特許から見たゴルフ
弁理士 遠山 勉 (2001/10/22)

第3話 OUT 3番ホール

アンダーカット・キャビティの時代へ


 キャラウェイ社のビッグバーサ(メタル・ウッド)がブームとなった頃、同じくキャラウェイ社から、へんてこなデザインのアイアンが発売されました。当初の印象は、申し訳ないけれども、えぐいデザインだと思わざるを得ませんでした。ヘッドはでかく、ソールは広く、深いキャビティ、しかも、キャビティの奥はアンダーカット型の溝が刻まれていました。どうみても初級者用のオジン・クラブ(ごめんなさい)。これがそんなにヒットするとは・・・・。侮ってしまいました。

 私の所属するホームコースで一緒にラウンドした方が使っており、「この溝の中に土が入っちゃうと掃除できないんだよな」と言っていたのが印象的でした。これが、アンダーカット型キャビティの奔りでした。

このアンダーカット型キャビティの特許例を見てみましょう。以下は、1993年4月30日に出願された米国特許出願USSN52697を基礎に、平成6年(1994)5月2日に我が国に出願され、審査の結果平成9年(1997)年10月24日に特許第2711221号として登録された例です。 発明者は、グレン・エイチ・シュミット、リチャード・シー・ヘルムステッターの2名です。この方々は、ビッグバーサ(ドライバー)の開発者でもあります。


以下、明細書の一部をご紹介します。

本発明は、本発明の主な目的は、クラブのストローク中に、ボールへのモーメントの伝達を遅らせるのに必要な条件に適合する、改良に係るアイアンヘッドの構造を提供し、又、クラブヘッドに対して大きい捩り抵抗力を付与することである。基本的に、金属製ヘッド本体に具体化された本発明は、ヘッドの正面壁の後方に二つの交叉凹所を形成する構造とされ、これらの凹所は、正面壁を形成するヘッドの表面の周縁領域に近接して、後方に突出する金属製ヘッド伸長部と境を接する。例えば、該ヘッドは、次のものを備えることが出来る。
 a)前後方向に伸長する主要凹所21を正面パネルの後方に形成する本体;

b)正面壁の真後に配置され、次のうち、次のものの少なくとも二つに向けて主要凹所から外方に伸長するえぐり凹所22(アンダーカット凹所)を形成する本体;

 i)頂部壁14;

 ii)底部壁15;

 iii)トウ13;

 iv)ヒール12;

理解されるように、このえぐり凹所は、主要凹所との交叉部分から、頂部壁、底部壁、トウ部分及びヒール部分の全てに向けて外方に伸長し、これにより、えぐり凹所は、主要凹所と境を形成する。この構造は、ヘッドの周縁部分を介してえぐり凹所の後方の本体金属のモーメントを正面壁及び正面まで前方に伝達するのを僅かに遅らせ易いようにする。典型的に、該ヘッドの金属は、上述のようにえぐり凹所を形成することで、正面壁の外周の直後の部分で厚さが薄くなる。また、このことは、一部の金属をループ状凹所から後方に突出させ、捩り防止効果のためにヘッド周縁部分の重量が寄与する程度を増す。

本発明の別の目的は、該えぐり凹所を上方及び下方に伸長させ、ヘッドの正面の最上方及び最下方部分に近接させ、又、ヘッドの金属をそのえぐり凹所の後方に突出するように再分配し、これによって、滑らかな箇所を広げる効果を著しく増大させることである。また、トウ及びヒールのえぐり凹所によって、横方向へ滑らかな箇所を拡げる効果も提供される。

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頂部壁14、底部壁15に関係付けられたえぐり凹所部分14a,15aは、ヘッドの主要長さに沿ってトウとヒールとの間で細長く形成されており、これにより、本発明の利点の大部分を実現する。これらの利点には、金属をヘッドの上方及び下方周縁に向けて再分配すること、後方突起24,25をヘッドの後方に突出し、ストローク中及びボールを打撃するときのヘッドの捩り抵抗性を増すことが含まれる。

かかる金属の後方への再分配、即ち、後方突起24,25をえぐり凹所部分14a,15aの後方に伸長することは、後方突起24,25の金属部分から正面壁17及び正面16へのモーメントの伝達を多少遅らせ、これにより、ストローク中に、その正面がボールに接触している時間を長くし、ボールのコントロールを向上させると考えられる。下方の後方突起25の寸法及び質量は、上方の後方突起24の寸法及び質量を著しく上廻るようにし、モーメントの伝達遅れ効果を増大させる。

以上が、明細書に記載されたアンダーカット凹所の特徴および効用であるが、明細書には次のような文言もある。「人間及びロボット双方において、かかるアイアンを反復的に実際に使用したとき、ゴルフの成績が向上し、ボールのコントロールが良好となることが判明した。」・・・・・・

その真偽のほどはユーザが証明することでしょうが、その後に続く、ダンロップのツアースペシャルゼクシオアイアン、ブリジストン・ツアースペシャルV7000アイアン、ミズノ・T−ZOIDコンププラスアイアン、チームダイワ255 3D、Sヤード・U21等々、今のアンダーカット型キャビティの台頭は、その優秀性を裏付けるものでしょう。