特許から見たゴルフ
弁理士 遠山 勉 (2001/10/22)

第2話 OUT 2番ホール

キャラウェイ・ビッグバーサの台頭とその進化

 ゴルフ界を変えたメーカーとして、カーステン・マニュファクチュアリング・コーポレーションに次いで紹介したいのが、近年ビッグバーサの大ヒットでゴルフ界の新リーダーとなったキャラウェイ,ゴルフ,カンパニー社です。ここでは一世を風靡したビッグバーサ、ビゲストビッグバーサに関する特許と、その後継として開発されたビッグバーサ・ホークアイに関する特許の双方を紹介し、どのように技術が進化したのかを調べてみたいと思います。

 ここに、ビッグバーサについて取得した日本特許をご紹介します。これは、1994年6月29日に出願された米国特許出願USSN263970を基礎に、平成6年(1994)11月17日に我が国に出願され、審査の結果平成10年(1998)1月9日に特許第2735493号として登録されました。
 発明者は、グレン・エイチ・シュミット、リチャード・シー・ヘルムステッターの2名です。

 ビッグバーサ及びビゲストビッグバーサの発明は、「ゴルフクラブのラージサイズ中空メタルヘッド 」という名称で特許されています。


 特許明細書の記述によれば、本発明は、広くは、ゴルフクラブの中空メタルヘッド(メタルウッド)において、打球時の正確度を向上させるために、ヘッド重量を増大させることなくヘッドサイズを大形化すること、更に、打球時に正面壁部(フェイス)の首振りが発生しにくく、打球時の衝撃波を上壁部、底壁部(ソール)、及び後壁部で吸収できるように、大形ヘッドを形成することを目的としています。

 本発明の特徴とするところは、前記底壁部に、浅く窪ませた2つの凹部が形成されているという点です。その一方の凹部は前記ヒール部に近い位置に、他方の凹部は前記トウ部に近い位置に形成されています。それら2つの凹部は前記正面壁部から後方へ離隔して形成されており、前記一方の凹部は略々前記ヒール部へ向かって膨出した円弧形の周縁部を有しており、前記他方の凹部は略々前記トウ部へ向かって膨出した周縁部を有しています。


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 また、本発明では、外部からは視認できませんが、細い、金属製の、衝撃波分散用の、複数本の樹枝状リブ118〜123(138〜142)を設けています。この複数本の樹枝状リブは、前記正面壁部から略々後方へ、前記殻状体の前記上壁部の下面に沿って該下面と一体に延在しており、また、浅く窪ませた前記2つの凹部の方へ向かって浮き出させています。

樹枝状リブは、ボールのインパクトによって発生する衝撃を、伝達し、分散し、減衰させ、分配することによって、前記正面壁部と前記上壁部との間の接続部に生じる衝撃波の集中を緩和するというものです。


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ビッグバーサの特徴の一つは、そのホーゼルの構成でしょう。特許明細書には、そのホーゼルにつき、次のような説明があります。

本発明は、ゴルフクラブヘッドの内部へ向けて下方へ延在させてそこにシャフト挿入孔を形成したホーゼル構造を提供する。このホーゼル構造とすることにより、前記正面壁部と、皿形の形状の前記ソールプレート並びに前記ヒール部との間の、結合強度を高めると共に、ホーゼル重量を低減することが可能になっており、その低減分の重量は、前述の樹枝状リブを形成するために使用することができる。この点に関して、本発明では、樹枝状リブ構造を採用していない同じ重量のゴルフクラブヘッドと比べて、全体積のより大きなゴルフクラブヘッドを提供することができる。

樹枝状リブ構造を採用することによって、中空ヘッドの上壁部、トウ壁部、後壁部、及びヒール壁部の肉厚を薄くすることができる。
更には、外部へ突出したホーゼルをなくした替わりに、シャフトの下端部分をヘッドの上端から下端まで貫通させて、このシャフトの下端部分の先端52をソールと面一にすることができるようにしている。

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図には、突条部60とトウ部32との間の参照符号162を付した凹部と、突条部60とヒール部30との間の参照符号164を付した凹部とを示してある。 そして皿状凹部162と164との間に、下方へ膨出した突条部60の膨出部分が延在しているため、このソール(底壁部)をターフへ食い込ませる際には、このソールが、ターフをそれら皿状凹部162及び164の領域の方へ押しのけ、従ってターフをかき分けるようにしながら食い込んで行く。そのために、ターフへの食い込みの程度が、このソールの全体としての独特の形状に比例したないしは応じた程度までに制限されるという、他に見られない方式の、ターフへの食い込みの制限機能が得られている。クラブヘッドのソールを滑走させる気持ちでストロークすることによって、ボールをターフから「掘り出す」ように打つことができる。

以上が、本特許明細書に記載されている主な特徴点ですが、このビッグバーサを契機に、メタルヘッドの大型化が始まります。ほぼ、機を同じくして、ヘッド材料革命が起こり、すなわち、ヘッドのチタン化がヘッドの大型化を助長し、今や、300ccは当たり前で、400ccを超えるものも出始めました。

キャラウェイのウッドクラブは、その後、ホークアイへと改良されます。

ホークアイについては、特開平11−290487で知ることができます。これは、下図に示したような構造で、ソールに中央隆起部を有するゴルフクラブヘッドの重心をさらに低くしてゴルフクラブの操作性を改善するものです。  ここで、中央隆起部14はソールをトウセクション16とヒールセクション18に分割している。ソール12はトウセクションとヒールセクションに第1と第2の窪み30、34が形成され、これらの窪みは、下方に凸状とされ、下方に凹状とされた窪みを有するクラブヘッドよりより重心を低くすることを可能にしている。第1の窪みは水平面内で第2の窪みと反対の方向に凹状となる形状を有している。


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 ホークアイは、ERCへと進化し、さらに、現在では、ERCUの時代となっています。ERC、ERCUでは、さらに、高反発フェイスを備え、新たな、「高反発」ブームを引き起こしております。

これらについては、別の機会にご紹介します。