蒐集癖

世の中広いもので、人間60億人いれば様々な趣味もあるものです。 全人類はともかくとしても日本人1億人いればいろいろな考え方の人がいて、 いろいろなこだわりを持つ人がいても不思議ではありません。 僕の趣味も日本人としてはちょっと偏ったものらしく、 ロックバンドでラッパを吹いていると言えば不思議がられ、 クラシカルな方面では少人数金管アンサンブルに限ると言えばびっくりされ、 会社で休憩中にジャグリングをしていると言えば首をかしげられ、 図書館情報大学卒業と言えばそんな大学知らんと言われ、 北陸先 (略) 院大学修了と言えば変人扱いされ、 まあ実際変人なんですが、こういう人間も 日本人全体からみればそう珍しいものでもないと思います。 ちょっと趣味から外れているものが入ってるかも知れませんけどそれはさておきます。

反対に人口の多い趣味というのもいくつかあるようです。 「読書」「音楽鑑賞」「鉄道」「アマチュア無線」「スポーツ観戦」 あたりは極めて趣味の王道と言えるでしょう。 もちろんこれらを細分化して 「趣味は読書 (ただし相良守峯の翻訳に限る)」とか 「趣味は音楽鑑賞 (ただし北欧メタルに限る)」とか 「趣味は鉄道 (車内で使われる紙コップにこだわる)」とか 「趣味は無線 (特に放送局の素材を集めるのが好き)」とか 「趣味はスポーツ観戦 (水球専門)」とかになると ちょっと変わった趣味と呼ばれるかも知れませんが、 それでも履歴書の趣味欄に堂々と書けるものではあるはずです。 少なくとも趣味欄に「トランペット吹奏、ジャグリング、コーヒー」と 書くよりは、「読書」「音楽鑑賞」「スポーツ観戦」と書いたほうが はるかにふつうの人であると思われるはずです。

そういったメジャーな趣味としては他に「釣り」「ドライブ」 「旅行」などもあるわけですが、 特に蒐集系になると人口もヴァリエーションも極めて豊富と言えるでしょう。 例えば切手蒐集は趣味の王様 (逆は 必ずしも真ならず) だそうです。 僕も特殊切手が出るとできる限り買ってしまい、気に入った図柄だと ついついシート買いしてしまうのですが、 これは別に集めることが目的ではなくて、手紙を出すのが目的なのです。 折角手紙を出すなら気に入った切手を使おうと思うのは自然な行為で、 特殊切手はもともとそういう自然な考え方につけこんだ商売なわけです。 ただ、20年くらい昔に発行された特殊切手をがんがん使っていると、 かつて切手蒐集をしていた人には悪口を言われたりもしますが、 それはそれで価値観の違いということで。 その他にもカップの蒐集、ワインの蒐集、ミニカー、レコード、 映画のパンフレット、駅の入場券、トランペット、 トランペットのマウスピースなどありますし、 中には僕の想像もつかないような蒐集癖があるかもしれません。

さて、本を蒐集するという趣味もあるようです。 本を読むのが趣味の人の数分の一でしょうが、 本を買うのが趣味と言う人は厳然として存在します。 初めは勿論読むのが目的だったわけですが、読む本は自分のものにしなければ 気が済まなくなり、徐々に本を手に入れること自体が目的になってくる というのが典型的なパターンのようです。 本の蒐集にもいくつかのヴァリエーションがあるようです。 初版本蒐集癖や初版初刷本蒐集なんてのは比較的高尚な趣味と呼ばれるようですが、 乱丁本蒐集癖なんてのはかなり趣味が悪いと言われるようです。

さて、うちに漱石全集の本が何冊かあります。 漱石全集と言えば岩波書店であり、岩波書店の漱石全集と言えば 夏目漱石の作品集の中で最も権威あるものと言われているものです。 ただし、僕が持っているのはいわゆる全集版の漱石全集ではなく、 戦後10年くらいに出版された、文庫版の漱石全集です。 文庫版の漱石全集ではあるのですが、実際の大きさは新書サイズです。 全集版漱石全集全24巻が、全35巻くらいになって出版された いわゆるお手軽版で、持ち運ぶにも寝転がって読むにも適したサイズです。 しかもふつうの岩波文庫などと較べると活字がそれほど詰まっていないので、 目にも優しく読みやすい仕様になっていて、 何故この本が絶版になったのか理解できません。

さて、僕は別に蒐集癖があるわけでもなかったので、 なんとか古本屋を一軒一軒探して回ったりしませんし (嘘です。高校時代はよくやりました)、 版にこだわるわけでもないし、 修正が効いている分だけ刷は新しい方がいいし、 落丁は困りますけど乱丁はあってもなくても構いませんし、 ようするに内容さえあれば本はどうでもよいわけです。 うちにあるこの漱石全集は数年に渡って主に暇つぶしに回っていた古本屋で なんとなく集まってきたものですが、 なんとなく買ったものだけに集まり方が中途半端で困っています。 具体的に書き出すと、以下の10冊だけです。

1吾輩は猫である (上)
2吾輩は猫である (下)
3坊つちやん 外七篇 (倫敦塔, カーライル博物館, 幻影の盾, 琴のそら音, 一夜, 薤露行, 趣味の遺伝)
4草枕, 二百十日, 野分
5虞美人草
6坑夫
8それから
9
10彼岸過迄
11行人

おそらく7巻は「三四郎」だろうし、あとは「こころ」「道草」「明暗」あたりが 残っていて、 その他書簡集とか評論とか俳句とかがあるんだろうという予想はできます。 先日自宅にあるこの漱石全集を一気に読み直してみたのですが、 読み直してみると、なぜか抜けを埋めたい気になってくるようです。 いや、なくても困らないんですけど、 こういう感覚が蒐集癖の始まりなのかもしれないと感じる今日この頃です。


Created: 2002.03.28

Kaname Funakoshi [home] [mail: kf @ pobox.com]