ビジネスモデル特許と審査基準(産業上利用性)
「特許・実用新案審査基準」が改訂され、平成12年12月28日に公表されました。以下、この審査基準を2001年版改訂審査基準といいます。
この改訂審査基準においては、ビジネスモデル発明の取り扱いを意識した改訂がなされている。そこで、2001年版改訂審査基準の中から、ビジネスモデル発明に関連する部分をここに取りまとめてご紹介します。
なお、以下の文章中、{ }内の強調文字は、筆者が付加したもので、審査基準に掲載されたものではありません。アンダーライン部分はビジネスモデル発明に特に関連するものです。
第1章「産業上利用することができる発明」の審査基準とビジネスモデル発明
特許法第29条第1項柱書
産業上利用することができる発明をした者は、……その発明について特許を受けることができる。
ここで、ビジネスモデル発明が特許されるためには、
@ 特許法第2条に規定されている特許法上の「発明」であること
A 「産業上利用することができる発明」であること
を要する。
1.「発明」であること
「発明とは自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」をいう。
1.1「発明」に該当しないものの類型
(1)自然法則自体
(2)単なる発見であって創作でないもの
(3)自然法則に反するもの
(4)自然法則を利用していないもの
自然法則以外の法則(例えば、経済法則)、人為的な取決め(例えば、ゲームのルールそれ自体)、数学上の公式、人間の精神活動に当たるとき、あるいはこれらのみを利用しているとき(例えば、ビジネスを行う方法それ自体)は、その発明は、自然法則を利用したものとはいえず、「発明」に該当しない.(事例2〜4参照)
例1:コンピュータプログラム言語
例2:徴収金額のうち十円未満を四捨五入して電気料金あるいはガス料金等
を徴収する集金方法
例3:原油が高価で清水の安価な地域から清水入りコンテナを船倉内に多数
積載して出航し、清水が高価で原油の安価な地域へ輸送し、コンテナの陸揚
げ後船倉内に原油を積み込み前記出航地へ帰航するようにしたコンテナ船
の運航方法。
例4:予め任意数の電柱を以ってA組とし、同様に同数の電柱によりなるB
組、C組、D組等所要数の組をつくり、これらの電柱にそれぞれ同一の拘止
具を取付けて広告板を提示し得るようにし、電柱の各組毎に一定期間づつ順
次にそれぞれ異なる複数組の広告板を循回掲示することを特徴とする電柱
広告方法。(昭和31年(行ナ)第12号判決)
<自然法則の一部利用>
{ビジネスモデル発明は、一部において人為的な手法が介在し、一見、自然法則を利用していないと思われる場合があるが、そのようなものはどのように扱われるのであろうか?
2001年版改訂審査基準では以下のように説明する。}
発明を特定するための事項に自然法則を利用している部分があっても、請求項に係る発明が全体として自然法則を利用していないと判断されるときは、その発明は、自然法則を利用していないものとする。
逆に、発明を特定するための事項に自然法則を利用していない部分があっても、請求項に係る発明が全体として自然法則を利用していると判断されるときは、その発明は、自然法則を利用したものとする。(「特定技術分野の審査の運用指針 第1章 コンピュータ・ソフトウェア関連発明」の実例参照)
留意事項:
ビジネスを行う方法やゲームを行う方法に関連する発明は、物品、器具、装置、システムなどを利用している部分があっても、全体として自然法則を利用しない場合があるので、慎重に検討する必要がある。(事例5〜7参照)
(5) 技術的思想でないもの
(a)技能(個人の熟練によって到達しうるものであって、知識として第三者に伝達できる客観性が欠如しているもの)
例:ボールを指に挟む持ち方とボールの投げ方に特徴を有するフォーク
ボールの投球方法。
{このような観点からすれば、米国で認められたパッティング方法の特許(USP5,616,089)は、日本では特許となりません。}
(b)情報の単なる提示(提示される情報の内容にのみ特徴を有するものであって、情報の提示を主たる目的とするもの)
例:機械の操作マニュアル、録音された音楽にのみ特徴を有するCD、
デジタル画像データ、運動会のプログラム、コンピュータプログラムリスト
{単に、最新投資情報、レストラン情報等、ビジネス情報をwebに掲載することは、情報の単なる提示に該当します。}
なお、情報の提示(提示それ自体、提示手段、提示方法など)に技術的特徴があるものは、情報の単なる提示にあたらない。
例1:テレビ受像機用のテストチャート。
(テストチャートそれ自体に技術的特徴がある。)
例2:文字、数字、記号からなる情報を凸状に記録したプラスチックカード
(プラスチックカードをエンボス加工して印字し、カードの印字情報を押印する
ことにより写しとることができ、情報の提示手段に技術的特徴がある。)
{ビジネスの分野では、例えば販促用の商品選択カードなどで、商品選択のために技術的特徴を出せれば特許化が可能となります。}
(c)単なる美的創造物
(6)発明の課題を解決するための手段は示されているものの、その手段によっては、課題を解決することが明らかに不可能なもの。
2.「産業上利用することができる発明」であること
この「産業」には、製造業以外の、鉱業、農業、漁業、運輸業、通信業なども含まれる.
2.1「産業上利用することができる発明」に該当しないもの類型
(1)人間を手術、治療又は診断する方法
(2)その発明が業として利用できない発明
(i)喫煙方法のように、個人的にのみ利用される発明。
(ii)学術的、実験的にのみ利用される発明。
(3)実際上、明らかに実施できない発明
3.「産業上利用することができる発明」の要件の審査に当たっての留意事項
「産業上利用することができる発明」であることの要件を満たしていることの証明責
任は出願人にあるが、「請求項に係る発明」がこの要件を満たしていないとして拒絶の
理由を通知するときは、可能な限り具体的理由を挙げて指摘する。
4.事例
事例1(自然法則に反するもの)
省略
事例2(自然法則を利用していないもの)
(発明の名称)
自然数nからn+kまでの和を求める計算方法
(特許請求の範囲)
省略
[説明]
一般に計算方法とは、与えられた数、及び数学その他諸科学で記号を連ねて、ある関係を表すのに用いる式等を数理にしたがって処理すること、即ち、数学的操作をいう。この「請求項に係る発明」は、自然数nからn+kまでの総和sを求めるために、
s=(k+1)(2n+k)/2
という数式を用いており、単なる数学的操作を行うに過ぎず、自然法則以外の法則のみを利用している。
したがって、請求項に係る発明は「発明」に該当しない。
事例3(自然法則を利用していないもの)
(発明の名称)
理数科系の課目の教授方法
(特許請求の範囲)
多数の低学年児童に対して、導入、展開及びまとめの各時間割合を3:2:1として教
授することを特徴とする理数科系の課目の教授方法。
(発明の詳細な説明の抜粋)
従来、多数の低学年児童に対する教育は一般に導入、展開及びまとめの順で行ない、1:4:1などのように展開時間に大部分の時間をさいていたが、本発明では、理数科系の課目を教授するために、児童の推理力や記憶力を考慮して、それらの割合を3:2:1としたことにより、多大の教育効果をあげることができた。
[説明]
教授とは、学問等の知識を伝授することであるから、人間の精神活動に属するもので
ある。
そして、この「請求項に係る発明」は、理数科系の課目の教授に際して所望の教育効果をあげるという課題を解決するために、児童の推理力や記憶力を考慮して導入、展開及びまとめの各時間割合を3:2:1に配分するという、精神活動を行う上での効率を法則化したものであり、自然法則以外の法則のみを利用している。
したがって、請求項に係る発明は、「発明」に該当しない。
{会場に集めた消費者に対し、プュロジェクタとコンピュータを用いて、パワーポイントなどのプレゼンテーション・ソフトを利用して、購買意欲をかき立てるようなプレゼンテーションをマニュアル化して、販売促進をするようなビジネス手法自体は、上記と同様に精神活動を行う上での効率を法則化したものであり、自然法則以外の法則のみを利用しているといえる。}
事例4(自然法則を利用していないもの)
(発明の名称)
円に内接する任意の正N多角形の作図方法
省略
事例5(自然法則を利用していないもの)
(発明の名称)
遊戯方法
(特許請求の範囲)
相似形を有する大小の駒の数個を大きいものより順次に積み重ねたものを、任意に定めた3個の陣地の1カ所におき、この積み重ねた最上部の駒を1度に1個のみ動かし、かつ、小さい駒の上に大きい駒を乗せないようにして3個の陣地の他の場所に最小移動回数で移動することを競い合う遊戯方法。
(発明の詳細な説明の抜粋)
本願の遊戯方法によると、遊戯人数に制約がなく、興味ある頭脳的遊戯を行うことができる。
[説明]
一般に、遊戯方法は自然法則とは無関係な人為的な取決めである遊戯規則を利用すること、又はこれに加えて人間の推理力、記憶力、技能、運、勘、偶然性及び精神力などを利用することから成り立っている。
この「請求項に係る発明」は、大小の駒という物品を使用しているものの、このうち一度に1個の駒のみ動かすこと及び小さい駒の上に大きい駒を乗せないことなどの自然法則とは無関係な遊戯者間において定められた規則に基づいて遊戯するものであって、全体として自然法則を利用していないものである。
したがって、請求項に係る発明は、「発明」に該当しない。
事例6(自然法則を利用していないもの)
(発明の名称)
商品の売価決定方法
(特許請求の範囲)
商品の製造時に、商品の製造時刻と、該商品の販売期限と、該商品の定価とを示すラベルを該商品に貼付しておき、
商品を販売する時点で、売価を下記の式
売価=ƒ(商品の販売時刻)×商品の定価
で、決定する商品の売価決定方法。
(ただし、関数ƒは単調減少関数であって0≦ƒ(商品の販売時刻)≦1)
(発明の詳細な説明の抜粋)
従来、製造時刻が異なっていても同じ種類の商品であれば同じ陳列棚に置かれ、しかも、製造時刻が異なっていても同じ売価で販売されていた。そのため、新鮮嗜好の消費者は、その商品の製造時刻を調べて、できるだけ新しい商品を選択して購入することになるため、古い商品が売れ残る傾向がある。そのため、販売期限を過ぎた商品については、その商品価値がなくなる上に、その商品をごみとして出す経費等も発生し、経営者の損失となっていた。
そこで、経営者は、できるだけ、消費者が製造時刻の古い商品を購入してくれる確率を増やすために、一定時刻間隔毎に、陳列棚の前側に製造時刻の古い商品を並べる一方、陳列棚の奥側に製造時刻の新しい商品を並べていた。しかしながら、店舗が広くなればなるほど、一定時刻間隔毎に商品を並び替える経費が増加する問題があり、しかも商品を並べ替えをしている作業を見た消費者が不快に思う危険性もあった。
したがって、本発明が解決しようとする課題は、消費者に不快感を与える商品の並べ替え作業を行うことなく、販売期限を過ぎた商品をできるだけ減らし、しかも、陳列棚にある商品の並べ替えをする経費やごみとして出す経費などを倹約するために、
売価=ƒ(商品の販売時刻)×商品の定価
(ただし、関数ƒは単調減少関数であって0≦ƒ商品の販売時刻)≦1)
のように、商品の販売時刻の経過に伴って、商品の売価が低くなるように設定する商品の売価決定方法を提供することにある。これにより、陳列棚にある商品の並べ替えをすることを行わなくても、新鮮嗜好の消費者は比較的高いが新しい商品を購入し、倹約嗜好の消費者は比較的安いが古い商品を購入することが期待されるので、古い商品が売れ残る数が減少する。しかも、商品の販売期限に至った商品は無料になるので、倹約嗜好の消費者であれば、商品を購入する必要性が少なくても店舗から持ちかえってくれる可能性があるので、その分だけ、ごみとして出す費用等の経費を削減することができる。なお、
ƒ(商品の販売時刻)としては、
ƒ(商品の販売時刻)
=log10〔1+9max(商品の販売期限−商品の販売時刻/商品の販売期限−商品の製造時刻,0)〕
を設定することができる。
[説明]
請求項に記載された商品の売価決定方法は、ラベルという物品を用いているものの、経済法則(需要と供給のバランス)乃至人為的取決めに基づいているので、全体として自然法則を利用していないものである。
したがって、請求項に係る発明は、「発明」に該当しない。
[参考】
なお、特許請求の範囲を、
「商品に貼付された、商品の製造時刻と、該商品の販売期限と、該商品の定価とを記録した二次元バーコードを読み取る二次元バーコード読取手段、
現在の時刻を出力する計時手段、
売価を計算する演算手段、
売価を表示する表示手段、
上記二次元バーコード読取手段、計時手段、演算手段、表示手段を制御する
制御手段
を備えたレジスターにおける商品の売価計算方法において
商品に貼付された二次元バーコードを上記二次元バーコード読取手段が読み取るステップ、
上記二次元バーコード読取手段から出力された情報を上記制御手段が受け取るステップ、
上記制御手段が上記情報と上記計時手段によって得られる現在時刻を演算手段に出力するステップ、
上記演算手段が、下記の式
売価=ƒ(商品の販売時刻)×商品の定価
(ただし、関数ƒは単調減少関数であって0≦ƒ(商品の販売時刻)≦1)
に基づいて計算し、その計算結果を上記制御手段に出力するステップ、
上記制御手段が上記計算結果を上記表示手段によって表示させるステップ、
を含む、レジスターにおける商品の売価計算方法。」
と補正した場合には、商品の売価決定方法という自然法則を利用していない部分があっても、請求項に係る発明が全体として自然法則を利用していると判断され、その発明は、全体として自然法則を利用したものとする。(具体的な判断手法は、「特定技術分野の審査の運用指針 第1章 コンピュータ・ソフトウェア関連発明」を参照)
事例7(自然法則を利用していないもの)
(発明の名称)
パーティ開催方法
(特許請求の範囲)
出席確認の電子メールに対する返信電子メールが来た順番にパーティ開催時に景品を贈呈するお知らせを付けた出席確認の電子メールを参加予定者名簿に基づき送付するステップ、
当該出席確認の電子メールに対する返信電子メールを受け取るステップ、
当該返信電子メールが来た順番を参加予定者名簿に登録するステップ、
パーティの開催時に、会費を徴収するステップ、
会費の徴収後、参加予定者名簿に登録された順番に基づき景品を贈呈するステップ
を含むパーティ開催方法。
(発明の詳細な説明の抜粋)
パーティを開催する事業者にとって、参加予定者を募ることができたとしても、パーティの当日に参加予定者に来てもらえなければ意味がない。そこで、念の為に、参加予定者に参加の確認をすることになるが、参加の確認を往復はがきではなく電子メールで行って も、その返事が期日迄にくる保証もなく、出席の返事が来ても、パーティの当日に実際に来てくれるのか不確定であるという問題があった。
しかし、本発明によると、返信された電子メールが来た順番に参加者に景品を贈呈するというイベントがあることを参加予定者に告知しておくことにより、参加予定者のパーティ出席率が向上すること、出席確認の返事がより早く来ること等が期待できる。したがって、出席者数をより早く把握できるため、パーティで用意する食事の手配のような開催準備を行う際の経費を無駄にすることがなくなる。
なお、景品の費用については、開催準備経費の削減寄与分で充当したり、予め参加費用に含めておいたり、パーティでスポンサー商品を使用することを条件にスポンサーから提供してもらうこと等が考えられる。
[説明]
請求項に記載されたパーティ開催方法は、パーティ参加の確認に電子メールというシステムを用いているものの、パーティ主催者側と参加者側で参加の確認を行い、参加の意思表示の順番に景品を贈呈するという、人為的取決めに基づいているので、全体として自然法則を利用していないものである。
したがって、請求項に係る発明は、「発明」に該当しない。
{この理由は若干わかりにくい。「パーティ主催者側と参加者側で参加の確認を行い、参加の意思表示の順番に景品を贈呈するという、人為的取決めそのものであって、全体として自然法則を利用していない」というべきであろう。「特定技術分野の審査の運用指針 第1章 コンピュータ・ソフトウェア関連発明」の事例2−4(ポイントサービス方法)請求項1、2の解説などはこのような説明になっている。}
[参考]
なお、特許請求の範囲を、
「入力手段、
電子メール送受信手段、
参加予定者名、参加予定者の電子メールアドレス、参加予定者の出席確認電子メールに対する返信電子メールを受信した順番を参加予定者毎に記憶する参加予定者名簿記憶手段、出席確認の電子メールに対する返信電子メールが来た順番にパーティ開催時に景品を贈呈するお知らせを記憶するお知らせ記憶手段、
表示手段、
制御手段、
を備えたパーティ開催支援用情報処理装置の動作方法であって、
当該制御手段が、
当該参加予定者名簿記憶手段から読み出した複数の電子メールアドレスと当該お知らせ記憶手段に記憶されたお知らせを読み出すステップ、
当該電子メールアドレスを宛先とした当該お知らせを電子メール送受信手段によって出席確認電子メールと題して送信するステップ、
当該電子メール送受信手段によって受信した、当該出席確認電子メールに対する返信電子メールを検出するステップ、
返信電子メールを検出する毎に、当該返信電子メールが来た順番を当該参加予定者名簿記憶手段に記憶するステップ、
返信電子メールの検出終了の指示を入力手段によって検知した場合、返信電子メールを送信した全参加予定者について、参加予定者名簿記憶手段に記憶された参加予定者名及び返信電子メールが来た順番を表示手段に出力するステップ、
を実行するパーティ開催支援用情報処理装置の動作方法。」
と補正した場合には、その発明は、全体として自然法則を利用したものとする。
(具体的な判断手法は、「特定技術分野の審査の運用指針 第1章 コンピュータ・ソフトウェア関連発明」を参照)