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浅井造型マタンゴキットへの寄稿文

MYSTERIOUS BEAUTY IN MATANGO

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魍魎の女王 水野久美に捧ぐ

「離れた所では、それはひどくねじれて節くれ立ったグロテスクないじけた樹木のような恰好をしており     時おりその一切の物がいやらしくゆさゆさ揺れていた。」

W.H.ホジスン(大門一男訳)『闇の声』

 『キングコング対ゴジラ』公開の翌年の1963年、映画『マタンゴ』は公開された。 怪獣ブームで波に乗る東宝の幻想怪奇映画の中で、同年公開の『海底軍艦』を『妖星ゴラス』('62)に続く正当派SFスペクタルとするなら、『マタンゴ』は、『ガス人間第1号』('60)に続くダークサイドの系譜に位置する大人の映画である。
 原案は、作家の星新一と初代SFマガジン編集長であった福島正実。福島正実著『マタンゴ』には、さらに原案となったホジスンの『闇の声』(1907)という小説がある。 胞子を連想させる、白い霧に閉ざされた無人島やきのこ人間など、重要なファクターはこの小説から。 福島正実は事件に遭遇する船乗りを、湘南でヨットを乗りまわす当時のハイカラな若者に置き換え、7人の男女が巻き込まれる現代劇のホラーSFに翻案した。
 出演者には、久保明、土屋嘉男、小泉博、佐原健二ら東宝映画お馴染みの顔が並ぶ。 中でも麻美を演じる水野久美は、『マタンゴ』の顔といってもよい存在感を見せた。

 劇中マタンゴは、恐怖の対象と共に、飢餓からばかりでなく全ての人間的苦しみから解放してくれるドラッグに似た、魅力的な禁断の木の実としても描かれる。 その背徳感に満ちた媚薬を、そのまま人の形に練り固めたような女が麻美である。
 物語の終盤、マタンゴを食して生気を取り戻した麻美は、妖艶さを加速し、笠井(土屋嘉男)の前に現れる。 恍惚とした表情に怪しい笑みを浮かべたその魅力的な妖女は、人の形を保つ者に嫉妬するかのように、一人また一人と仲間を闇の世界へ引きづり込む。
 この映画で、水野久美はヴァンプ女優としての魅力を十二分に発揮し、悪女から妖女へと変貌する麻美を好演している。 その、恐怖と隣会わせの甘美な匂いが散りばめられる事によって、『マタンゴ』は単なるホラーの枠を超え、超一級の幻想映画となった。

 ラストできのこ怪人に囲まれ弄ばれる主人公村井(久保明)を、はなれた場所から見守る麻美は、正に闇の世界の女王のごとく、気高く美しい。
 今回のキットは、この最も印象的なシーンがモチーフ。 本邦初のきのこ怪人と麻美のセットとなった。 恐怖と快楽という2面性を考えれば、マタンゴのキット化でこれしかないという構成である。 キットを組み立てる時には、麻美はもちろん、マタンゴも単にグロテスクな怪奇生物ではなく、妖艶な悪女のごとく淫靡に塗装してやるつもりだ。

文中敬称略
『マタンゴ』キット化に寄せて
2001.7.7 松本正



このページは、2001年7月、浅井造型マタンゴキットに封入する、寄稿文として書かれたものをHTML化したものです。
引用及び参考文献
河出書房新社 東雅夫編「怪獣文学大全」
Text by Masato Matsumoto. (c)1963 TOHO CO. (c)2001 Masato Matsumoto.