誰も知らない理由
風薫る5月、緑が綺麗だ、なんてのは心の余裕が無いと目に入らない。
でもまぁ、風はさわやかだし、過ごしやすいのは良いことだ。
黄金週間は終わってしまった。
始まるまではあれほど待ち焦がれていて。
ずいぶん先のことだと思っていたが、過ぎてしまうとあっという間だ。
GWの只中に、愛しいの人の誕生日があるのはとてもありがたく。
学校の帰りにみんなで飲みに行かなくても良いし、
まぁ、誘われることがあっても予定があるから、と断われる。
いや事実、何件も断わった。
それはもう、何件も、何件も。
だから、二人っきりで過ごせると安心していたのに。
唐突に現れたマジシャンが、二人の時間を奪ったのだ。
これを怒らずにいられようか。いやない。(反語)
「よ、服部♪珍しい、一人?」
「何や、黒羽か」
「何だよ、ご挨拶だな。もしかしてまだ怒ってんの?男の独占欲はやだねー」
新一との関係を唯一知っている友人、黒羽快斗。
マジシャンとしての腕は、折り紙付きだ。それは認めよう。
明るく軽いイメージとは裏腹に、色々ちゃんと見てる。それも知ってる。
「うるさいわ。人のスイートvな時間、邪魔しおって」
「誕生日にマジック見せる約束してたんだって言ってるじゃんか。
いつもより仕込みもサービスしたんだぜぇ。鳩だって、薔薇だって」
「当然や」
そう言うと、苦笑しながら新世紀の魔術師は一輪の薔薇の花を空中から取り出した。
いつも何処に仕込んでいるのやら。ご苦労なことだ。
「ほい。お詫びにやるよそれ…ってあれ?そーいや服部の誕生日って、俺知らないんだけど」
「お前になんて、教えたらん」
「ケチ」
「オレん時まで邪魔されたら、かなわんもん。
オレは工藤が祝ってくれたら、あとは誰からも祝ってもらわんでもええんや」
かなりのところ、本音。
まぁ、ちょっと調べればすぐにわかるのは知ってるけれど。
ささやかな抵抗、ということで。
「ひっどいなぁ。もう。いいもん。新一に聞くもん。あ、新一〜vv」
言い終わらないうちに、黒羽は貰った筈の薔薇をいつのまにか持って、
走って行った。
…やはり失礼な男だ。
だが、コイツおかげで滅多に貰えない、優しい言葉を貰えたのだから。
ほんのちょっとだけなら感謝してもいいのかもしれない、なんてな。
あの日、不機嫌なままキッチンでコーヒーを煎れていたオレに近づいてきて、
仕方ねぇな、と苦笑しながら耳元に囁かれた言葉。
「…お前のB・Dは、二人っきりで祝ってやるから」
さっさと機嫌直せよ、そう言ってポンと背中を叩いて黒羽のマジックを見に戻って行った。
もちろん最初からそのつもりではあったのだけれど。
自ら言ってくれたのが、なんだか嬉しくて。
他の誰にも邪魔はさせない。
―――――これが、誰も、知らない理由。
fin.
青山先生。
お願いですから、彼の誕生日を教えて下さい。
…ええ、邪魔なんてしませんから。
|