知財発想的経営戦略のススメ

弁理士 遠山 勉 (2004/11/27)


☆知財発想とは何か?

(1)ID(アイデンティティ:他と違うということ)を明確にすること (旧日本人には難しい)
(2)違うことに価値を見いだすこと
(3)他との優位性を付けること(知財は差別化の手法)
(4)必ずしも権利を取得することを意味しない
(5)知財は差別化のための情報・知恵
(6)知財は、既存知の中に冥伏している

★知財発想の源泉
★知財は情報
★知財発想の手法
★経営戦略との関係
★基礎発想力の強化
★知財発想プロジェクト
★知財戦略ツールの導入
★「知識社会」はデータが命

経営と知財(知財ブログに掲載した「経営と知財」をまとめました。)


★「知識社会」はデータが命(03/04/30:読売新聞夕刊) 
猪口 孝 東京大学東洋文化研究所教授・政治学

 2003年4月30日の読売新聞夕刊に、標題の記事が載っていた。タイトルに惹かれた。
 猪口教授によれば、「技術革新は新しい情報の組み合わせによって可能になるのである。知識社会は手で触って感じられるものではなく、言葉を通じて知的にしか捉えられない現実世界を相手にする」という。そして、物作り崇拝の日本では知識社会に対応できない旨指摘している。
「何が悪いのか。現実世界を虚心に体系的に観察整理分析することが疎かにされている。」「虚心にデータベースを構築するシステムが不可欠である。」そして、さらに、問題なのは言葉だけで勝負する社会科学であるが、日本では2つの欠陥がある。一つは、欧米の理論を紹介するだけにとどまり、空理空論に陥った点、第2にそれに反発して閉鎖的に狭い対象を解剖する学者たち、を指摘する。
 氏は続ける。「欧米の学者は未開拓地であるアジアの社会的現実のデータベース構築に熱心である。」「ひどく物作りに取り付かれたような日本社会の風潮は、必ずや近い将来復讐を受けると思う。」「社会をどのようにデザインするか。そのためにどのようなデータベースを構築するか。社会の仕組みをデザインすることが社会科学の最大の役割の一つであるが、日本社会はデータベース構築を徹底的に軽視している。」という。

○ 物作りを重視しているからといって、直ちにデータ軽視ということにはならないと思うが、日本社会が、「情報」に対する価値を軽視していることは、知財を専門としている者としては、実感せざるを得ない。情報が「ただ(無料)」の国では、知財は守れない。現在の日本で、「情報」が無料とはいえないものの、情報に対する対価はまだまだ低い。個人的意識レベルが低いのである。そういう国で、だれがデータベースを構築するであろうか。構築しても価値を生まないと思ったらだれも構築しないだろう。
 しかし、猪口教授が言うように、「情報社会」はますます近づいている。物作り社会と情報社会の両立が必要となろう。

 ところで、猪口教授の記事を読んで、大学時代の社会科学の教授:高島善哉先生の授業を思い出した。「社会科学とは、社会を科学する学問である。科学するとは、物事を分析的に見るということである」との授業は今でも忘れられない。猪口教授が正しければ、日本の学者は科学していないということになる。


★知財発想の源泉

特実→新規な技術
意匠→新規な美的外観
商標→自他商品の識別
著作権→自己表現
不競法→不当な競合(他との重なり)排除
共通点は・・・上記知財に共通するところは、他との区別であり、己が己であることの主張である。
知財発想とは、優位性確保のためアイデンティティをどのように主張するのかという観点からの発想である。知恵に対して敬意を払うということ。

知財発想的経営戦略とは・・上記を経営戦略の主軸に取り入れることです。


★知財は情報

☆情報が情報として機能するためには、伝達されること、利用されることが必要である。
☆情報の伝達には必ずコピーが必要である。
☆文化の発展、伝達には情報の伝達、教育が必要。
☆人間の性質はDNAにより伝達される。組織の性質は情報の共有により育成される。
☆情報の山びこ現象:情報を発信すれば、必ず返ってくる。




★知財発想の手法

情報のビジュアル化とネットワーク
情報の価値化とランク付け
情報の分析に基づく、既存知の選択と組合わせによる新価値の創造(静的分析と動的分析)
新規でないものの差別化にも知財的発想を適用


★経営戦略との関係

知恵(知的財産)が企業を支える時代
経営とは、「利潤の追求と継続性」
求められるのは優位性
経営資源としての「人・物・金・情報」における知財発想の応用が必要
知財発想は、単に、知的財産権を経営に利用するということではない。
知恵のある人、知恵の結晶としての物、知恵のある資金調達・運用、価値ある情報の入手と創造。


★基礎発想力の強化

まず必要なことは創造力の強化
但し、「創造しよう」とは思うな
創造とは、人の知見に基づく既存知識の収集・分析・選択・組合せ行為である。但し、選択と組合せには若干の知恵を要する。
創造とは、既存の「知」と「知」の組み合わせであり、組み合わせの段階に生じる、洞察、予測、連想に従った新規知である。

「知」を集める。「知」の認識と管理
「知」の融合と「知」の解放。
「知」を利用する。メキキが要求される。
知財人材の把握と増強
企業全体の知財発想力(基礎発明力)の強化
基礎発想力=(提案・出願数/開発人口)
社員の発想力の強化
提案・出願者数/開発人口


★知財発想プロジェクト

個々人のもつ「知」の集積と融合策(個々人の責任)
集合体(部・課)における「知」の集積と融合策(部課の責任)
個人「知」と集合「知」の管理と融合策(知的財産部の責任)
知的財産戦略の策定と実行(経営幹部と知的財産部の責任)


★知財戦略ツールの導入

知的財産教育システムの導入: 特許(知的財産)を見る目の育成
パテント・ナレッジ・マネジメントの導入: 特許を利用した「知」の創造
パテント・プロジェクト・マネジメントの導入: 特許を利用した企画・開発プロジェクトの達成