再読はかっぱえびせん


アン.マキャフリー

<歌う船>シリーズ 創元SF文庫

歌う船
酒匂真理子訳
 
 生まれたときから身体は機械の助けを得ないと生きられない。しかしその頭脳は申し分ない。ヘルヴァは頭脳船(ブレイン・シップ)として生きることになった。
 実験学校を卒業したヘルヴァは中央世界の任務に就くことになる。そのためには相棒(筋肉=ブローン)を選ばなくてはならない。彼女の最初に選んだブローンはあまりにも早く死を迎えてしまう。歌う船として名を知られたいたヘルヴァも歌うことができなくなってしまった。嘆き・悲しみ・喜び・愛、相棒を求めてヘルヴァは生きる。
 殻人(シェルパーソン)という発想にひかれて読み始めた本書、SF読まず嫌いの人でも涙と共に読めてしまうオムニバス。  (2000.06.16記)

キラシャンドラ・リー ハヤカワ文庫SF

クリスタルシンガー
浅羽莢子訳
 
 声楽家として一流を極めようとおのれに自信を持って進んでいたキラシャンドラの夢は破れる。逃げ出すキラが出会ったのは一人のクリスタル・シンガー。星間通信や宇宙船の推進ユニットに必要なクリスタルを切り出す仕事。
 絶対音階が必要なシンガーの最高位を目指しキラシャンドラは進む。胞子生物との共生、様々な訓練、そして、黒クリスタルの切り出しと据え付け。クリスタルという魅力的な鉱物とそれを取り巻く世界など、細かなところまできちんとSFでうならされながら読む。
 我が儘で強引で自分勝手で・・・なんて書くといいところのないようなキラシャンドラだが、そのむちゃくちゃな性格も時としては自分にできない分気に入っていたりもする。  (2000.05.27記)
キラシャンドラ
浅羽莢子訳
 
 トントン拍子に見えたキラシャンドラをマッハ嵐の災厄が襲う。クレジットが稼げなくなった彼女は遠い星オプセリアニクリスタル・オルガンの修復にいくことになった。
 行った先のオプセリアが何かおかしい。着くそうそうナイフでおそわれたりさらわれて島に置き去りにされたり、キラシャンドラにおそいかかる困難。カリガナと名を偽って政府と対立する島人と知り合ったキラはオプセリアの不正に気づいていく。
 オルガンを修復し帰路につくキラシャンドラの心は喜びではなく絶望におおわれる。新しいクリスタル鉱脈も彼女の慰めにはならない。前作「クリスタルシンガー」での傲慢な彼女はもういない。恋・涙・そして・・・・・。
 はらはらどきどきは前作以上。  (2000.05.27記)

〈パーンの竜騎士〉7 ハヤカワ文庫SF

竜の反逆者
小尾芙佐訳
 
 あのファックスの時代に話はさかのぼる。さかのぼりながら一気に駆け抜けて「白い竜」でジャクソムが発見した遺跡、そしてアイヴァスまで。パーンを北から南に横切りながらいままで語られなかったパーンが見えてくる。
 過去6作で語られたことが別の視点から描かれることによって物語に厚みが増す。テルガー城砦のララド太守の姉セラ、隊商の若者ジェイジ(城砦なき民)、竜の声を聞くことのできる少女アラミナ、この3人を軸にしながら、おなじみの人物が出てきて絡み合い時が進む。南ノ大陸のトリクとジャクソムとか、ピイマアとシャアラ。
 後半は南ノ大陸での謎解き。ロビントン師と共に発掘をいまかいまかとページを繰る手ももどかしく・・。この本を読み終わると再び「竜の戦士」にもどって読み直し始めたくなる罪作りな本。 シリーズ7作  (2000.05.03記)

〈パーンの竜騎士〉外伝 ハヤカワ文庫SF

竜の夜明け
浅羽莢子訳
 
 パーン入植。「ヨコハマ号」船長ポール・ベンデン指揮のもと、パーンの植民地化はすすめられる。
 広大な土地を耕し、自治もスタートしたのに、報告にはない「黒い雲」。「銀の糸」。科学技術に頼らない植民を選んだ人々になすすべはない。「糸」を退治するために生物の遺伝子改造が急務となる。
 黎明期のパーンの暮らし。火蜥蜴と竜、そして地虫。登場する人々の名前を読みながら未来を思い浮かべてにやりとするのも伏線の楽しみの一つ。純然たるSF。  外伝<1>  (2000.05.03記)
竜の貴婦人
幹 遙子訳

あの ”モレタの飛翔バラード”があきらかになる。  時は「竜の戦士」よりも900年近く前。もうすぐ糸胞の周期が終わるというときにパーンに疫病が発生した。それは竜騎士までにもひろがる。
 −竜騎士は飛ばねばならぬ、空に糸胞のあるときは− この言葉がこれほど重く感じられるのは本編をおいてない。女王竜オルリスの騎士モレタがパーンを守る。守るために飛ぶ。時の間隙さえ超えて跳躍を繰り返すその果てには・・。
 最後はきまって涙がでる。  外伝<2>(2000.05.03記)
ネルリカ物語
幹 遙子訳
 
 「竜の貴婦人」のサイドストーリィともいえるべき本書。レサに対するメノリ(「竜の戦士」対「竜の歌」)がいるようにモレタがいてフォー城砦の太守の娘とネルリカがいる。
 疫病がパーンに拡がる中、ネルリカは母と妹を失う。病人をないがしろにする父に反発し、看護の腕を生かそうとネルリカは自分の道を歩き始める。血清が作り出されパーンが疫病から逃れるまで、ルアサの悲しみが終わるまでのの物語。  外伝<3> (2000.05.03記)

〈パーンの竜騎士〜竪琴師ノ工舎〜〉シリーズ ハヤカワ文庫SF

竜の歌
小尾芙佐訳
 
 ジュヴナイル版パーンの竜騎士シリーズ<竪琴師ノ工舎> 3部作の1作目。竜と竜騎士が中心となり大巖洞に住む人々が話題の中心だったのに対し、この3部作は、城砦民など、ふつうの生活から語り始められている。
 少女メノリ。歌も楽器にもすぐれている彼女はかえってそれがあだとなり、はからずも城砦からぬけ出すことになってしまった。その時彼女は火蜥蜴を感合する。なんと9匹も。歌を作り彼らを慈しみくらし始めたメノリはある時糸胞に遭遇し、助けられてベンデンへ。
 見いだされた少女メノリはそれ以前より探し求められていた人物でもあることがわかるくだりは、シンデレラストーリーのようにも見えるが、なんといっても本書の魅力は火蜥蜴との関わりが一番、と断言してしまおう。  シリーズ4作  (2000.04.15記)
竜の歌い手
小尾芙佐訳

 <竪琴師ノ工舎>その2 ロビントン師に見いだされ竪琴師ノ工舎にきて音楽を学ぶことになったメノリの奮闘記。才あるものに対する羨望・嫉妬はどこにもあるけれど、いかにメノリがそれをくぐり抜けていくのか。市の様子など、日常の生活が心地よく語られている。”泡菓子”ってどんなかな、とこの本を読むといつも想像する。
 一方では火蜥蜴の孵化を待つロビントン師、パーンの情勢と竪琴師の役割。火蜥蜴との感合から恐怖を共鳴した「赤ノ星」(第2話のフーノルとカンスとブレク)の様子。
 本編と関連しながら進む話は、「実はあのとき・・・」が明らかになってますます深まってくる。   シリーズ5作  (2000.04.15記)
竜の太鼓
小尾芙佐訳
 
 <竪琴師ノ工舎>その3 舞台は南ノ大陸が中心になる。メノリとであったときはまだボーイソプラノの美しいやんちゃな少年だったピマアが主人公。
 彼が知ることになった重大な秘密とは? 密命を受けてとある城砦に潜入したピマアは、やがて・・・・。
 「白い竜」の最後の方でひょっこり現れたピイマアになぜ? と思ったのだが、本書でその間の様子が明らかになる。少年は青年に育っていくのである。そこかしこに潜む陰謀の海をくんくんとかぎ分けつつ・・。そして念願の黄金ノ女王火蜥蜴もまた。   シリーズ6作  (2000.04.15記)

〈パーンの竜騎士〉シリーズ ハヤカワ文庫SF

竜の戦士
船戸牧子訳

 ルクバト第3惑星パーン。忘れ去られた糸胞の侵略。火を噴く竜と共に飛び立った竜騎士の栄光も地に落ちる寸前。(すべての英雄がたどる道なのだけれど)。転落もあわやというとき・・・。
 そのときから200年。赤の星が輝き、糸胞は地を食い荒らす。竜は飛翔する。空に糸胞のある時は。
 レサ、フーノル、彼らの竜たる、ラモスとニメンス。工夫を凝らし知恵をパーンは救われるのだろうか。
 ☆レサの成長物語ともいえるシリーズ1作。  (2000.04.02記)
竜の探索
小尾芙佐訳
 
 竜の祖先は火蜥蜴? 南ノ大陸で火蜥蜴の孵化に遭遇したブレクとフーラルは火蜥蜴と感応する。
 彼らが南ノ大陸にいるのは400巡年前から時の飛翔をしてやってきた旧時代から来た大巖洞の統領たちとのトラブルにもよっていた。
 レサの時の飛翔から7巡年。糸胞の周期が狂いはじめた。いまこそ力を合わせるときなのに、竪琴師のロビントンの悩みはつきない。南ノ大巖洞からもどってきたブレクは忙しさのあまりウィレンスの飛翔に気づかないままでいた。
 フーラルによる赤の星への探査飛行、ルアサ城砦の太守ジャクソムと白い竜ルースとの感合。糸胞は地虫でも退治できるということだが・・・・。
 ☆ブレクの心のひだをおいかけてみるのも一興かも  シリーズ2作  (2000.04.02記)
白い竜
小尾芙佐訳

 前作で白い竜「ルース」と感合したジャクソム。
 パーンの竜は本来白はいない。青銅、褐、蒼い竜はいるけれど、ルースは特別。火蜥蜴とだって話ができてしまう。
 女王竜の卵の盗難事件、南ノ大陸の探検、古代人の遺跡の発見、恋。
 ロビントン師がたおれたときはぞっとそました。彼もまたパーンの竜から名を知られた人物。
 ジャクソムの成長物語でもあるこの「白い竜」で、「パーンの竜騎士」3部作は一区切り。とはいえ、同時代を別側から書かれた「竪琴師ノ工舎」シリーズもある。  (2000.04.02記)


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