頭の体操


とびきり陽気なヨーロッパ史
テランス・ディックス著
筑摩書房
 
  イギリス人にヨーロッパの歴史を解説した本。(イギリスの歴史はジョン・ファーマン著「とびきり愉快なイギリス史」参照)。欧州といってもEU(EC)参加国だけを取り上げているため、全体像が見えてくるというわけではないが、ここの国それぞれについて時代を追って説明されるそれに、なるほど・そーだったか、と頷くこと多い。世界史の授業(参考書の囲みネタ)では見えない裏事情をこっそり教えてくれる本だ。
 語り口も、添えられているコメント附きイラストも抜群。軽快なリズムで楽しく読み且つ学べる美味しい本。各国の歴史の終わりに附いているその国の成績表、「グルメ度、文学・芸術、風景・警官、政治、国民性」。国民性以外にすべて100点満点中の○○点と点数評価され、コメントが附いている。これがまたコンパクトにうれしくまとまっている。
 『はじめに』の部分の最後を著者は
<隣の国にすむ人々は「変なヤツ」だと思うのは仕方のないこと。でもこの本を読むことで「変なヤツ」と思っていた人々が実は苦難にみちあふれた歴史を歩んでいたことを知れば、「変なヤツでも許せるか」と思うようになるかもしれない。みんながそう思うようになることを心から願ってやまない。>
 と結んでいる。史を学ぶということは正にそのことなのだ、と、深く共感。(2002.10.14読了&記)
教養としての<まんが・アニメ>
大塚英志+サカキバラ・ゴウ
講談社現代新書
 
  大塚がまんがを、サカキバラがアニメをそれぞれ語る。
 戦後という時代の流れの中で、<まんが・アニメ>が自らを発見し、いかに育って、今に至ってるのか、単なる知識ではない<まんが・アニメ>について語られた本書。アニメに関しては今に至るまでほぼ傍観的な位置にいた私にとってここで語られるアニメはまさに「教養」である。一方で、<まんが>が身体を発見し内面を探り多層化の中で表現を高めてきたと伝える第一部は、自分の読書歴(まんが歴)をふまえて、共感を持って読み解くことができた。
 <まんが・アニメ>の時代の捉え方は他にもあることは承知しているが、それをおいても、「教養」とあえて題名につけられている価値やよし。自分を再確認する上にも、過ぎ去った時代を再整理する上にも興味深い一冊である。
 リアルタイムを経験せず、かつ、ここで論じられた作品を知らない読者にとって、一つの指針となりうる本である。 (2001.06.28読了&記 8.13転記))
教科書の社会史
−明治維新から敗戦まで−
中村紀久二
岩波新書

 明治維新から新たに始まった「日本」という国の流れの中で、教科書はどれだけの役割を果たしていたのだろう。「黒ぬり教科書」の話は知っていたが、其処に至るまでの変容の過程など資料を駆使して展開される話に学ぶことが多い。
 戦前の教科書というのはすべてが国定だと思っていたのだが、実は違う。最初の最初、明治初年には、自由発行・自由採択制だったのだ。それが開申(報告)制、認定制へと代わり、1886年(M19)に検定制、1904年(M37)になって初めて「国定教科書制度」になりかわるのだった。その教科書が絶対の権威を持ち、真理であるかどうか問われることなく定着させられていく、また定着するようにし向けていく(権力)の有り様がよくわかる。
 たとえば「ジェンナーが我が子に最初の牛痘接種実験をした」というエピソードは誤解なのだがいかにも真実に語られてしまった、それも修身において。本書によれば、国家主義が高まっていく中で外国人の扱いがどんどん減っていく教科書の中で唯一「敵国人といえども・・・」というコメントまでつけて採用されていたのがこのジェンナーのエピソードだったという。二宮金次郎の扱いもまた似た例である。
 数え歌に忠君愛国を歌い込んだそれを歴史の資料などで見かけていたが、その数え歌が「毒ヲ以テ毒ヲ救フノ策」だったとは! 江戸・明治と続く百姓一揆や打ち壊し、民権運動の時に闘争の趣旨や経過を歌い込まれた数え歌が多々あった。俗謡と音楽教育が取り入れ始めたときに軽視されたそれは権力に対する「反逆の歌」となり得たのだ。それが「忠君愛国」へと転じていく様子。
 初めて知ることも多く、明治からの教育の流れというものをこの本によって背筋の伸びる思い学ぶことができた。本書の初版が1992年。筆者は「かつて真っ黒に墨ぬりされたものが、そこかしこに公然と出現しているのである」と結ぶ。さらに昨今、その出現はますます強引に現れているように思う。いまを見つめる視点になる本に出会えて感謝である。(2001.01.04読了&記)
インターネットを使いこなそう
中村正三郎編著
岩波ジュニア新書
 
  普通に使っていてインターネットでいま特にどうこうしているわけではないのだけれど、システムの設定とか全部私がやっていて子どもにとってパソコンはブラックBOXに近い。たとえそれがタグうちしてHP作ってるユニコにしたところでお膳立てされた状態でしかないわけだし。ソフトは使えればいい、という考え方もあるけれどそれだけではまずいのでは無かろうか。
 パソコンの設定とか仕組み、インターネットの流れなどあちこちでかじりながら理解していることを伝えようとしてもなかなかうまく子どもに伝えられないでいるときに目に付いたこの本。中村正三郎さんの「星降る夜のパソコン情話」以来の愛読者としては渡り船といったところ。中高校生向けにわかりやすく書かれている。WIN95ベースのHTML3.2の頃書かれているが基本は基本、読んでいて頭の引き出しが再整理。
 特に興味深かったのが『第5章コミュニケートする学校』。数年前の東京時代の中学がコネットプラン指定校でHPも立ち上げ研究概要なども積極的にネット公開するのをリアルに見ていたので他の学校についても興味があった。それぞれに工夫されているのだがそこに見られるのは多分に(わかっていでできる)個人によるものという傾向。そしてそれは今でも変わっていない気がする。PTA関連で関わる先生でもパソの話ができる先生と「それはとても・・・」という先生もいて、その差はそのまま学校格差になっている。もちろんパソコンの配置などの予算配分の市町村格差もあるのだがそれ以上に人が・・・。
 この本、まず学校の先生に読んでもらいたいなあ。(2000.09.23読了&記)
自由からの逃走
エーリッヒ・フロム
東京創元社
現代社会科学叢書

 1941年という2次大戦のさなかに書かれた「現代」の問題をも内包する古典的名著。
 自由とは心理的問題だけではなく社会経済・イデオロギー的条件と結びつけて考え他方がよいと説くフロム。その中で「自由」の持つ重み。自由は人を束縛から解放するかもしれないが孤独であることもその裏にはある。人はその重みに絶えかねて、別のイデオロギーに救いを求めてしまう(ナチズムの時代)。
 キリスト教社会での「自由」とはまず神からの自由であって本書も当然それが基になっているわけだが、「神(絶対神)」とは縁遠い生活をしている私にとってもここで書かれている言葉は重い。
 個であること、自立していること、孤立をおそれないこと。自分が自分であること。逃げたいときに(どこからどこへ?)引き止めるのは「Escape from Freedom」という言葉。 (2000.05.17記)
あなたのなかのDNA
中村桂子
ハヤカワ文庫NF
 
  昨夏子どもと共に読んだ本。(これも読書感想文用^^;)。
 副題に<必ずわかる遺伝子の話>とあって、DNAってよく聞くし「螺旋の階段」なんて何気に使っているけれど、あらためてさて? の状態のこの頃。
 DNAでなくて「ゲノム」。「ゲノム」を一つのかたまりとしてとらえることによって生命の捉え方が違ってくる。うんうんと頷きながら読了。
 論文調でなく話し言葉、語りかける文体なので、難しい講義を優しい言葉で楽しくうけさせてもらったっていう感じ。(2000.04.22記)
沈黙の春
レイチェル・カーソン
新潮社

 1962年に執筆されたこの本は、まさにいまの地球を予言していたともいえる。
 人間が環境を破壊する。汚染はどのようにすすんでいくのだろう。土が汚れ水が汚れ魚が死に鳥は鳴かない。
 具体的な実例を挙げながら書かれた本書を読むと改めて人間が利便さを追い求めて手にしたものの恐ろしさを感じずにいられない。


 理系に進むなら必ず読んでおかねば・・・と、近年、子どもに読書感想文用にすすめて久々に読み返した。学生時代の英語のテキストでこの「SILENT SPRING」読まされて、植物の名など辞書ひくのに悪戦苦闘したけど、それ以上にその内容が衝撃だった。ベトナム戦争の枯葉剤がニュースになっていたころだったし・・・。 (2000.04.03記)

とびきり愉快なイギリス史
ジョン・ファーマン
ちくま文庫
 
 帯に「抱腹絶倒 前代未聞 愉快痛快 勇気百倍」とある。まさにそのもの。
 第2次大戦頃までのイギリスの通史だけれど、その切り口が、「モンティパイソン」風。ぐいぐいと読んでいってしまった。
 世界史でざっとさらった歴史やイギリスが舞台のいろいろな物語にでてくる歴史上の人物を思い起こしながら読むとさらに楽しい。 (2000.04.03記)
砂糖の世界史
川北 稔
岩波ジュニア新書

 「世界商品」ってなあに?
 モノ(商品)を通して近代史を縦横に走り抜けて、地球の国々のつながりにまた一つの線が付け加えられる。そんな爽快さのあった読後。
 プランテーションって習ったはずなのに「奴隷=綿花」の印象が強くて、「砂糖のあるところに、奴隷あり(第6章)」なんてすっかり忘れていた。
 「砂糖」をつうじて、世界を見る。見直す。いまの私(たち)が立つ地点を問い直すきっかけにもなる一冊。 (2000.04.03記)


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