弁理士 遠山 勉

 発明者(その承継人)は発明内容を積極的に開示し、その代償として特許を付与する よう国家に対し意思表示しなければなりません。

 特許法は発明開示の手段として、発明利用や審査の便宜等の理由から書面主義を採用 し、「願書には、明細書、特許請求の範囲、必要な図面及び要約書を添付しなければなら ない。」と規定しています(平成14年特許法36条第2項)。

 明細書(図面)は、技術文献・権利書として機能しますので、十分かつ明確な開示が 必要となります。

 そして、発明の保護範囲は開示範囲を超えるものではありません。 「特許法70条はまた反面に請求範囲というものは明細書の記載を前提とし、それと不可分のものとして把握され ること、つまり、明細書記載の技術思想より広くクレームし得ないという原則に裏打ちされて いることを意味しているのである」(松本重敏:特許発明の保護範囲195頁)。 これは、特許制度を設けた趣旨(特許法第1条)から当然導き出されることですが、明細書を書くとい う観点からみても、最も重要なことです。

 また、特許法第1条に従えば、保護を受けるためには、適切な発明利用のために、必 要かつ十分な開示が必要であるということがいえましょう。発明を利用するためには、発明 を実施するために必要な情報がなければなりません。実施可能要件が要求される所以で す。

 そして、何が必要か、どこまで書けば十分かということは、発明対象である技術の性質に 応じて自ずと決まるものです。当業者であれば、自己の発明をどのようにすれば実施でき るかは理解しているはずです。発明再現のための情報を書けばよいわけです。発明再現 のための最小限の情報が、最小限の開示範囲ということになります。この範囲は技術の性 質に応じて自ずと決まるでしょう。