(演習)機械・日用品
 ゴルフ好きのAさんは、何とか100を切りたいと思っている。ある日、太陽を背にクラブの素振りをしていたところ、自分のスイングが地面に投影されているのに気がついた。Aさんは、このスイングが、中島や尾崎、川岸といった一流プロと同じだったら・・・と思った。と同時に閃いた。「そうだ、中島選手等のスイングの影をなぞれば自分にだって一流のスイングをマスターできるぞ」そこで考えたのが、以下の装置である。名付けて「シャドウ・マスター」。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
                             光 源
 
 
 
 
     スクリーン     プレーヤ 
 
 スクリーンには、中島選手等、一流プロゴルファーの連続スイングの輪郭が描かれている。使用者は光源を背にし自己の影がスクリーンに写るようにして素振りをする。その際、自己のスイングの影がスクリーンに描かれた一流プロゴルファーの連続スイングの輪郭に一致するようにする。これを繰り返すうちに、自ずとその一流プロゴルファーの連続スイングを覚えることができる。
 以上の情報から、発明の静的分析を行った後、これを動的に分析し、特許明細書を作成せよ。
静的分析(自己の開発した発明を目的・構成・作用/効果に分けてありのままに記載する)
 

  目 的

   構    成

  作 用 ・ 効 果

一流プロゴルファーのスイングをマスターする。






 

@スクリーンAスクリーンに模範のスイ ングを描くB光源





 

@スクリーンと光源の間に 立ち自己の影をスクリー ンに映す。A自己の影をスクリーンに 描かれた模範スイングに 合わせるようにして、ス イング練習する。Bその結果、模範のスイン グを覚えることができる
 
 
 ここでは、自らが認識した発明の客観的構成を「ありのまま」に記載してみることが重要です。
 
動的分析(静的分析結果から、発明を思想として抽出する)
 ここでは、発明の必須の構成として、どのような構成が必要なのかを、できるだけ広い概念で捉えることを目的とします。
 
(動的分析1)
 最初に考えた構成に含まれる構成としてはどのようなものがあるのかを探す。
 正面からの分析

  目 的

   構    成

  作 用 ・ 効 果

一流プロゴルファーのスイングをマスターする。
















 

@スクリーン★布、紙、板等、模範スイ ングを描ければ何でもよ い。

Aスクリーンに模範のスイ ングを描く★描写手段はスクリーンに 印刷、スクリーン背後か ら映写模範スイングは静止画、 動画どちらでも可

B光源 影を投影するのに最適な 光源は?



 

@スクリーンと光源の間に 立ち自己の影をスクリー ンに映す。










A自己の影をスクリーンに 描かれた模範スイングに 合わせるようにして、ス イング練習する。Bその結果、模範のスイン グを覚えることができる
 
 
 正面からの分析では、静的分析で認識した「構成」自体から、連想ゲーム的に同様の構成を連想していきます。「スクリーン」と言えば?・・・・何を発想するのか????という具合です。
 
(動的分析2)
 正面からの発想では限界がありますので、最初に考えた構成と同一の機能を有する代替構成を探す作業を行います。換言すれば、作用・効果からフィードバックして考える、機能実現手段を探すということです。

  目 的

   構    成

  作 用 ・ 効 果

一流プロゴルファーのスイングをマスターする。




模範フォームをマスターする。 ↑ ↑ ↑ ↑ ↑★テニスのスイン グ、バッターの スイング、ピッ チャーのフォー ム等 ↑ ↑ ↑ ↑ ↑ ↑ ↑ ↑覚えるべき模範スイングはゴルフに限る必要はあるのか、スイングに限るのか。
 

@スクリーン★布、紙、板等、模範スイ ングを描ければ何でもよ い。★鏡でもよい。 ←←←←★CRTディスプレイ   での動画Aスクリーンに模範のスイ ングを描く★描写手段はスクリーンに 印刷、スクリーン背後か ら映写(鏡の場合映写は 不可能か?)★模範スイングは静止画、 動画どちらでも可 (鏡の場合、動画は不可 能か?)★画像を取り込む撮像手段B光源 影を投影するのに最適な 光源は? 鏡の場合、光源は不要

C模範スイングと一致しているかを比較する手段 比較し不一致を知らせてスイング矯正させる警報器←←←←←←←←←←←←




 

@スクリーンと光源の間に 立ち自己の影をスクリー ンに映す。   ↓←←自己の姿が映ればよい
















A自己の影をスクリーンに 描かれた模範スイングに 合わせるようにして、ス イング練習する。


Bその結果、模範のスイン グを覚えることができる



 
 
 
以上の分析結果をもとに明細書を作成するのですが、分析結果により、種々の発明が認識されるので、出願人の特許戦略、商品戦略、先行技術との関連からの特許性などを鑑み、どの切り口に絞り込むか決定します。
 
 切り口により、発明の名称が、ゴルフ練習器となったり、フォーム練習器となっりします。なお、発明者が個人的に名付けた「シャドウ・マスター」とか「スイング・マスター」などは、商標として出願すべきであり、発明の名称としてはふさわしくありません。
 
【特許請求の範囲】は前記切り口の選択により例えば以下のようになります。
 
ゴルフ練習器の場合
【請求項1】 模範とすべきゴルフスイングを描いたスクリーンと、練習者の影を前記スクリーンに投影すべき光源とを備えたゴルフ練習器。
(当初考えたままの発明です)
 
【請求項2】 スクリーンと、このスクリーンに模範とすべきゴルフスイングを投影する映写機と、練習者の影を前記スクリーンに投影すべき光源とを備え、
 前記スクリーンは、表面から投影した模範とすべきゴルフスイングを裏面から見ることが可能であり、前記光源は使用時に前記練習者をスクリーンとの間にはさんでスクリーンの裏面側に設置されることを特徴とするゴルフ練習器。
 
【請求項3】 模範とすべきゴルフスイングを描いた鏡からなるゴルフ練習器。
 (商品戦略として、安価かつ簡易、日曜品的な練習器を提供する場合、このような切り口の発明として捉えることができます)
 
【請求項4】 模範とすべきゴルフスイングを描いた透明フィルムを鏡に張り付けてなる(請求項3記載の)ゴルフ練習器。
 
【請求項5】 模範とすべきゴルフスイングを描いたスクリーンからなるゴルフ練習器。
 
 請求項1では、スクリーンと光源が揃って始めて特許権の侵害となります。ところが、スクリーンのみを販売し、光源は購買者の既存のものを利用させるような場合、特許権の侵害になりません(但し、間接侵害の可能性はあります)。そこで、そのようなことを防止するため、部品単位で特許請求の範囲を構成するとよいでしょう。
 
【請求項6】 前記スクリーンが、布、透明シート、板の中から選ばれるいずれか一つである請求項5記載のゴルフ練習器。
 
【請求項7】 ディスプレイ装置と、このディスプレイに模範とすべきゴルフスイングを映し出す再生装置と、練習者の映像を撮像する撮像装置と、この撮像装置により撮像された練習者の映像と前記模範スイングとを比較する比較手段と、比較手段の比較結果が不一致の場合に警報を出す警報手段とを備えたことを特徴とするゴルフ練習器。
 
フォーム練習器の場合
 前記各請求項における「模範とすべきゴルフスイング」が「模範とすべきフォーム」になります。
 例えば、
【請求項1】 模範とすべきフォームを描いたスクリーンと、練習者の影を前記スクリーンに投影すべき光源とを備えたフォーム練習器。
 
(従来例との比較)
 本分析をする場合、従来例を最初に見せないことが肝要である。その理由は、発明者は通常、自己の発明は新規だと思っている(新規であると思っていなければ発明の提案をしない)。従来の技術を見せるとそれに引きずられ発想が貧困になる。そこで、前記分析を行った後、発想が最大に広がった後に従来例による絞りをかけるのが好適です。