均等論 演習問題(2)

車輌用バックミラー事件

By 弁理士 遠山 勉

(2004年5月7日)


下記特許発明と下記対象製品(1)(2)とを対比し、対象製品が、本件発明の均等の範囲に含まれるか否かにつき検討せよ。

<特許権>
登録番号特許第1748268号(特公平4−20818
発明の名称 車輌用バックミラー

特許請求の範囲(第1項)

   A 曲面体より成り上下方向を長手状とする矩形状のバックミラー本体の一側辺の上辺側寄りに位置する交点を設定すると共に、他側辺の下辺側寄りに位置する交点を設定し、かかる交点を結ぶ線の中間点と直交する斜行線を設定し、該斜行線上に中心点を位置させ、且つ交点を通過する所定半径にて円弧を描いて境界を設けると共に、同中心点より前記半径より大なる半径にて一側辺の下辺側寄りと交差すると共に、下辺の他側辺側寄りと交差する円弧を描いて境界を設け、バックミラー本体の上方他側辺側に偏在すると共に、略半分の面積を占める球面からなる後方視認区域と、バックミラー本体の下方一側辺側に位置する球面からなる下方視認区域と、両区域を継続させる球面からなる接合区域とに区割形成し、
B 一方中間点を垂直に通過する線を設定し、該線上に中心点を位置させる後方視認区域の球面の曲率半径を所定の規格値と成し、
C 又同線上に中心点を位置させる下方視認区域の球面の曲率半径を後方視認区域の曲率半径より小と成し、又同線上に中心点を位置させる接合区域の球面の曲率半径を後方視認区域の曲率半径より小と成すと共に、下方視認区域の曲率半径より大と成し、前記境界部位の曲率半径を大なる曲率半径に小なる曲率半径を内接させて順次移行して継続する様にしたことを特徴とする
D 車輌用バックミラー

公報はここをクリックすると入手できます。

<出願経緯>
 なお、本件特許出願の経緯を鑑みると、出願当初の明細書の特許請求の範囲においては、後方視認区域及び下方視認区域を偏在させることのみが記載され、どのように偏在させるかについては、一切記載されていなかった。その後、実願昭五一ー六一四六八号(実開昭五二ー一五三二五二号)のマイクロフィルム及び特開昭五四ー一五三四四八号公報の引用例を示された拒絶理由を受けた。出願人は、手続補正をして、「斜行線を設定しーーーその斜行線に沿って、後方視認区域、下方視認区域及び接合区域を形成すること、」「各区域がいずれも球面であること」等に限定し特許査定を受けた。

<出願当初の明細書の特許請求の範囲>
「曲面体より成るバックミラー本体を、上方内辺側に偏在すると共に略半分の面積を占める後方視認区域と、バックミラー本体の下方外辺側に位置する下方視認区域と、両区域を継続せしめる接合区域とに区割形成せしめ、後方視認区域から下方視認区域へ至るに従い曲率半径を小ならしめる様にしたことを特徴とする車輌用バックミラー」

<対象製品>
(一) 被告物件一
a 車体から見るとやや縦長の矩形状をなす複合曲率ミラーであって、車体に取り付けた場合に、上側に約三分の二の面積を占める「球面部」と、その下側に滑らかに連続する「非球面部」によって構成され、
b 「球面部」は、ミラーのほぼ中心に位置する所望の点(M点)を設定し、このM点を通って、ミラーの曲面に対する接線に垂直な線上に所望の点(O点)を設定し、このO点を中心として半径を描く球面によって構成され、
c 「非球面部」は、「球面部」に連続して、M点を通る垂直断面線(AーA)上に、下方に至るに従って曲率半径が次第に小さくなる所望の湾曲線(L)を設定し、この湾曲線(L)を、O点を通って、直線OMに対して垂直に位置させた直線を回転軸として回転させることによって得られる複合曲面により構成され、
d 右の湾曲線(L)は、左記の設定式に基づいて設定されたものであって、その結果、「非球面部」が滑らかな曲面に形成される、

Y=Rcー Rc2ーX2+K(Xーa)3>0
ただし K =係数
Rc=基本球面の曲率半径
a =中心軸から変曲点までの距離
e 自動車のバックミラー




(二) 被告物件二
a 車体から見ると上下辺及び左右辺がゆるやかな凸状に湾曲する横長の形状をなす複合曲率ミラーであって、車体に取り付けた場合に、内側に約四分の三の面積を占める「球面部」と、その外側に滑らかに連続する約四分の一の面積を占める「非球面部」によって構成され、
b 「球面部」は、ミラーのほぼ中心に位置する点(M点)を設定し、このM点を通って、ミラーの曲面に対する接線に垂直な線上に所望の点(O点)を設定し、このO点を中心として半径を描く球面によって構成され、
c 「非球面部」は、「球面部」の外側に連続して、M点を通る水平断面線(BーB)上に、外側に至るに従って曲率半径が次第に小さくなる湾曲線(L)を設定し、この湾曲線(L)を、O点を通って、直線OMに対して所望の角度(θ)に傾けた直線を回転軸として回転させることによって得られる複合曲面により構成され、
d 右の湾曲線(L)は、左記の設定式に基づいて設定されたものであって、その結果、「非球面部」が滑らかな曲線に形成される、

Y=Rcー Rc2ーX2+K(Xーa)3>0
ただし K =係数
Rc=基本球面の曲率半径
a =中心軸から変曲点までの距離
e 自動車のバックミラー





<本件発明の構成要件と被告各物件の構成中の異なる部分(主要な点のみ)>
(一) 本件発明と被告物件一の異なる部分
(1) 構成要件Aについて
ア 構成要件Aにおいては、後方視認区域、下方視認区域及び接合区域は、斜めに配置されるのに対して、構成aにおいては、球面部と非球面部が水平線を境に垂直方向に配置されている。
イ 構成要件Aでは、境界線が、交点を通過する所定半径にて円弧を描く線(正面図において円弧状)であるのに対して、構成aでは、境界線が、正面図において直線状である。
(2) 構成要件Cについて
構成要件Cにおいては、接合区域及び下方視認区域は、同一線上に中心点を位置させる異なった曲率半径の球面からなるのに対し、構成c及びdにおいては、接合区域及び下方視認区域は、球面としては存在しない。
(二) 本件発明と被告物件二の異なる部分
(1) 構成要件Aについて
(ア) 構成要件Aにおいては、全体形状が縦長の矩形であるのに対し、構成aにおいては、横長である。
(イ) 構成要件Aにおいては、後方視認区域、下方視認区域及び接合区域は、斜めに配置されるのに対して、構成aにおいては、球面部と非球面部が垂直な線を境に水平方向に配置されている。
(2) 構成要件Cについて
構成要件Cにおいては、接合区域及び下方視認区域は、同一線上に中心点を位置させる異なった曲率半径の球面からなるのに対し、構成c及びdにおいては、接合区域及び下方視認区域は、球面としては存在しない。

<回答>
地裁判決
◆H11.10.27 東京地裁 平成10(ワ)12572 特許権 民事訴訟事件

控訴審判決
◆H12. 8.29 東京高裁 平成11(ネ)6008 特許権 民事訴訟事件

を参照して下さい。