説明し、第2実施形態として、A、B、C、Dをすべて備えた例を説明するとよいでしょう。

(4)ストーリー展開の順序

■大きい物から小さな物へ(幹から枝へ:土台(基礎)から上物へ)と説明する。

■中心的な機能を果たす物から説明する。

■主たるブロックから従たるブロックへ説明する。

■製造手順に従って説明する。

■動作順に従って説明する。

■発明の技術思想の論理順に説明する。

■発明の論理的前提を先に説明する。


明細書ストーリーに基づく提案書(レジュメ)を作成する。

 明細書をいきなり書く前に、明細書の前段階としての「提案書」を書いてみるのも一つの手法です。
特に、企業の発明者でこの本を初めて読まれる方は「提案書」から始めるのがよいでしょう。

 提案書は、明細書を書くにあたって必要最小限の情報を記載した書面で、明細書作成のためのレジュメであり、また、特許部員や弁理士に技術情報を伝える大切な書面です。
 さらに、会社内の研究成果発表でのプレゼンテーション資料としても重要な役割を果たします。

 ここでは、他者に対する発明情報の伝達を良好にするため、プレゼンテーション型(すなわちできるだけわかり易い)提案書を作ってみましょう。

 先の例題の分析結果に従った例を以下にサンプルとして例示します。


提 案 書

タイトル:流体用容器

発明のポイント(要はどういう発明なの?)

 本発明は、開口片の開口を容易にし、かつ、開口片が離脱して飛散しないようにしたもので、プルタブを引き上げるときのてこ作用で開口片を押し、その押圧力で天板に設けた切溝線を破断して開口し、その開口の際に、開口片の一部が天板に連結したままに維持されるようにした。

 <課題を解決するための手段と特許請求の範囲に反映>

発明の目的(従来技術)
 @開口片の開口を容易にすること。
   従来の容器は、プルタブを引っ張り上げることで開口片周囲の切り溝を破断するので力を要する。
 A開口片の離脱を防止する。
   従来の容器は、開口片周囲の切り溝が破断されると、プルタブとともに開口片が容器から離脱し、ごみとして捨てられてしまう。

★ここでは、発明分析後の発明の目的(課題)として、主目的、副次的目的を階層的に書きます。

<従来の技術と発明が解決しようとする課題に反映>


発明の構成(解決手段)
必須の構成要件

天板、底板、筒形胴部からなる容器本体
プルタブ固着部
連結部を残して開口片を画成する切溝線 (螺旋状の2重の切溝線)
天板に固着された固着部を支点とするとともに引き上げ部を力点、押し下げ部を作用点としたてこ作用による開口具

従属的特徴点

天板上の前方後円墳型段差部
3つの突起
U字状突条→開口片補強用突起
U字状突条内の突起→プルタブの押し下げ部当接部、開口片補強用突起兼用
固着部周りに設けたC字状スリット→固着部周りの引き上げ部側に設けたスリット
C字状スリットの内側中央部に設けられ、突起の一つに係合する係合溝→周り止め
リング状部に対応して平板部に設けた凹部→プルタブ引き上げ部・天板間のクリアランス形成部

 <特許請求の範囲に反映>

参照図面



<実施の形態での説明に利用>

動的分析結果(実施例の説明と、必須要件との関係にも注意)

   目 的

   構 成

  作 用 ・ 効 果

n主目的
n(1)従来製品 プルタブと開口片が缶から離脱→離脱したプルタブ等が離散して環境破壊→プルタブ・開口片の離脱防止を主目的とする。
n(2)離脱した開口片は危険←PL問題を考慮
n副次的目的
?(1)開口性の向上
?(2)操作性の向上


 


n(1)缶本体(天板・底板・円筒形胴部)→天板、底板、筒形胴部からなる容器本体
(2)内容物を収容する上で缶本体は必須(物が物として自立するための要件)
?(3)天板、底板のない容器は事実上販売されない→事実上の限定でない限定として許容
?(4)胴部は筒状であれば円筒でなくともよい→筒形胴部
n(5)天板上の前方後円墳型段差部→天板の強度向上→段差、突条等の補強手段→補強により剪断力が切溝線に集中しやすくなる→開口片の開口性向上
n(6)段差部で囲まれた平板部
n(7)3つの突起→回転止め、プルタブ引き上げ部のリフト部(天板側に設けてもプルタブ側に設けてもよい)→操作性の向上
n(8)平板部中央に設けたリベット→プルタブ固着部
n(9)連結部を残して平板部の所定区域(開口片)を囲む螺旋状の2重の切溝線→連結部を残して開口片を画成する切溝線
n(8)切溝線内の開口片に設けたU字状突条→開口片補強用突起
n(9)U字状突条内の突起→プルタブの押し下げ部当接部、開口片補強用突起兼用
n(10)プルタブ→天板に固着された固着部を支点とするとともに引き上げ部を力点、押し下げ部を作用点としたてこ作用による開口具
n(11)プルタブに設けたリング状部→引き上げ部
n(12)プルタブをリベットにより平板部に固着する固着部→固着部
n(13)固着部周りに設けたC字状スリット→固着部周りの引き上げ部側に設けたスリット
n(14)C字状スリットの内側中央部に設けられ、突起の一つに係合する係合溝→周り止め
n(15)リング状部を引き上げたとき、開口片を押し下げる押し下げ部→開口片を押し下げる押し下げ部
n(16)リング状部に対応して平板部に設けた凹部→プルタブ引き上げ部・天板間のクリアランス形成部

n(1)缶本体→清涼飲料水を収容→流動体を収容→形は問わない
n(2)前方後円墳型段差部→平板部の画成と天板部の強度向上→段差、突条、画成部の形状は前方後円墳型に限定する必要なし。
n(3)平板部→プルタブ及び開口片の受容
n(4)3つの突起→一つは係合溝に係合してプルタブの周り止め →周り止めできれば突起に限らず→周り止め係合部。他の2つはリング状部を平板部から浮上させる→引き上げ部を浮上させるためには天板側・プルタブ側いずれに設けてもよい→操作性向上
n(5)リベット→プルタブの固定とプルタブ引き上げの際の支点→プルタブの固着部
n連結部→開口片の離脱防止
n(6)螺旋状の切溝線→螺旋状にすることで、切溝線の始端側から終端側へと順次剪断力が伝わる→開口性の向上。
n(7)2重の切溝線→開口片の開口→内側の切溝線が谷状に折れることで外側の切溝線が山状に折り、剪断力が外側の切溝線に集中する→開口性の向上
n
n(8)開口片に設けたU字状突条→開口片の強度向上→U字状である必要はない
n(9)U字状突条内の突起→プルタブの押し下げ力を受ける
n(10)プルタブ→開口片の開口→てこ作用を利用している。
n(11)リング状部→プルタブの引き上げ(てこの力点)→引き上げのためリング状である必要はない→単に引き上げ部とする。
n(12)固着部→リベットとともにプルタブ引き上げる際の支点→リベットを包含する意味も含めて単に固着部とする。
n(13)C字状スリット→プルタブのてこ作用の機能向上→C字状である必要はない→開口性、操作性向上
n(14)係合溝→プルタブ周り止めできればよい→係合していればよい→周り止め係合部→操作性向上
n(15)押し下げ部→開口片に開口力を加える作用点→開口片を押下げられればよい→単に押し下げ部とする。
n(16)リング状部対応の平板部の凹部→リング状部と平板部間のクリアランスを大きくする→指掛け容易化→操作性向上。クリアランスを大きくできればよい→リング状部を上方に弯曲させてもよい。


















 
 
<明細書全体、特に実施の形態での説明に利用>

発明の効果

 連結部を残して開口片を画成する切溝線を、天板に固着された固着部を支点とするとともに引き上げ部を力点、押し下げ部を作用点としたてこ作用による開口具で開口するので、開口後の開口片は連結部で天板に連結して開口し、離脱しない。よって、開口片が飛散しない。
 開口部のてこ作用で開口片を開口するので、力をかけずに容易に開口できる。

<発明の効果の説明に反映>

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