(1)競争優位のために計画的知財経営を実践しよう

2008年10月9日
弁理士 遠 山 勉


素朴に、知財って何のためにあるのか??という疑問。知的財産権を取得することが目的ではない。発明が趣味というのならそれでもよいが・・・。
 発明者の心理を考えれば、簡単にわかる。発明=成功・・お金持ちという願望。実際はそんなに簡単ではないが、発明などの知財に期待されるのは、それで商品性が高まり、経済社会で競争優位となり、結果的に商品が売れ、儲かる・・・という図式である。簡単に言えば、競争優位性である。

「売れる商品」、「売れるための仕組み」・・・いかにしたら、競争優位性のある商品・ビジネスを手にすることができるか。
よって、知財と言われるものに期待されることは、「競争優位」である。一見知財のようにみえても、発明の定義に該当しても、それが商品性のないものであったとしたら、財産的価値がないことになる。よって、企業にとって、競争優位性のある知財の創出と活用が経済活動の主軸として要求される。

 よく勘違いされるのが、特許を取得したら「売れる」という幻想である。

 発明自体、発明を実施した商品自体に商品価値がなければ、売れない。特許性とは必ずしも一致しないのである。

 他より「売れる」という優位性を永続的にかつ独占的に維持できれば、これほどすばらしいことはない。よって、知財は、本質的に真似されにくく、代替不能であることが望まれる。

 しかし、そのような知財は極めて少ない。そこで、知的財産制度がこれを担保し、参入障壁を法的に構築するのである。
したがって、知財戦略として最初に考慮すべきは、いかに競争優位性のある知財を生むかであり、参入障壁のための保護戦略は、その次の問題なのである。重要なことは、競争優位性のある、財産的価値のある知財を創出すること、すなわち、イノベーションである。そのようなイノベーションに基づく知財をどのように育て、商品化し、収益を生むようにしていくかが経営課題である。知財視点で経営の見直しをし、事業を計画的に実行する必要がある。知財視点とは、何が知財なのか、を常に意識することである。

上記の図を参照されたい。

<知財想定>
ステップ1の段階で、誰に、何を、どのように提供するのかという事業ドメインを、知財視点を交えて設計し、予めどのような知財を生むべきか、それがどの段階で創出されるかを想定しておく。ブランド戦略も当然想定しておく。
<知財創造>
ステップ2で知財視点を入れて研究開発・商品開発をする。、この段階で想定された知財が生まれることもあれば、想定外の知財が生まれる場合もある。
<知財保護>
ステップ3では、生まれた知財を確実に保護する。ステップ3になって、はじめて知財のことを考えるのでは遅く、適切な戦略は組めない。保護にあたっては、特許権・意匠権などを取得することが目的となってはいけない。それらは、保護の一手段にすぎないことを忘れないでいただきたい。また、権利で保護できない知財もある。権利化の費用対効果も考える必要がある。権利化以外の事実上の参入障壁を作る方策も考える。時には、オープン戦略をとった方がかえって優位的地位を得られる場合もあることを考える。これは経営判断である。
<知財活用>
ステップ4で現実の市場に商品を投入し、優位性による実利を確保する。ここでは、絶え間ないブランド価値維持向上を図る必要がある。特許や意匠もブランド価値を上げるための一要素であることを念頭に、ブランド戦略の中で、すべての知財をマネジメントしていくことを忘れてはならない。
 なお、
ステップ4の段階で、知的財産権を取得しようとする人がときどきいるが、それはもはや手遅れである。


事業戦略の全体像を常に意識し、かつ、知財・・を常に意識し、計画的に知財経営を実践したいものである。