明細書には、発明を開示するため、発明に関する情報を特許法が要求する様式(書式)に従って記載する必要があります。これは特許法施行規則第11条様式第14、様式第15、様式第16により、具体的には下記に示す通りです。
このような様式に従って、発明を記載するわけですが、問題は、様式の各項目に発明情報として何をどのように振り分けて記載すればよいかということです。
そこでよく行われることは、「特許公報を参考にして書く」ということです。
参考の明細書を見れば、明細書、図面、要約書に何をどのように書けばよいかは、おおよそ見当がつきます。これを「見よう見まねの方法」といいますが、そのような方法では、明細書の記載手法につき、普遍の原則や法則を拾得することが困難であり、不完全な明細書を作成することとなったり、明細書毎に品質のばらつきが生じるなどの問題が生じる事となりましょう。
本書は、このような問題を避けるためには、特許書各項の法的意味を理解しておく必要があります。
明細書を作成するには、発明に関する情報を収集し、それを特許法の要求する様式に合う情報として分析し、それを明細書様式に合わせて文章化する必要があります。そこで、明細書様式の各項目の法的意味をここで検討してみたいと思います。
【特許請求の範囲】
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発明の構成要素を記載し、保護範囲=権利範囲を特定する
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【明細書】
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発明開示書面
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【発明の名称】
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インデックス(権利範囲を限定する側面あり)
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【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【背景技術】
【発明が解決しようとする課題】
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【目的】
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法的に構成された技術的思想としての発明を記載する。
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【課題を解決するための手段】
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【構成】
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思想を記載するのであり、個別的な具体的技術を記載するのではないことに注意。
発明の保護範囲確定の根拠となることが多いので、請求の範囲に記載した構成要素の定義、具体例の例示的列挙等をして保護して欲しい最低限の範囲を明示するとよい。 |
【発明の効果】
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【効果】
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法的に構成された思想としての効果=手段の項に記載した構成のみから生ずる効果を記載する。
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【発明を実施するための
最良の形態】
【実施例】
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★思想としての発明の成立を裏付ける証拠として、社会的事実としての具体的技術を記載する。
★製品化予定の実例試験、実験例など
★実施例の技術の具体的構成、実施例特有の作用・効果を記載
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【産業上の利用可能性】
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思想としての発明の応用分野(有用性の担保)
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【図面の簡単な説明】
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発明の構成・原理・具体例を図で明示
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【要約書】
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検索情報 保護範囲を定めるものではない
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なお、【要約書】は単なるインデックスであり、発明の保護範囲を特定するものではありません。
米国、欧州の明細書様式との比較
国際化の波を受け、日本出願とともに外国出願をすることが多くなっております。そのようなケースを予想して予め外国出願を意識した明細書作りが必要となっております。
ここでは、外国特に米国・欧州の明細書形式を参照し、日本明細書作成時の参考としたいと思います。
(1)米国(US)
Title of the invention
(a) Background of the invention
1. Technical Field
2. Description of the Prior Art
---Problems Encountered, Needs in the Art
(b) Summary of the Invention
(c) Brief Description of the Drawings
(d) Detailed Description of the Preferred Embodiment
(e) Claims
(f) Abstract
(2)欧州(EP&UK)
Title of the invention ( optional )
(a) Introduction ( Technical field of the invention )
(b) Discription of Prior Art ( Background art )
(c) Statement of Invention
Statement of Advantage ( optional )
( Disclosure of invention as claimed in terms of the technical problem and its solution, stating advantageous effects with reference to background art. )
(d) Description Drawings
(e) Description of Specific Embodiment
( Description of at least one way of carrying out the invention.)
(f) Explanation of Industrial Applicability of Invention
( How the invention is capable of industrial exploitation )
(g) Claims
(h) Abstract
以上の項目から明かなように、外国では、まず、発明の背景、課題を述べ、その解決手段の概要を説明した後、すなわち技術思想を開示した後に、図面を示して、次にその図面を参照しつつ好的な具体的事例を説明し、最後に、その開示の代償として、保護を要求(クレーム)するという書式をとっており、非常に論理的です。
これに対し、日本では、最初に保護の要求範囲を特定した後、発明の背景、課題を述べ、その解決手段の概要を説明した後、すなわち技術思想を開示しつつ、具体的事例を示した後、再度、思想としての発明の効果を説明し、最後に図面を示すという形式をとっており、その手順は必ずしも論理的ではありません。思想と技術の区別、立て分けがうまくいっているとは思えません。
この点を注意して、思想を書いているのか、技術を書いているのかを常に注意して各項目を記載すべきでしょう。