発明の詳細な説明の書き方

(01/11/28改訂)


 発明の分析は、発明者が考えた発明の具体例(実施例)を分析することで、実施例の具体的構成から、上位概念の構成を引き出すとともに、発明の目的を達成し、かつ、従来例との関係で最大限に広い範囲を網羅することとなる発明の構成要素を見い出すことを目的としております。

 この分析の結果、「発明特定事項」が決定されてしまえば、後は以外に簡単です。特定された発明特定事項を、【課題を解決するための手段】の項に書いた上で、それを中心にストーリーを展開すればよいのですから。

【発明の属する技術分野】

 ここでは、発明の属する技術分野を発明の名称を用いて説明します。発明がどの技術分野に属しているものであるかを記載しますが、技術分野といっても、化学とか、機械、電気といったり、容器業界、化粧品業界とかいった漠然とした区分ではなく、特許の国際分類に則り、発明の名称とも関連付けて記載しているのが通常です。例えば、 『本発明はオーブントースタに関する。』といった具合です。

 ここに、発明の課題や効果に関する事項を記載してある場合がありますが、適切とはいえません。  この項を不用意に記載すると特許請求の範囲を狭く解釈される場合がありうるので、注意を要します。たとえば、発明の名称が『カメラ』で、請求の範囲もカメラ一般に適用される技術について特定してあるにもかかわらず、『本発明はカメラに係り、特に一眼レフカメラに関する。』とすると、あたかも一眼レフカメラだけに発明が適用されるかのように限定解釈されるおそれがないともいえません。そこで、『本発明はカメラに関する。』だけに止どめるか、『本発明はカメラに係り、特に一眼レフカメラに好適に利用できるものである。』といったように、例示記載にするとよいと思います。

【従来の技術】

 ここは、発明をするに至る前の直近の先行技術の構造や作用、効果等を記載するところです。

 発明の新規性、進歩性は従来技術との関連で決定される事項ですので、従来技術が何であったかは、特許性を主張する上で重要な事項です。

【発明が解決しようとする課題】

 ここでは、【従来の技術】の項で挙げた先行技術の課題を列挙し、本発明の解決すべき技術的課題を提示します。

【課題を解決するための手段】

「手段」の項は、発明思想が何であるかを開示する場所です。

 発明の技術思想を開示するにあたり問題となるのが特許請求の範囲との関係です。

 請求項が優先するのではなく、あくまでも開示の代償(手段での開示)に応じた請求項ですから、請求項に特定した発明を思想として開示するというのではなく、はじめに開示ありきとの視点で、課題との関連で、解決手段を思想として開示する姿勢で書くべきものでしょう。

 ただし、【従来の技術】からのストーリーの展開上、この【課題を解決するための手段】の項に記載した事項により、その課題が初めて解決され、その手段に記載した発明につき権利として欲するというのですから、特許請求の範囲に記載された発明の構成が本項に記載された発明の構成と異なっていたのではおかしいことになります。

 例えば、特許請求の範囲にABCが構成として記載されていて、本項に構成として、ABCDが記載されていたとすると、課題を解決するためにABCDを構成要素としたと主張しているのですから、Dの無い特許請求の範囲の発明は課題を解決できないものであると主張されるおそれがあります。

 従って、本項では特許請求の範囲に記載した事項をそのまま記載するのが、法律上最も安全であると言えます。

しかし、請求項の記載は、どうしてもわかりにくい表現となりがちですので、請求項で用いた発明を特定するための用語を用いて、その「技術思想がどのようなものかを、好ましくは原理的に誤解がないように記載する必要があります。

 また、単に、最上位の独立請求項の発明のみを記載しただけでは、単に、抽象的な保護範囲を出願人が勝手に宣言するだけとなってしまう可能性があります。一方、実施例はあくまでも思想中の一点を示す技術そのものです。思想の中身がどんなものか、を従属項の用語を例示的に用い、あるいは、他の文言をもって、抽象的概念をわかりやすく説明しておくことのメリットは大きいでしょう。

 例えば、手段の項に、抽象的な原理のみで、あとの開示が「実施の形態」のみであったとしましょう。出願人が発明の保護範囲は、発明原理がカバーするすべての範囲であると主張したとしても、保護範囲は開示の代償として与えられるという観点から、抽象的に原理のみを開示するだけでは不十分とし、開示された具体的技術である実施例を中心にそこから想到しうる範囲にのみ保護範囲が与えられる可能性が極めて高くなるでしょう。よって、最大保護範囲である原理と、最小保護範囲である具体的実施例との間を橋渡しする、中間的抽象概念がどうしても必要となってくるのです。

 そこで、いくつかの実施の形態を総括した上位概念での技術思想を、特許請求の範囲と関連付けて、特許請求の範囲を逸脱しない範囲でかつ限定解釈されないようにして、請求の範囲より平易な表現で理解しやすく表現するとよいでしょう。また、権利範囲として具体的に主張しておきたい下位概念の技術内容を例示列挙したり、あるいは権利範囲の解釈にあたって疑義が生じないよう、そして、権利範囲ができるだけ広く解釈されるように、請求項の言葉の定義を記載しておきたいものです。また、将来クレーム・アップしたい点等を予め記載しておくのも一つの手法です。

ちなみに、請求項には弾性体と特定される一方、実施例としてはゴムの記載しかない場合、補正の制限として、新たに「スプリング」の追加記載は認められませんが、それはなぜかと言えば、弾性体を使用するという思想の中心が、ゴムという実施例であるとき、同じ下位概念であっても、「スプリング」を実施例として追加すると、思想の中心が移動してしまい、結果として保護範囲である「発明思想」の及ぶ範囲が当初と変わってしまうからであると思量されます。手段の項で、「本発明でいう弾性体とは、ゴム、スプリング・・・である。」等々、思想範囲や意義を例示列挙することで、このような問題は避けられます。

 なお、特許請求の範囲に記載した発明の構成要素の定義を行うとき、この定義を安易にすると、その定義の内容に構成要素が限定されたり、記載不明瞭とされる可能性があるので、定義する際にはこのことを考慮に入れ、明確な定義付けをすべきでしょう。

【発明の実施の形態】

[物の発明の実施の形態の場合]

    <構成>

     物の構成、物質名、物質の構造式、物性など記載

    <作用>

     実施品の製造方法

     実施品の使用方法(動作例)

     物性の測定方法・装置
    <産業上の利用可能性>

     用途等

  【実施例】

[方法の発明の実施の形態の場合]

    <方法の手順>

    <方法を実施する装置>

  【実施例】

[物を生産する方法の実施の形態の場合]

    <生産物の特定>

     構成、物質名、構造式等

    <原材料>

    <生産工程>

 実施の形態の項は、発明を再現できる程度に開示したもので、【課題を解決するための手段】に記載した技術的手段をさらに具体化したものです。特許請求の範囲が形式的にいくら広くとも、実施の形態による裏付けがなければ広い権利として解釈されない場合が多いので、実施の形態はなるべく多岐にわたった方が好ましいと言えます。

 ここで注意すべきは、請求項及び解決手段に記載された「発明特定事項」のそれぞれに対応する実施形態の説明を全て記載しているかを必ず、チェックするということです。
 特に、A+B+CからなるX装置として、Aについては従来より公知のものを利用している、といった場合、発明の特徴点であるBやCについては詳細に説明するものの、Aの説明がおろそかになるといった傾向があります。この点、Aも発明の一構成要素としてその価値はB,やCと同列ですので、その説明も十分にお願いしたいものです。

【発明の効果】

 発明の効果は、「進歩性」が存在することを間接的に裏付ける根拠となります。よって、審査官に「進歩性」があることを印象づけるために、効果の説明は重要となります。だからといって、むやみに効果を羅列することは、権利範囲を限定してしまうことになりかねません。効果にはそれぞれ構成が対応しており、効果を書けば書くほどそれに対応する構成が存在していた、すなわち、そのような効果を出すための限定事項が存在していたと評価されるからです。

【図面の簡単な説明】

【図1】

【図2】

【符号の説明】

 図面は、法的には任意の添付書類ですが、機械・電気分野では、発明を説明する上で必須といってよいでしょう。

 図面の作成は、請求の範囲、発明の詳細な説明をする前に予め行っておきます。図面は発明およびその実施例を端的に示すことが必要です。

 【符号の説明】では、請求の範囲の構成を符号とともに列挙することが少なくとも必要とされますが、すべての符号の説明をするのがよいでしょう。

詳細な説明の表現方法

 請求項に記載した構成は必ず説明する(請求項との対応関係がわかるように記載するのが望ましい)

@ 用語の定義

A 段落の多用

B 各構成、各ブロック毎にサブタイトルを付けるとわかりやすい

C 方法は工程順に

D 物の発明が併存するときは、物を先に説明するとよい

E 工程の順序を逆にしてもよいときがあるので注意

F 関連情報の記載

   依頼者からの情報で、発明とは直接関連はないが、何らかの理由で提案書に記載してある情報は、請求範囲の減縮の根拠とならない限り【発明の実施の形態】に記載しておくのが親切な対応となる。

明細書の慣用文

少なくともAを・・・(Aだけは必ず構成要件となる)

AとBとのいずれか一方を〜し、いずれか他方を〜する。

 以下、明細書各項の記載において注意しなければならない点については、特許明細書・開示要件チェックリストをご参照下さい。


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