明細書作成の経済的環境(出願の目的)


 特許権が財産権として価値を有するのは、発明自体の技術的価値・有用性に負うものです。その価値は、企業の経済活動の中で始めて意味を有します。よって、法律に則って明細書を作成しさえすればよいとはいえません。出願人や技術を取り巻く環境、特に経済環境を考慮して、特許戦略の上から明細書を作成する必要もあります。以下、このような観点から明細書のあり方を検討してみたいと思います。

出願の目的

<出願の目的>

 特許出願の目的(特許の利用価値)は、おおむね以下の4つに分けられます。

●市場独占

●防衛出願

●威嚇・牽制

●市場開拓

 各目的に応じ、発明の捉え方、明細書の書き方が異なってきます。

<市場独占>

 独占排他権を取得して、発明品を独占販売し、競業者を排除する。

 この場合、権利化する必要があり(独占実施の確保)、しかも、できるだけ広い権利を取る必要があります。従って、先行技術との関係等(新規性、進歩性)も踏まえ、できるだけ広い範囲すなわち、構成要素が少ない発明として、特許請求の範囲を書きます。

<防衛出願> 

 自己の実施を確保するため技術を公開する。

 防衛出願の場合、自己の実施を確保できれば足りるので、少なくとも実施例の技術さえ開示しておけばよいといえます。権利取得を考慮する必要がないので、請求の範囲の記載に気を配らなくてもよく、どうせ出願するのだから、先行技術の有無に係わらず、精いっぱい広い請求項として、次に述べる威嚇出願としての役割を持たせる場合もあります。

<威嚇出願(牽制出願)>

 ある技術について特許をとる旨の意思表示をして競業者に牽制球を放る。

 牽制を目的とするので、先行技術の存在は無視し、競業者を威嚇するに足る広い請求の範囲とします。

<市場開拓>

 新規事業を行う先駆けとしてマーケット開拓をするための出願。

 新規事業を行う先駆けとして他社に遅れをとることのないようにするための出願です。特定の分野においてできるだけ多くの出願をし、営業戦略における取引材料とする。時にはBの威嚇出願をも利用する。

 以上の出願の目的により、企業の特許政策に従って、ときには特許性がないことを承知で、戦略的に特許出願することがあります。これは企業を取り巻く諸条件により変わってくるので、企業における現場毎に対応していく必要があるでしょう。

発明品の流通形態

 明細書作成にあっては、出願人の経済社会に置かれた地位を考慮する必要があります。

 例えば、出願人が原料メーカーであった場合、原料に関する特許を取得するだけでなく、その原料を使用した応用品の発明も成立するかどうかを検討することが重要となります。

 出願人が、加工メーカーであったら、製造した製品についての特許を取得するだけでなく、その用途発明、原料、部品等様々な形態の発明を検討することが必要でしょう。すなわち、その発明が、原料→加工→製品→販売の流通過程でどのようにその形態を変化させていくかを考慮し、侵害事件が生じるとしたらどのような形態で生じる可能性があるのかを考慮して、請求の範囲の発明(特に名称)を特定する必要があります。

 また、商品化される発明品は、その市販される予定の最終商品形態を防衛し、かつ、他人の模倣を抑制するため、必ずその商品形態そのままを【発明の実施の形態】の項に記載しておく必要があります。その意味で、必ず、発明者から最終商品形態を聞き出すことは重要です。さらに、出願後、発明の最終商品形態が設計変更されることが往々ありますから、そのような場合、国内優先制度を利用して、実施の形態を付加しておくのが好ましいでしょう。

 


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