whisper


服部がこっちの大学を受けて、一緒にいるようになった。
上京してきて、近所に部屋を借りて。しょっちゅうお互いの家に遊びに行った。
そのうちに、なんだか真剣な顔で告白されて。

それが1ヶ月前。

正直、びっくりはした。けど。
嫌悪感はなかった。どっちかというと嬉しいくらいで。そんな自分に一番驚いた。
服部と一緒に居るのは居心地がよくて。
…でも素直にそれを出すのも悔しくて、未だに俺はあいつに何も伝えられないでいる。

「…わかった」

俺の口から出たのはそんな言葉だった。


  


「たまにな」
「え?」

毎度のコトながら、遊びにきていた服部が突然話を変えた。
その一月前のことをぼんやり考えていたので話が耳に入ってなかった。

「世界中に、工藤が好きや〜!!って叫びたい時あるんよ」

結局の告白を受けたのか受けてないのかはっきりしないまま、こいつは側にいる。
口でだけは「好きだ」と言ってくるが、行動には出さない。
多分、俺が何も言わないから。…言えないから。
「わかった」という台詞は服部の好意は受け取るだけで、俺がどう思っているかというのは伝わらない。

「バカかお前」
「バカて言うなて。せやかて、ホンマのことやねんもん」

関西人にバカって禁物やって言うてるやろ?
とかなんとかバカばっかり言って。
お前の何十分の一でも素直に口に出せたらと思うけど。
出したら工藤新一じゃ無くなってしまう気もして。
…それに今更だよなぁ。

「…やってみろ。二度とお前の側になんて寄らねーからな」

こんな冷たい台詞ならいくらでも言えるのに。

「工藤冷たい。でもなvもっとええコト気づいたんよv」

嬉しそうに服部が笑う。太陽みたいだって前に女子が噂してたな。
告白されたからなのか、そうされる前からかもうわからないけど。
こいつの笑顔に多分、…俺は弱いんだと思う。

「…なんだよ」

口から出る言葉は、頭とは連動しない。

「叫ばんでも、声小さくてもええんや、て」
「?」
「せやからこぉやって」

ゆっくり服部が近づいてくる。何やら心臓の音がさっきから耳のすぐ側で聞こえる。
肩に手が置かれて、見慣れたはずの、見たこともない顔が近くにきて。
一瞬身体と心臓が跳ねる。
ぎゅっと目をつぶると、近くで微かにくすり、とあきらめたような笑いが漏れた。

「……好きやで?」

耳元に小さな小さな声が落ちる。俺にすら聞こえるかどうか、というくらい小さく。
微かに触れた吐息。
低くて…甘い声。
初めての感触に顔が赤くなるのがわかった。

「なっ」

こいつ、自分の声がどんだけイイのかわかってるのかっ?
耳を両手で押さえて後ずさる。が、服部の腕に捕われたままで。

「お前にだけ聞こえれば、叫ばんでもええんやって。
 声小さくても、聞こえる距離に、届く距離におったらええんやて思ったんよ」

そっと服部が抱き寄せてくる。いつも行動には移さなかったのに。
告白された時だけだった。
約1ヶ月ぶりの、2度目の抱擁。
俺は何も答えてやってないのに。…冷たい態度ばっかりで。


  


「…キス、してもええ?」

耳元で聞こえた台詞に身体が一瞬強張った。キス?
すると服部の大きな手が頬に触れ、そのゆっくりとした感触に酔いそうになる。

声が出ない。
嫌なわけじゃない。
むしろ…。

ちょっと待て。…むしろ?何?
自分の考えに愕然とした。顔が熱い。
赤くなった顔を見られたくなくて下を向こうとする。

「工藤…嫌なら嫌て言うて?」

言いながら服部の手に力がこもり、上を向かされる。
目をそらそうとすると、思いがけないほど切ない服部の表情。
見るのが辛くて目を閉じる。

「…工藤。顔見んのも嫌、か?」
「違うっ」

勘違いされそうで、あわてて目を開ける。
目の前には一月前と同じ…真剣な表情。

「…堪忍な。そないな顔させたかったんちゃうんやけど。
 でも言われんと俺、勘違いしてまうんよ。…工藤も俺のこと好いとるって」

俺がちゃんと返事しなかったから。出来なかったから。
そういうそぶりは見せなかったけど、やっぱりコイツも困ってたんだよな。

お前こそ何て目してんだよ。

…させてんのは俺か。


  


しばらく考えて、言葉に出せないならせめて態度で表そうと決心する。

服部は目を閉じている。いつもの強気な瞳が見えない。
幾分緊張した、静かな表情で。
…自分からの答えを待って、いるんだろう。

悪ぃ、言葉には出来そうにない。
お前みたいに、素直には。

ふ、とひとつ溜息をついて、服部の頬に手で触れて。
目を見開く服部の唇にゆっくりと自分のそれを合わせて目を閉じる。


乾いた感触が唇に触れる。


そして同じ位ゆっくりと離れて、一言告げる。


我ながら酷い言葉だけどま、いいか。解かれよ?探偵。

「バーカ」 
「く、くどぉ??」

目をしろくろするってこんな感じなのかな?

よくよく考えると、口で言うより恥ずかしいことをしたのかもしれないが、
目の前の相手の表情にそんな考えは吹き飛んだ。

なんだか久しぶりにすっきりとした気がする。
笑いがこみ上げてきて、思わず漏れてしまう。
呆然とする服部って、かわいいかも。

「めっちゃ嬉しいねんけど。なぁ、工藤、お前…?」
「探偵だろ?自分で答えに辿り着けよ」
「それとこれとは違うやんか〜」

笑いがしばらく止まらない。
やっと収まった時には、目の前に服部の顔。
見詰め合って、もう一度キス。
もう、答えはわかっただろ?


  


「いつか、ちっさな声でええから、好きて言うてな…?」

ぎゅうっと服部の腕に力が込められる。少し息苦しいけど、それすら嬉しくて。
いつの間にこんな気持ちになったのか、自分でもわからないけど。

「いつ言われても聞こえるよう、ずっと側に居らせてな」
「そんなのお前次第だろ」

そういって、ずいぶん長いこといた気がするあいつの腕の中から抜け出した。
そう簡単に素直になれる筈も無く、態度も多分このままだけど。

後ろで何か言ってるけど知らねー。
冷たい?だってそんなの知ってて、俺がいいって言ったんだろ?
でも、本当にお前次第。

囁かれたら、俺の負けかも。



fin.






風邪ひいて、布団の上で本読み漁ってたら思いついた話。
本当にどこにでもあるお話しか書けませんね。
私にしては、甘い話なんですけど。どうでしょうね?

やっぱりちょっと訂正が(^^;;(3・12)