特許明細書・開示要件チェックリスト

弁理士 遠山 勉

秀和特許事務所


 平成6年改正特許法を考慮し、明細書の各項目にどのような内容をどのように記載すべきか、具体的に説明します。

【書類名】    明細書
【発明の名称】
□発明の特徴を表すように最適かつ短いフレーズで表現
□権利範囲を限定することのないようにする。(発明の利用範囲を考える)
 例:四輪車にも利用できるにもかかわらず、二輪車用ブレーキ装置としない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
□構成要件は必要最小限か。構成要件が少ないほど権利範囲が広くなる。
 発明の目的とする効果を得るのに必要最小限の構成(原理・原則)を抽出
 各構成要素の代替構成があるか否かを検討(共通の上位概念を導く)
 従来例との比較で構成要素を付加する。
□まず、客観的構成で発明を特定した請求項を作成する。
・次に、客観的構成を機能に置き換えて機能的表現の請求項を作成する。
□発明の外延が不明確とならないように注意する。
□ジェプソン形式(おいて形式)における注意点:おいて以降の特徴部分の表現に気を取られ、おいて以前のプリアンブルの表現に不用意な限定が生じやすいので注意する。発明が適用される技術的前提事項をすべて含むように、おいて以前を特定する。
□マーカッシュ形式(択一式)における注意点:選択の組み合わせにより、組み合わせ相互により技術的矛盾がないか検討する。
□構成列挙型(Aと、Bと、Cと、からなる装置)の場合の注意:各構成の有機的結合関係を落としがちとなるので注意する。
□プロダクトバイプロセス型のクレームを作成したならば、静的な構成で特定できないか検討する。(プロダクトバイプロセス型は保護が希薄になる可能性あり)
□不意打ちの禁止: antecedent basis 先行詞の存在:
 例、「Aと、このAの開口部に取り付けられるBと・・・」という記載で、Aの「開口部」という言葉がいきなり出て来る。このような不意打ち的表現は、全体の表現を不明確としがちであるので避ける。米国では拒絶理由である。前記例では「開口部を有するAと、このAの前記開口部に取り付けられるBと、・・・」とする。
□数値限定の場合の注意点:すべての数値の組み合わせが100%を越えないこと。数値に0が含まれないこと。実施の形態で数値限定範囲がサポートされていること。
□「以上、以下」を使用するときはセットで使う。
□「除く、でない」などの否定的表現を使用しない。
□「高低、大小」等相対概念を使用するときは、基準を明確にする。
□「所望により、必要により」等の任意的付加事項はやむを得ない場合以外使用しない。・・「上、下、左、右」「前、後」等で特定する場合、あるいは「凹部、凸部」の場合、逆の場合も想定する。 例:「本体に凹部を設け、この凹部に嵌合する凸部を蓋体に設けてなる容器」・・・凹部と凸部を逆にしても発明が成立する・・・「本体に凹部と凸部のいずれか一方を設け、この凹部と凸部のいずれかに嵌合する凸部と凹部のいずれか他方を蓋体に設けてなる容器」
□上位概念、下位概念を考えるだけでなく、両者の中間概念を考えてクレーム化できるか検討。
□物や装置の発明出願依頼であっても、方法の発明として捉えることはできるか検討。
□米国出願ではクレーム化した特徴部分はすべて図面化する必要あり。

□部品・要素・材料などとして単独流通するものは部品でクレーム化。
□実施する最終商品形態でのクレームを作る。
□発明の種類をすべて考慮する。ソフトウェアでは、装置としてでなく方法の発明として捉えることが通常可能なことが多い。
□各構成要素単独でクレーム化できるか検討する。特にシステム発明では、構成要素である、端末、ホストコンピュータ単独でクレーム化してみる。
□ソフト関連で、媒体に格納されて配布される場合は、媒体クレームを作成する。
□権利侵害の訴求の容易性を担保するクレーム作成に心がける。
 ユーザーインターフェイスを発明として捉えることができるか。システムよりシステムを構成する要素毎の方が保護しやすい。
□パラメータを変えて(別の観点から)特定できるか検討。
□使用方法・応用システム・用途発明は考えられるか検討。
□方法発明の場合、その実施装置は考えられるか検討。
□誤解を生じさせるような表現を避ける。特に修飾関係はシンプルにする。
□発明の特徴部分をすべてクレーム化する。
□各構成要素毎に改行するとわかりやすい。
□外国出願が予定される場合、英訳しやすい表現を使う。例えば以下のような形式が例示できる。
<例> ・・・・を有するAと、
 このAに係合し、b1を有するBと、
 このBの・・・・に設けられた進退自在のCと、
 このCの進出時に前記Aに係合するDと、
 を備えたEEE装置。
 
【発明の詳細な説明】
  【発明の属する技術分野】
□発明の属する技術分野を端的に記載する。
 発明の名称を用いて説明
 
  【従来の技術】
□発明の趣旨からみて直接関係のない従来技術を述べていないか。
□発明の直近(直前)の従来技術を述べるのが望ましいが、外国出願が予定される場合、背景技術的な事項から説明するのがよい。特に、台湾出願をする場合には従来技術を自ら開示しすぎると後にその記載のみで拒絶されることがある。
□できるだけ特許公報を引用して記載することが望ましい。
 引用する場合、その概要を記載するのが望ましい。
□社内公知のもの、未公開先願技術を公知技術として扱わない。
 
  【発明が解決しようとする課題】
□従来技術の問題点を端的に記載する。
□本件出願人の先行出願(先行商品)を不必要に非難・中傷しない。
 特に、製造物責任(PL)問題となるような事項を記載しない。
□課題とした事項が、他の出願との関係で相互に矛盾する結果を生起しないこと。
(並行して手続きを進めている出願、あるいは最近の出願で技術的に近い内容の出願をチェックするのが望ましい。)
□本項は発明の効果と表裏一体の関係にあるので、発明の効果で述べないことまで記載する必要はない。
□課題の変更・追加はできないので、先行技術調査が極めて重要である。
□請求項を限定したときに変更・追加されこととなる「課題」を先回りして考えて、記載しておく。(課題の階層的記載)
□課題の変更・追加をすることはできないので、考えられる問題点等はできるだけ記載しておく。但し、複数の課題を列挙する場合、発明によっては、それらすべての課題が本発明の課題であるようにすること(複数の課題がandで結合されてしまうこと)は避ける(すべての課題を解決できないものは当該発明でないということになる)。例えば「本発明は、前記課題の少なくとも1つを解決する」というような文章を入れておくとよい。
□「構成を簡単にしてコストを下げる」「製造が容易」というようないわゆる常套手段となっている課題は、必ず検討し、将来の逃げ道としておく。
 
  【課題を解決するための手段】

□まず、独立請求項に記載した事項を列挙。
 このとき、請求の範囲と一致していることが必要
 請求項を丸写しにしてもよいが、わかりやすくするため、例えば以下のようにしてもよい。
<例>
 本発明は、前記課題を解決すため、以下の構成を採用した。
 すなわち、本発明のEEE装置は、Aと、Bと、Cと、Dとを備える。
 ここで、Aは・・・・を有する。また、Bは、前記Aに係合し、b1を有する。Cは前記Bの・・・・に設けられ、進退自在となっている。DはこのCの進出時に前記Aに係合する。
□各請求項に対応する構成毎に「手段」を記載する。
□請求の範囲で特定した構成要素の具体例を構成要素毎に例示記載
 構成Aを備えるという発明の思想の幅をサポートする。
<例>
 以下、本発明の各構成をより詳細に説明する。
 本発明でAとは、例えば、Aa,Ab,Acなどである。この中で、Aaが本発明の目的を達成する上で最も好ましい。
 従属項に記載した事項もこのように例示する形でその概要を説明する。
□但し、独立請求項に記載していない事項を不用意に、それがあたかも必須要件のように記載していないか注意する。
 この項は発明を思想として開示する項であり、請求範囲と矛盾してはならない。
□よって、必須要件以外の付加的事項を記載する場合もそれが必須要件であるような記載は避ける。
□請求の範囲で特定した数値限定の意味を記載(数値限定のメリット)
□請求の範囲以外に将来請求項として限定できる要素をリストアップ
□化学の場合以下の内容を例示列挙する。
 ○原料 ○組成 ○添加剤 ○物性
 ○化学反応 ○反応条件 ○実験装置 
 ○装置操作
□作用の記載をしたか
 
  【発明の実施の形態】
□実験データを付ける場合、そのデータが発明の趣旨や効果と矛盾する場合が往々にしてあるので注意。
□データが数値の場合、請求項の数値からはずれていないか注意する。
□データの単位は正確か、統一されているかをチェックする。
□データを測定した実験器具、実験機械、実験の方法、規格(例えばJISによる)など、実験の再現性を確保する上で必要な情報は開示する。
□商品名を出か否かは検討する。商品名を出すと、具体的材料等がわかってしまうので、特許戦略的に有利か否かを検討する。
□実施の形態特有の作用、効果を必ず書くこと。【手段の項での作用】と【発明の効果】の項は思想としての作用・効果であるのに対し、ここでは具体的技術としての作用・効果であり、法的に区別される。
□発明の説明のため、先願特許公報を援用する場合、注意!!
 (米国出願では米国先願公報以外の援用許されない)
 先願特許公報の記載内容を引用する場合、単に先願公報番号のみを引用するのでなく、その記載内容を面倒でも引用して記載しておかないと開示条件を満たさない場合が生じる。他の明細書を読まなくとも本願発明・実施の形態を理解できるように書く。
□ソフトウェア関連発明ではクレーム対応図、及び、フローチャート、タイムチャート図に沿って機能に着目して説明する。
 特に、ソフト関連では、実現される機能を、機能ブロック図にして、図示する。
□ソフトウェア関連発明では、実施の態様で、発明が、ソフトウェアであること、そのプログラムの実行手順の記載、プログラムの記憶媒体、どのようにコンピュータ上で実行されるかを開示。
□ソフトウェア関連発明では、将来に向けて限定できる要素をあらゆる角度から記載しておく必要がある、大まかな機能ブロックでおさまっていないかチェックする。
□クレームを機能実現手段で特定することによる影響を考慮
 ソフトウェア関連発明では、発明を機能実現手段や手順で特定するため、一見、クレームに特定した発明の範囲は広いように見える。
 しかし、現実の権利判断においては、実施の形態を中心に判断せざるを得ない面がある。保護を確実にするには、多くの実施の形態を手当しておく必要がある。
□ソフトウェア関連発明では、プログラムで実行される機能が、ハードウェアのどの部分で具体的に実行されているのかを開示しておく。すなわち、プログラム動作上におけるCPU、メモリ等の関連。
□実施の形態説明のための図面はできるだけ多く、かつ、具体的にする。
□特に最終商品形態を示す実施の形態、図面は必ず載せる。

  【発明の効果】
□各請求項に対応して効果を述べる。発明の必須構成要件のみから生起する効果を述べるのが原則(独立請求項に対応)。
  従属項の構成から生起する効果を説明する場合、独立請求項が限定解釈されないように考慮する。
 新多項制の採用に伴い、各請求項の発明が1つの発明としての地位を得たことに対応し、請求項毎の効果を記載しても良いこととなっております。その場合、対応関係を明確にする必要があります。
□新たな効果の追加はできない。
□ここは発明の構成に欠くことのできない事項により生じる特有の効果を記載するもので、この効果いかんにより、進歩性が否定されたり、または特許請求の範囲が限定解釈されたりするおそれがあります。例えば、特許請求の範囲にはDという構成が記載されていないにもかかわらず、このDがなければ生じない効果を記載してしまうと、特許請求の範囲にDが記載されていたのと同様に限定解釈されてしまうことがあります。
  効果によるクレームの限定解釈を防止するには、効果は必要最小限とし、付随的効果は実施の態様で記載するのが良いでしょう。

 【図面の簡単な説明】
  【図1】
  【図2】

  【符号の説明】
□【図1及び図2】、【図1(a)】、【図1(b)】という記載はできない。
 この欄は、図1は本発明の一実施の形態を示す断面図、図2は・・・図、というように図面の簡単な説明をする欄です。59年改正法以後は、本発明を最も特徴的に示す図を図1に掲げることが要求されています。
□【符号の説明】ではすべての符号の説明をするのが好ましい。
 

<添付図面>
□請求の範囲に記載した特徴部分を全て図示すること
 (将来外国出願する場合、アメリカで要求される開示義務)
□図1に原理図をつける。
□コンピュータ・ソフト関連では必ずフローチャートを付ける。 


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