特許から見たゴルフ
弁理士 遠山 勉 (2001/11/09)

第6話 OUT 6番ホール

「インナーキックヘッド・日本の独自技術」


 これまで紹介してきたゴルフ・クラブの話は、中島プロのアイアンを除き、PINGとキャラウェイといった、米国のメーカーのものであり、ゴルフ界をリードするのもやはりアメリカなのか、といわざるを得ない状況にある。

 しかし、日本のメーカーも捨てたものではない。例えば、特開2001−137391(P2001−137391A)号公報で知ることができる、ダイワ精工株式会社の「ゴルフクラブ及びシャフト止着部材 」は、どうやら、ダイワ精工株式会社が発売している「G3スーパードライブCOR-VERSIONU」で採用された「インナーキックヘッド」に関するもののようだ。

 このクラブを紹介している「書斎のゴルフVol.4」によると、「実際に使用したゴルファーのほとんどが、これまでの自分のクラブより明かに飛ぶというコメントを返してくる」そうである。インナーキックヘッドは、インパクト時に、ボールの打ち出し角度を理想的な角度にするもので、これまでのスイングを変えることなく、アッパー軌道でクラブを振ることができるようにしたものだそうである。


インナーキックヘッドの発明は、前記公報記載の特許請求の範囲によれば、

【請求項1】 ヘッド本体のシャフト止着孔とシャフトとの間に介在部材を設けると共にシャフト中心孔の先端側に芯材を挿入したゴルフクラブであって、前記介在部材と芯材は、ヘッド本体より柔らかい材料で形成され、前記介在部材又は前記芯材のいずれか一方が他方よりシャフト長手方向の上方に及んでいることを特徴とするゴルフクラブ。
【請求項2】 ヘッド本体のシャフト止着孔とシャフトとの間に介在部材を設けると共にシャフト中心孔の先端側に芯材を挿入したゴルフクラブであって、前記介在部材と芯材は、ヘッド本体より柔らかい材料で形成され、前記介在部材又は芯材の少なくともいずれか一方の上端が前記シャフト止着孔の上端と一致していないことを特徴とするゴルフクラブ。
【請求項3〜6】 省略

【請求項7】 ヘッド本体のシャフト止着孔に配され、シャフトをヘッド本体に止着するのに用いられるシャフト止着部材であって、このシャフト止着部材は、ヘッド本体のシャフト止着孔とシャフトとの間に介在する管状部と、前記シャフト中心孔の先端側に挿入される芯部とを具備すると共に、前記管状部及び芯部は一体成形されていることを特徴とするシャフト止着部材。
【請求項8】 省略

 という形で特定された構造である。

★このような記載からでは、「インナーキックヘッド」といわれる由縁は理解できそうもない。そこで、発明の詳細な説明を参照してみよう。


【発明が解決しようとする課題】しかし、上記公報に開示されているゴルフクラブの前記管状補強材及び棒状補強材は、シャフトがヘッド本体に止着される部分全域、すなわちシャフト止着孔のソール側からホーゼル先端位置まで設けられている。従って、シャフトはホーゼル上端を境界にしてその下方側がいきなり補強された状態となり、上記境界部分に応力が集中し、破損しやすいという欠点がある。
【0005】この発明は、上記した問題点に着目してなされたものであり、シャフトのヘッド本体に対する止着領域において、応力集中を生じさせないゴルフクラブ及びシャフト止着部材を提供することを目的とする。


また、【発明の効果】には、「本発明のゴルフクラブ及びシャフト止着部材によれば、シャフトのヘッドに対する止着領域において、応力集中が生じなくなり、シャフトの破損を効果的に抑制することができる。さらに、請求項7,8によれば、管状部及び芯部が一体成形されているため、シャフト止着孔とシャフトとの間の介在部材とシャフト中心孔に挿入する芯部材を容易に設けることができ、製造コストを低くできる。」と記載されているのみである。


★この記載からすると、この発明は、「インパクト時に、ボールの打ち出し角度を理想的な角度にする」ことを当初の目的としていたわけではなさそうである。


本発明の具体例として、実施形態を図でみてみよう。

【図1】本発明に係るゴルフクラブ及びシャフト止着部材の第1の実施形態を示す図であり、(a)は、斜視図、(b)は、シャフト止着部分における横断面図。


【図2】図1に示すゴルフクラブにおいて、ヘッド本体、シャフト及びシャフト止着部材の構造を示す横断面図。


【図3】シャフトをヘッド本体に止着した状態を示す横断面図。


1 ヘッド本体、1a トップ部、1b ソール部、2 シャフト止着孔、5 シャフト、5a シャフト中心孔、10 シャフト止着部材、10a 介在部材(管状部)、10b 芯材(芯部)、10e テーパ


 図1から図3の構成をみると、以下の通りである。

ヘッド本体1には、トップ部1aからソール部1bに亘って貫通するように、パイプ状に形成されたシャフト止着孔2が設けられており、この部分に後述するシャフト止着部材を介してシャフト5が止着される。なお、シャフト5は金属あるいは繊維強化樹脂等で形成されており、中心孔5aを有している。
 前記シャフト止着孔2には、シャフト止着部材10が配され、このシャフト止着部材10を介して前記シャフト5がヘッド本体1に止着される。このシャフト止着部材10は、ヘッド本体1を構成する材料よりも柔らかい材料、例えば、金属(アルミ合金等)、合成樹脂、繊維強化樹脂、ゴム等によって一体成形されている。
 シャフト止着部材10は、前記シャフト止着孔2に嵌合すると共にシャフト5との間に介在される介在部材(管状部)10aと、介在部材10aの内部で軸方向に延在し、シャフト5の中心孔5aの先端側が嵌入される芯材(芯部)10bとを備えており、これらの介在部材10aと芯材10bとは、基部10cを介して一体化されている。なお、前記基部10cには、下方に行くに従い次第に拡径する太径部10dが形成されている。
 前記介在部材10aと芯材10bは、いずれか一方が高く、すなわちいずれか一方がシャフトの長手方向上方に及ぶように形成されている。この実施の形態では、介在部材10aが芯材10bよりも高くなるように形成されており、その高さは、シャフト止着部材10をシャフト止着孔2に嵌合させた際、図3に示すように、シャフト止着孔2の上端と一致しないように低く形成されている。この結果、シャフト止着孔2の上端側は、介在部材10aが存在しないことから、環状の隙間Sが規定される。また、前記介在部材10aの上端部に、上方に行くに従い次第に小径化するようなテーパ10eを形成しておくことが好ましい。
 シャフト止着部材10の介在部材10aの上端と芯材10bの上端位置が異なるため、打球時等、シャフト5がしなったときに、シャフト止着領域における応力集中が防止され、シャフトが破損することを効果的に抑制できる。この時、芯材10bは、シャフト5がつぶれるように変形することを防止してシャフトの破損を抑制している。また、特に、介在部材10aの上端にテーパ10eを形成しているため、応力集中をより効果的に抑制できる。

また、本実施の形態では、介在部材10aの上端位置を、シャフト止着孔2の上端位置より低くして間隙Sが生じるようにしたため、シャフトの有効しなり長さが長くなり、この結果、打球時にヘッドが上下方向に返りやすくなり、ボールを高く打ち上げることが可能となる。


 ようやくそれらしい記述が出てきました。


 どうやら、この部分の記載がインナーキックに関するものです。本来の発明の効果とは別に、上記した構成の副次的な効果として、インナーキック効果が生じ、ボールの打ち出し角度を高くすることが出来るというのです。(あくまでも推測ですが・・・・)。

 いずれにせよ、実際の商品として実現したモデルと特許との関係として、上記のような場合は往々にしてありうるものです。メーカーさんとしては、当初よりインナーキック構造を考えていたのかもしれませんし、インナーキック構造に照準を合わせた特許出願をすでに別途しているかもしれませんので、興味のある方は、調べてみてください。

★ インナーキックヘッド・・・どれだけ飛距離が伸びるのか。試打してみたいものです。
 日本のメーカーもがんばってますね。