明細書を書くということ

(03/03/28改訂)


文章で発明を開示

(1)明細書を書くということは、技術情報として、発明を文章で開示するということです。

 どのように開示すればよいかについて、

 特許法第36条、4項は、「発明の詳細な説明は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に、記載しなければならない。」としています。

権利範囲を文章で特定

 (2)次に、明細書を書くということは、要求する権利範囲を文章で特定するということです。

   何をどのように特定すればよいかについて、

 特許法第36条、5項は、「特許請求の範囲には、・・・発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載しなければならない。」とし、

 第36条、6項は、「特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。

一号、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること

二号 特許を受けようとする発明が明確であること

三号 請求項ごとの記載が簡潔であること。

四号 その他通商産業省令で定めるところにより記載されていること。」としています。

開示の代償

 すなわち、発明者が発明を開示した代償として独占排他権(特許権)が付与されるのです。このことが、明細書に課される記載要件に大きく影響を及ぼしております。

くどいようですが、何を開示したかによって、代償も異なるのです。

 

    発明者    → 発明の開示

                      *実施可能な程度に開示

    特許権利付与 ← 代償として

       *開示の範囲で権利付与

★ 抽象化ということ

 発明を明細書に書くということは、発明を抽象化するということと、発明を情報化するということを意味します。

 抽象化により、物理的同一性を排除し、概念化された情報として、他への伝達が可能となります。

 まず、抽象化について考察しましょう。
 ここに、100万円という概念を考えましょう。100万円欲しい人は、手を挙げてください。
 おそらく、皆さん欲しいでしょう。
 
 ここに黒板があるとして、黒板に「100万円」と書きます。現物の「100万円」ではありませんが、100万円には変わりません。
どうぞ持って行ってください。もっていけませんね。でも、100万円には変わりません。これが抽象化され概念化された100万円です。でも、これは価値がありませんね。

 では、どうでしょう。空飛ぶ飛行機を初めて開発したとします。

 細長い胴体の両側に、主翼と尾翼をそれぞれ設けます。各翼は、揚力が生じるように、その断面が上に凸で、下に凹となって湾曲した形状です。
推進力を生成するプロペラを設けてあり、それをエンジンで駆動します。

 もし、これで飛行が可能となるならばどうでしょうか。

 これは飛行機そのものではなく、飛行機を抽象化し技術情報として提示したものです。

 先ほどの100万円とどこが違いますか?

 先ほどの100万円は持って行けませんし、使うこともできません。すなわち、100万円という概念は存在しますが、有価物としての価値はありません。
 しかし、上記飛行機の情報は持って行けますね。この情報は概念としてそのまま移転可能であり、その情報に従って飛行機を製造することができます。すなわち、価値ある情報を提示しています。このように、価値ある技術情報を開示する媒体が明細書なのです


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